時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ノワ |
盗賊ノワは、今夜盗みに入る予定を取りやめた。 半月前から狙っていた貴族の屋敷で、その貴族は自分の領地でオルオラとの違法な密貿易を行い富を築いている。ソーンの屋敷にもカネが唸っているはずで、それを狙っていたのだが……。 ノワは嫌な予感がしたのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ヴェステルナ |
黒王女ヴェステルナは、その男の良く動く舌をぼんやりと眺めた。 「税金逃れは大罪でござる。処刑は樹前式で?」 「まぁ、そうだが……」 歯切れの悪いヴェステルナに、彼はずずいと進み出る。 「臣下の罪は主の罪。国法にて決まっておりましょう」 「では私の罪か」 |
時間 | 朝 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
グルーヴィー・ハイブランダーは、久しぶりに朝いちばんをホウドロホウ、とやかましく吹き鳴らした。 空は晴れ、いい気分だ。 なにもかもうまくいって、彼女の夢も叶うといいのに! |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヴァネッサ |
裏町の調毒士ヴァネッサにとって、昼は眠る時間のはずだった。 しかしながら、彼女はいまだベッドの中で悶々としている。 眠れないのだ。 「しまったなぁ……」 ヴァネッサは何度目かの寝返りを打つ。 売り出そうと思って自分に試した眠気覚ましが、強すぎたのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ウリエラ |
深夜、錬金術師ウリエラは自室でさながらアスレチックだった。 実験に必要な資材を探しているのだが、それはおそらく、部屋の隅にあるあの青い箱に入っている。 わずか数歩の距離だが、彼の雑然とした部屋では、荷物をかいくぐって辿り着かねばならないのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ルミア・バリシス |
オーリエル学院生ルミア・バリシスは機嫌がいい。 一角獣の森亭で、彼女は鼻歌交じりにグラスを傾けた。 向こうで身なりのいい男が数人の供を連れて飲んでおり、彼女はそれを横目にしながら、(学院長の財布で)杯を空にした。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ミリアルド・ロンズ=シアンクラウン |
公子ミリアルド・ロンズ=シアンクラウンにとって、それは切り捨て可能な問題だった。 プロタ・リズマの貴族に密貿易を手配していたのは事実だ。 だがその相手が、どうやら欲をかいて、文字通り虎の尾を踏んだ。 彼はメシュ・メシュを前にめまぐるしく計算する。 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ロック・トライボー |
虎の鰭亭で、ルティンに一杯ごちそうになったロック・トライボーは、珍しく自分の武勇伝ではなく故郷の話をする。 「ウチの故郷には川が流れてるんだ。そこに、よくオルオラの船が入っていたよ。夜中に」 ロックは懐かしく思い出す。 「落書きして遊んだんだ」 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ダイン |
店の前を掃き清めていたダインは、供回りを連れた妙に身なりのいい男に道を尋ねられる。 「ノシュマンさんの店なら……」 彼は親切にも教えてやるが、その高慢な態度は気に入らなかった。 「あの小僧の死に装束を拝みにな」 貴族はそううそぶきながら歩み去る。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ハノワリ |
街外れの高い木の上で、その梢に立つハノワリは一人、眉をひそめた。 雲が早い。 湿気を帯びた風が、彼の翼にまとわりつくように流れる。 「これは……」 嵐の予感に、ハノワリは翼をはためかせる。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
メシュ・メシュは紙束をどさっと下した。 そこには、プロタ・リズマの貴族について彼女が集めた情報が蓄えられている。 不正を行ったある家を激しく追及する別の家がある。 その家の“弱み”を探るのだ。 彼女はにやりと笑う。 「ま、利害の一致だね」 |
時間 | 夕方 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | アキレァ |
夕暮れが早くなるこの時期の夕方の試合は鬼門だった。 アキレァは長剣を翻し、距離を取る。 もうちょっと季節が進めば、この時間帯の試合はなくなるのだが…。 「言ってもいられないさ」 目の前の白狼は夜目が効く。 長引けば不利になる一方だ…。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルミア・バリシス |
ルミア・バリシスは昼食を食べ損ねた。 「あの小娘め。人使いの荒い……」 彼女は形のいい唇をとがらせて文句を言う。 「あれ? ルミアちゃん、学長に呼ばれてたんじゃ」 後ろからエストリフォに声をかけられ、ルミアは慌てて美少女顔で振り返った。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
突然の来客を見送って、“ちび宰相”メシュ・メシュは、すっかり冷めたお茶をぐいっと飲み干した。 優しい訪問者だった。 「あたしがリフォちゃんより先に、お姉さんに会ってたら…」 ひょっとしたら、あの黒衣の美女のために辣腕を振るっていたかもしれない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | リア・エイリコ |
獣人種の料理人リア・エイリコはふかふかのベッドに大いに満足していた。 普通の広人種が使うベッドだと、彼女の大きな尻尾が邪魔になって寝苦しい。 しかし虎の鰭亭でのお給金をためて買ったこのマットレスはどうだ! ふかふかで、彼女の身体にぴったりくるのだ! |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ヴェステルナ、 ルティン |
身分を隠して虎の鰭亭に座る黒王女ヴェステルナは、珍しく酔っていた。 「私は無力だ」 ワインを飲み干して、彼女は友人のルティンの肩に頭を預ける。 「ヴェステルナ」 ルティンは彼女を気遣った。 「お前にできないなら、できる奴に頼めばいいじゃないか」 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
その日の昼、ドクトル・ハニィマシューはおおいに暇であった。 彼の医師業は、彼が得意げに語る予防法を患者が実践すると、いかさまこうなるのだ。 「しかしあたしは善人だからね」 彼は銀色の目を細めて口を尖らせた。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | リーズ、 アリス |
学生のリーズは、久しぶりに身軽に登校する。 いつもかついでいる棺を、今日は持っていないのだ。 「あれ? あの子は?」と、アリスに話しかけられ、リーズはぷっと頬を膨らした。 「喧嘩したんです!」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ノシュマン |
一領の騎士甲冑は、子供の身体に合わせたものだ。 職人や秘書を帰らせて一人になった工房で、自分で淹れたコーヒーの匂いを楽しみながら、ノシュマンは満足げにうなずいた。 注文したあの貴族の少年はこの儀礼用甲冑でどこに出るのだろう。 細やかな金飾りが揺れた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ヴェステルナ |
「なんとかならんのか」 王女府の一室で、黒王女ヴェステルナは呻いた。 ある貴族が、ひそかに税を逃れていた。 明るみに出た以上、処罰せねばならない。 主犯の家令はもとより、その主人である貴族もだ。 彼女は、彼が齢十にも満たない少年であることを知っていた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | エクス/ グルーヴィー・ハイブランダー |
夕方、エクス商会の商会主であるエクスは、港に船を見に行った。 物騒なので、と、カフェのアルフレドにグルーヴィー・ハイブランダーを護衛として付けられているが、エクスはどこで彼女をまこうかと考えている。 |
時間 | 昼 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | ザクロ |
浴場ラ・メル・ソーンの近くでマッサージ店を営むザクロは、腕を組んで首を傾げた。 施術台にうつぶせになる老人は、ここまで数人の聖職者にかつがれてやってきたのだ。 「……病院の方が先じゃないかと……」 ザクロは医者嫌いの老人にため息をついた。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル/ アルトレーゼ |
ジークヴァルト・クラウス・ディッペルはようやくベッドに運ばれうつ伏せになったままうめいた。 老聖職者は、聖騎士アルトレーゼがやっている朝の体操に、年寄りの冷や水にも参加したのだ。 結果として彼は腰を痛め、さっき抜け出したベッドに逆戻りとなった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | エリク・ヤヌシュ |
エリク・ヤヌシュは焚き火に薪を投じた。 少し大きすぎたらしく火が弱くなる。 彼はじっと焚き火を見つめ、ぱちぱちという音と乾いた薪の燃える煙が真上に登っていくのを楽しんだ。 明日は晴れるに違いない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | マスラオウ |
彼は一人、住処としている部屋の椅子に座り、大きな手で小さな針を動かしていた。 刺繍を傷つけないように、破れた部分に当て物をする。 彼にとっても大切な衣装だが、彼のファンにとっても大切なものだろう。 マスラオウは、すべてのものの後ろにファンの姿を見るのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
メイ・アサーシャの大道芸はすっかりこなれてきた。 ジャグリングも得意だ。 「楽しくなってきちゃったな」 彼女はいつも集まってくれる子どもたちにウィンクすると、言う。 「さ、今日はおしまい! みんなお家に帰りな!」 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルイス・キャロル/ アリス |
ルイス・キャロルはしばしば昼食を摂らない。 一つに集中するとそれどころではなくなってしまうためなのだが、最近はそんなときでも昼食にありつくことが増えた。 アリスと同居するようになって、彼女が得意げに持ってくるのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | ギネヴィア |
その武装旅団の今夜の不寝番はギネヴィアだった。 ぱちぱちと爆ぜる焚き火を眺め、馬車の車輪を背もたれにし、彼女は結構気分良く夜風に髪を任せた。 唇からいつしか故郷の歌がもれる。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ノシュマン |
その仕事は実を言うと結構楽しかった。 ノシュマンは久しぶりに鉄に火を入れ、鎚を握って一領の鎧をつなぎあげた。 貴族の坊っちゃん向けで、たまたま採寸を彼が行ったのが縁だ。 現場から離れて久しいが、ちょっとわがままを言って最後までかかわらせてもらったのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
獣人種のブロックマルツは、裏町の一部を仕切っている。 彼は若い衆を呼びつけた。アジの照り焼きを食べながら言う。 「最近小僧どもが跳ね回ってるそうじゃねぇか」 「はぁ」 「お前のとこだろ。躾けとけ。学院長サンの耳に入ったって言うぞ」 「へい」 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | シュリゼルト |
ヘトヘトで戻ってきた新人騎士たちに、シュリゼルトは涼しい顔で紅茶を出した。 「これは五種類のハーブが入っていますから、元気になれますよ」 一見優男風だが、彼と手この過酷な訓練に耐えた騎士の一人なのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | ロック・トライボー |
ロック・トライボーはようやく早朝の荷降ろしアルバイトから解放され、大きく伸びをした。 しかしのんびりはしていられない。 「腕がなるぜ」 彼はうきうきと虎杖門に向かう。 今日は隊商の護衛の仕事があるのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ネオーマ |
「やめときゃよかったぜ」 ネオーマは普段は自分でエルディカには入らない。 しかしちょっとした諍いで、まさに売り言葉に買い言葉。一人で慣れないエルディカ探索をするはめになったのだ。 暗い迷宮を一人、彼はとっておきの明かりをつけて歩く……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | イオナ・ロウグラ |
イオナ・ロウグラはむっつりと黙り込んだ。 仕方なかったとは言え、言われるままに学院裏手の鍵を破ったのは彼女だ。 イオナはふーっとため息をつく。 でもあの子はみんなが助けに来てくれてた。 それはとても美しくて、彼女にはあまりに眩しかった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アルトレーゼ |
聖騎士アルトレーゼは、夕暮れになって家路につく子どもたちを見送った。 子供は無邪気だ。少なくとも、大人の思惑とは無縁でいさせてあげたい。 実家の事情を思い出し、彼女はふとため息を付いた。あの子らのころ、自分はどんな子供だっただろうか。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ エストリフォ |
深夜に学校を抜け出した生徒たちは、休日だと言うのにこっぴどくお説教をされている。 おとなしく説教を聞くファコン・ソルフィネアに、彼らが抜け出す間先生たちを引きつけていたエストリフォが耳打ちした。 「次は、わたしも連れて行ってくださいね」 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ マトリ/ ルー |
ちんぴらどもをぶちのめしたファコン・ソルフィネアは、勝利の暁にぐったりと拳を掲げた。 マトリは檻から小さな友人を取り出す。 「わん!」 茶色い子犬は尻尾を振り、彼女の腕に飛び込んだ。 「子犬?」 ルーがきょとんとする。マトリはファコンを見ずに言った。 「すまなかったね。犬なんかのために」 ファコンは腫れた顔でそっぽを向いて、それからぼそりとつぶやいた。 「友人の友人なら、俺にとっても友人だ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ ハナン |
「そこまでだ!」 友人の閉じ込められた檻にすがり、ただ殴られ続けていたマトリの背中から、やたら元気な声が飛ぶ。 ファコン・ソルフィネア率いる一党である。 様子がおかしいことに気付いた彼は、ハナンに頼んで追跡してもらったのだ。 裏町に乱闘が始まる。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | マトリ |
鬼人種の学生マトリは、本来この時間にこんな場所にいてはいけない。 だが、彼女は今、この裏町に立たねばならない理由があった。 「本当に来やがったぜ、この女」 ちんぴらが笑い、後ろの檻を指す。 「お友達が大事なら、素直に殴られな!」 マトリは唇をかんだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ウィク・イグナイター |
錬金術師ウィク・イグナイターが得意とするのは、火薬をの作成とその活用である。 彼女は綿密に計算し、鉱山の一つに注意深く爆薬を仕掛けた。 坑道から出たウィクはがっくりとする。 夕暮れでもわかるほど、せっかくの白い服が真っ黒になっていたからだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | エニシ |
メイドのエニシだが、優秀かどうかと言われると疑問符が付く。 「何してるの?」 お屋敷のお嬢様が首を傾げ、エニシは慌てて皿を置いた。 「お嬢様のお食事の……ング。お毒見です」 「おいしかった?」 「とても」 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エイミィ・イッシュ |
ぐぅん、と風車が回る。中から小麦を挽く音がごとごとと響き出す。 「いやぁ、ありがとうね」 農夫のおじさんはにこにこして銀貨の袋を差し出した。 エイミィ・イッシュは照れて笑う。 樹法で温度差を作ることで風を吹かせたのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
用心棒として色街に雇われたグルーヴィー・ハイブランダーは、まったく用心棒としての仕事が出来ていない。 「ね、次これ着てみてよ」 「ダメよそんなの。女の子よ? この色の方が合うわ」 首の白い娘たちに囲まれ、グルーヴィーは目を白黒させた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | リズベット・ルー |
リズベット・ルーは青くなった。 彼女は薬物を扱っているが、誰に売るかはある程度選別しているつもりだ。 しかし、売った相手が盗まれたらしい。 「あんたのせいじゃないよ」と、チノは言ったが、自分の薬で死人が出たことは、彼女にとってショックだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | シヅキ |
鬼人種の武闘家シヅキが一人杯を傾けていると、一人の鬼人種の男が彼の隣に腰を下ろした。 重い金棒が、テーブルに立てかけられる。 シヅキは面を下ろし、その男を見た。 「よぉ、シヅキ……」 そいつは面の奥で言う。 「表に出な。借りを返しに来たぜ……」 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
オーリエル学院生であるファコン・ソルフィネアはその日昼食を摂り損ねた。 お小遣いは潤沢にあったのだが、課されていた宿題を丸写ししたのがバレたのだ。 「効率的でいいじゃないか」と、彼は口をとがらせる。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アミュレ・セフィーラ/ トビア・サンチェス |
王立樹法研究院に勤めるアミュレ・セフィーラは器用にお弁当を拵えた。 小さな箱にサンドイッチや果物を詰める。 「お前さんは全く真面目で、小人種らしくないな」 通りかかったトビア・サンチェスは感嘆し、アミュレは微笑む。 引っかかった、引っかかった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア/ ハナン |
大事な楽器を無くした、とかで半べそをかいたままのフィアマ・ソルフィネアに、ハナンはとうとう見かねて口を出した。 「その楽器って、どんなもの?」 「え? その、赤くて銀の飾りのついた笛ですの……」 ハナンは失せ物探しの“いたずら”を使う……。 |
時間 | 夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ネオーマ |
エルディカに出入りする商人ネオーマは、このチャンスを逃すつもりはなかった。 先日起きたちょっとした地震で、どうやらエルディカ内の構造に変化があったらしい。 「まだ未探索の区域とつながったはずだぜ」 彼の言葉に、冒険者がエルディカに挑む。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ウィク・イグナイター |
爆発物を得意とする錬金術師ウィク・イグナイターの倉庫には、しばしばその在庫を狙うやからが来る。 彼女はそういった者には販売しないので、つまり盗みに来るのだ。 そしてその多くは、爆弾の威力を味わうことになる。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アリス/ ルイス・キャロル |
アリスは一人、双子都市ソーンの地下迷宮エルディカをさまよっていた。 同行したはずのルイス・キャロルとはぐれたのだ。だが不思議と、アリスは安らいでいた。 ここが彼女の故郷なのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
“ちび宰相”メシュ・メシュには敵が多い。 若いながら白王女の後見役としてソーン西側の運営を一手に取り仕切り、恐るべき情報網で議員たちの支持を取り付けてゆく彼女を良く思わない者も少なくないのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ヤルドレド |
暗殺者ヤルドレドは、その朝をソーンの地下にある教団ではなく、街外れの宿屋で迎えた。 仕事をすると褒められる。 この世界に存在してもいいのだと思える。 誰かの存在を終わらせて得る存在承認で、彼は18年を生きてきた。 多分これからも。 |
時間 | 深夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
双子都市の出入りは大門を使うのが普通だが、実をいうとこの古い大都市には、いくつもの抜け道がある。 アルタイルはそのうち一つを知っていた。 「行けよ」 女性を一人、その抜け穴に押し込む。 これで彼女は、阿漕な借金取りから逃げられるはずだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
雲をつかむような話じゃないか。 メノウは鼻を鳴らした。 裏町組合に黙って“仕事”をしたやつがいる。そいつを探し出して捕まえろ、と来た。 そんな案件もう二十も溜まっているのだ。 組合の力が落ちているのだろう。 「お偉方も、ちょっと気合入れてもらわんとなぁ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー/ アリミナ |
久々のエルディカ探索に張り切るドクトル・ハニィマシューだったが、アリミナがゴーレムに乗っていることに気付いた。 「たいしたことありません。昨夜ちょっと、装甲を足の上に落として……」 ドクトルはうなだれる。今夜の探索はナシだ。 「診せたまえ」 |
時間 | 昼 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | シェック |
鬼人種の料理人シェックは、昼にもう一度港を覗きに行く。 大概の魚は朝に入荷するが、たまに戻り損ねた船が昼に仕方なく持ち込むことがあるのだ。 そうした魚は市場では売り時を逃しているので買いたたかれる……つまり、宝の山である。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アステール |
王立樹法研究院の麒麟児アステールは、憮然として座り込んだ。 大きな体を作る、と、同僚が自慢する牛乳を飲んだのだが、そのまま飲んだのが間違いだったらしい。 「うぅ……」 彼はトイレで脂汗をぬぐう。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アザミ |
鬼人種の学者アザミは、よくこうしてソーンの地下迷宮であるエルディカに挑む。 エルディカの内部には不思議な樹法具のほか、その壁材に至るまでが奇妙な物質であり、錬金術師である彼女の興味をかき立てるのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロック・トライボー |
昼の日雇いでとうとう目標額まで金をためたロック・トライボーは、意気揚々と行きつけのボロボレイト武器防具装飾店を訪れた。 「いるかい?」 覗き込んだ彼の目に入ったのは、二人の男が顔を真っ黒にして何か道具をいじっている姿だった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ヴォル/ シェルク・ウェスティン |
「ヴォル卿」 と、騎士シェルク・ウェスティンに声をかけられて、浪人ヴォルはうさんくさげに彼女を見た。 「よせやい。卿をつけられるほど落ちぶれちゃいない」 「実はその、不本意ながら助けて欲しいことがあって……」 そらきた。ヴォルはため息をつく。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
裏町の情報屋ヴェックマンの耳には街中の“うわさ”が流れ込んでくる。 もちろん、取るに足らないものも。 「デザイナー、メイ・アサーシャの新作が盗まれた? よくある泥棒じゃねぇの」 ヴェックマンはその情報を聞き流し、次のベリア議員のゴシップのほうに注目した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ |
牛の乳は実際栄養満点であり健康にいい。 体を鍛える樹法使いであるエイカ・ロロノトリは、毎朝この白い飲料を愛飲しているのだが、なにせ生ものなので鮮度が大切だった。 彼は特に頼んで、毎朝牧場から運んでもらっている。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | アキレァ/ シェルク・ウェスティン |
お腹いっぱいのアリーナ剣士アキレァは、この厄介ごとを早々に押し付けることに決めた。 たぬき屋に取って返し、うとうとしていたシェルク・ウェスティンに、エルディソン川に身投げしようとしていた女を押し付けたのだ。 「じゃ」 彼女は悠々と立ち去った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
それはちょっとした騒ぎだった。 スカーレットの経営する娼館で、酔っ払いが娼婦に、隠し持っていたナイフを抜いたのだ。 痴情のもつれだろう。 その場は下の酒場に居合わせた犬頭の素浪人が素手で取り押さえたが、彼女は用心棒の必要性を実感した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | キキ・テリヤ・ニートカ |
獣人種のデザイナー、キキ・テリヤ・ニートカは頭を抱えた。 せっかく作った新作の衣装が何者かに盗まれたのだ。 ある双子のためにあつらえた美しい白と黒のドレスだった。 商会を通さないキキには商会からの見舞金もない。 とはいえ、納品しないわけにもいかない…。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン |
「解った! 解ったわ! 屋根の穴よ! あの部屋は密室ではなかった! あの小さな穴から蛇を送り込んだんだわ!」 ラスグィル・ダルジェエリングは同居人のレイ・セラインの寝込みを襲うと叫んだ。 「素敵ね」 レイはたっぷりの寝坊を中断され、起き上がる。 |
時間 | 朝 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ガルム・ウォレス/ エレナ・ウォレス |
“番犬”とあだ名されるガルム・ウォレスは満足していた。 食卓に久しぶりにつくことができたからだ。それも家族全員で。 「すまないな、最近」 彼が謝ると、娘であるエレナ・ウォレスは微笑んだ。 「いえ。ヤエもいますし。お父様こそお体に気を付けて」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ルシェン |
酒場・虎の鰭亭の一室を今夜は旅の薬師ルシェンが借りていた。 奇妙な魔獣の仔であるミケと一緒に宿泊させてくれる宿は少ないので、ルシェンにとっては大助かりだ。 「お前が厩にいると、馬が騒ぐんだってさ」 ルシェンは月明りの下、相棒に語り掛けた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | スイ・フィラロイト |
「これを、買い取ってくれませんか」 すでに店を閉めようとしていたスイ・フィラロイトの店に、一人の老女が訪れた。 貧しい身なりだ。彼女はポケットから、銀の指輪を取り出した。青い宝石がはまっている。 「亡くなった夫からの贈り物なんです」 スイは目を細めた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
オーリエル学院生のファコン・ソルフィネアは、外国であるプロタ・リズマの学校に通いながらも人脈づくりに余念がない。 「この学校の男子寮はいかにもひどい。団結すべきだ」 彼は男子生徒たちに呼びかけ、女子による男子寮視察ツアーを企画する……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ゲルマン・オフチーンニコフ |
夜営業の酒場、宵闇の華亭に勤めるゲルマン・オフチーンニコフは、昼は活動時間外だ。 「う、うぅ〜ん……」 彼は薄い布団で、悩ましく寝返りをうった……。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シュネーバル |
その白髪青目の男は、出来上がったゴーレムに小躍りした。 「できた、できた、できましたよ!」 彼はいわゆる天才だった。ゴーレムがゆっくりと身を起こし、関節の隙間に青い炎がちらつく。 シュネーバルはにんまり笑うと、言った。 「お洋服が必要だなぁ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | ヨルダ |
普段はスラム街である魔香街カプノ・ドゥエイスで生活しているヨルダは、深夜に何となく、比較的治安のいい区画である青銅広場に足を延ばした。 仰々しいゴーレムが睥睨し、彼女は肩をすくめる。 ここはお前の場所じゃない。そういわれているようで。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト/ ロア・フィーリス |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは、ロア・フィーリスに見せられた異国の道具を興味深げに見つめた。 「ここでお湯でも沸かすんですかね……?」 「それでどうなるっていうんだ」 「さぁ……」 オルオラの奇妙な道具は、二人の職人を悩ませた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ルー |
オーリエル学院生のルーは、現在のところ寮ではなく市内の師匠の家に住んでいる。 彼女は帰り道に夕食の材料を買って帰ると、師が炭を熾す間に一通り武術の型をこなした。 これが平穏な日常だが、最近ふと思う。 今頃学校のみんなはどうしているだろう。 |
時間 | 昼 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | リッカ |
「石鹸は薔薇の香りのやつを5つ、それから新しい糸瓜の干したの!」 市場にやってきたリッカは、大きなずだ袋にぽいぽいと職場で使う品物を入れていく。 公衆浴場ラ・メル・ソーンに勤める彼女の大好きな時間だ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ノシュマン |
騎士甲冑は実戦用としては時代遅れだが、騎槍試合用や儀礼用としてはまだまだ需要がある。 現れた貴族の少年に、ノシュマンは頭を掻いた。 早すぎる。 工房で採寸する予定だったが、朝の工房には彼しかいない。 仕方なくノシュマンは久しぶりに巻き尺を手に取る……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 街外れ | 登場人物 | アルド |
音がして、墓守であるアルドは手にしたランタンを掲げた。 「けちりやがったのか」 墓石が動き、中から腐りかけた手がつき出す。探るように動くそれに、アルドは武器を抜いた。 死者の喉に落とす墓鉄をけちると、まれにこういうことになる。 死者に罪はないのに。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドロイ・トピアス |
夜型であるドロイ・トピアスは、部屋にひゅっと入ってくる風に顔をしかめた。 「レビィアだな……」 開けっ放しの窓を閉め、彼は再び椅子に戻って、それから義足の接続部を揉んだ。 冷えると痛むのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドロイ・トピアス |
夜型であるドロイ・トピアスは、部屋にひゅっと入ってくる風に顔をしかめた。 「レビィアだな……」 開けっ放しの窓を閉め、彼は再び椅子に戻って、それから義足の接続部を揉んだ。 冷えると痛むのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | アイ/ ヴァネッサ |
学者にして錬金術師である小人種のアイは、実験のついでにできた化合物を売却するために裏町にやってきた。 「フゥン」 それに目を付けたヴァネッサが、包みをつまんだ。 「いいわ。全部買う。どうせ表じゃ売れないでしょ」 アイは考える。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | マスラオウ |
アリーナの人気闘士である彼は、両腕の入れ墨を見せつけるパフォーマンスを決める。 見ていた少年たちは熱狂し、密林めいた四角いマットで光を背負うマスラオウを見つめるのだ。 彼は張られたロープを駆け上がり跳躍。 対する獣人の闘士も真っ向身がまえる! |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロア・フィーリス |
職人街の一角で修理屋を営むロア・フィーリスは、めずらしく徹夜をした。 なんでも直せる、と豪語する彼だが、持ち込まれた奇妙な道具に首をひねる。 聞けばオルオラの品だそうだが、仕組みが理解できない。 不本意だが、誰かに意見を聞くべきかもしれない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アイ |
その本の表紙は奇妙な手触りだった。なめらかだが、何となく暖かい。革とも木とも違う。 小人種の学者アイは、それをいきつけのゴルゴーナ図書館で見つけ、なんとなく気になって手続きを経ずに持ち出したのだ。 彼はその表紙を、まだ開いていない。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アステール/ アルフレド |
王立樹法研究院の樹法使いアステールは閉店を告げるアルフレドに、だいぶん上げ底した靴を不満げにかつかつと鳴らした。 「もうちょっと開けておいてよ。追われてるんだ」 「誰にですか?」 「五番街のマリーに」 「閉店です」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | マロン |
夕方の宿屋は書き入れ時だ。 城門が閉まってしまうので街に入れなかった旅人や商人が、マロンの勤める街外れの宿屋にやってくる。 双子都市ソーンの拡大にともなって出入りの手続きにかかる時間も伸び、結果として宿屋の売り上げも伸びる。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | キャンデロロ |
街外れの渓流に腰を下ろし、キャンデロロは瓶から動く水のタプタプを解放した。 昼飯を得るのに釣り竿など必要ない。 タプタプが勝手に横取りさえしなければ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シャロン |
長屋暮らしのシャロンは、とにかく薄い壁に悩まされているのだが、いつもは一日中うるさい隣人が今日は妙に静かだったのが気になった。 「いいことなんだけどさ……」 人に構いがちな彼は腕組みする。 「ちょっと様子を見るかな」 彼は立ち上がる。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
獣人種のベルゼ・カロンにはひとつ拘りがある。 継承国家文化圏とは別の文化である、鬼人種の衣装に大きな興味があるのだ。 しかし一般の商店にはなかなか並ばない。 そこで彼はこうして、自分の服を縫っているのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ヒルデガルト・リーデルシュタイン |
昼にあまり外出しないヒルデガルト・リーデルシュタインは、逆に夜に森に入ることがある。 彼女の乗る大蜘蛛のテオにせよ、視力の弱い彼女にせよ、闇は障害にならない。 キノコをひとつ、探しに来たのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ヤエ |
かつん、と義足を鳴らして、ヤエは西側の市場まで足を延ばした。 夕食の買い物で、本来であれば東側の市場でも用足りるのだが、久しぶりに一家が揃う食卓であると聞き、少しいいものを、と思ったのだ。 手に取った新鮮ななすびに、お嬢様の顔が浮かんだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
騎士ライル・クロイツァーは自宅に戻らない日が多いが、上司にとがめられ、今日は自宅に戻った。 曰く、「部下がいるならお前が帰らないと誰も帰れんだろう」とのことで、もっともだなぁ、とは思うものの、真面目一辺倒の彼としては、いささか暇を持て余す。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | レノ |
朝焼けを見るために城外に繰り出したレノは、秋桜の咲く丘に腰を下ろした。 海から渡る涼しい潮風が彼女の頬を撫で、秋桜を揺らす。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アザミ |
鬼人種であるアザミは、ぼろぼろの巻物に一筆を追加する。 彼女が幼いころからの研究を書き連ねた巻物で、つまりは彼女の、歴史である。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン |
急に大都会にやってきたファル・ワン・エンワンは情緒不安定だった。 友達もなかなか作ることが出来ずうつむきがちな彼女に、後ろから声がかけられる。 「おはよ」 振り向いたが、声の主はすでにいなかった。 ファルはためらいがちに虚空に言う。 「おはよ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
珍しく残業である。 ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは、工房で持ち込まれた籠手に細工を施していた。 真鍮で爪をつけ、有機的にうねる模様を打ち出してゆく。 その作業が妙に楽しかったのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
獣人種の武闘家メイ・アサーシャは、虎の鰭亭のウェイトレスである獣人種ルティンと、久々に故郷の話で盛り上がった。 涼しくなってくると、南の故郷が恋しくもなる。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | デュリン |
夕暮れ時。小人種のゴーレムマスター、デュリンは、桜花広場を一人、トンボを追っている。 思えば遠くへ来たものだ。最初はただの迷子だった気がする…。 「忘れちゃった!」 デュリンは笑ってトンボを追った。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | リーズ |
昼食時、リーズは背負っていた棺桶を下した。 学食のパンを食べていると棺桶から手が伸びて、彼女の皿から大事に取ってあるリンゴの砂糖漬けを奪おうとする。 リーズは「もぅ!」とその手を叩いた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
傭兵として一週間の期限で常備軍にもぐりこんだグルーヴィー・ハイブランダーは、朝の見張り塔で頬を膨らませた。 「平和だなぁ……」 「いいことじゃないですか」 同僚が干し杏をかじりながら笑うが、グルーヴィーは手柄が欲しいのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アーベン/ ルイーズ |
「しまったな……」 アーベンは、暗闇の中でため息をついた。 遺跡の探検中に、床に開いた亀裂に落下したのだ。ケガはないが、上がるのは困難だ。 待ち合わせに現れないことでルイーズが気付いてくれるといいが……。 「無理だろうなぁ」 彼は腕を組む。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | レビィア・トピアス |
アリーナ剣士レビィア・トピアスは早々にベッドに引っ込んだ。 今日の試合は散々だったのだ。勝ち負けではない。兎に角ダメだった。 丸くなる彼女の鼻が、甘いココアの匂いにひくつく。 「レビィア」 ココアを二つ持った弟が、そっとベッドの端に腰を下ろした……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | リース |
獣人種の調毒士リースはかぽかぽと蹄の音を響かせながら、たまの商売のために治安の悪いカプノ・ドゥエイスに向かっている。 彼は使い慣れた茶色の道具箱の他に、売り物の薬品を詰めた行李を抱えていた。 |
時間 | 昼 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
昼時、几帳面で慎重なドクトル・ハニィマシューは、決まってこのカフェ・ド・エクスで昼食を摂る。 選ぶのは、ちょっと高価なスモークサーモンのサンドイッチとコーヒー。 お金にうるさいのと同じくらい、彼は見栄っ張りなのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | イスラ |
錬金術師見習いのイスラは朝、師匠のために朝食を拵えるのが日課の始まりである。 彼女は腰に手を当ててフンスと満足げに鼻息を漏らした。 師匠の苦手なニンジンをたっぷり使ってやったのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ダイン |
ダインは腕を組んでいる。 工房の親方の事だ。学も品もない彼を拾ってくれた親方の誕生日が近い。 「よせやい。ガキじゃあるまいし」などと言うが、ダインはなんとか、日ごろの感謝を表したいと思っている……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 東側・六骨市場 | 登場人物 | アルバドヌフ/ キナ・ラトセラ |
金物商アルバドヌフは陳列棚を店内に引っ込めようと立ち上がり、それ熱心に見ている獣人種の少女に気付く。 「なんか出すッスかー」と、声をかけると、彼女…キナ・ラトセラは、ひとつをつまみ上げた。 「これに名前彫ってくれる?」 なるほど、観光客か。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | マグリア・A=ドラグ |
マグリア・A=ドラグは裏町を散歩していた。 まともな神経をしている一般人なら、ここは散歩道に選ばないだろう。 やぶにらみの男がぶしつけな視線を投げて来るが……。 「お互い様だね」 マグリアは涼しい顔だ。 |
時間 | 昼 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | アイ |
学者にして錬金術師であるアイは、ゴルゴーナ図書館の本をめくった。 古い羊皮紙は写本であり、分厚いわりにページ数は少ない。 そこに書かれた記録は、800年ほど前の症例集だ。 彼はそれを咀嚼するように読む。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
ヴェックマンは青くなった。 贋金造りが摘発されたという話は、彼の元には真っ先に入って来ていた。 虫が知らせたヴェックマンは、先日交換してやって手に入れたタレル銀貨を調べたところ……。 「マジよォ……」 そのすべては贋金だったのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ララ |
「ちぇっ!」 ララは口を尖らせた。重い財布と思ってスりとったものの、中身は銀貨ではなく妙な金型だったのだ。 「つまんないの」 ララはそれを川の長に投げ捨てた。 |
時間 | 夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
カプノ・ドゥエイスに踏み込んだルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、くだんの贋金つくりの現場を押さえることに成功した。 機材を押さえ、鋳造中の贋タレル銀貨を見つけたのだ。 しかし犯人はいない。 「逃げられたか」 ルイは悔しがった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
盗賊アルタイルは、見慣れない連中の出入りする廃屋に忍び込んだ。 最近妙な音がして、いつも煙が上がっているらしい。 そっと覗き込んだアルタイルは、そこで小ぶりの炉と、コインの金型を見つけた。 「こりゃすごいや」 彼はひゅっと口笛を吹く。 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | マリアンヌ・フィケ |
マリアンヌ・フィケの経営する酒場・たぬき屋は、いわゆる大衆居酒屋だ。 彼女の亡夫の夢だった店であり、彼女にここを離れるつもりはない。 「……」 しかしながら、経営自体は結構苦しいのである。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
「旦那、旦那」 ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、いつもの男に揺り起こされ、面倒そうに身を起こした。 「なんだ」 「いや、タレコミがありやして。なんでも贋金とか」 ルイは跳ね起きる。 ノードス騒動で活躍できなかったのを取り返せるかもしれない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アミュレ・セフィーラ |
小人種の研究院、アミュレ・セフィーラの私生活は困難である。 実に外面のいい彼女は、明日、この自室を訪れる予定の教授のために深夜までかけて掃除をしていた。 「ほう、綺麗にしているんだね」と言われるのが楽しみだ。 普段は散らかし放題とは思うまい! |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | アラワク |
店の奥の方で大声が聞こえ、アラワクはそちらを見た。 男が二人、慌てて声を潜める。 「スられただぁ? あれがないと次造れねぇぞ!」 「面目ねぇ」 「それどころか、足がつくかも……」 アラワクは興味もなく、シェイカーを振る楽しい仕事に戻る。 |
時間 | 夕方 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | レビィア・トピアス |
双子都市ソーンのアリーナは、ソーン建設時からある由緒ある施設だ。 レビィア・トピアスにはあまり関係のない話だが、“反逆者”エルディールの遺構が隠されているという。 とはいえ、鮮血の赤兎にとっては、今のお客の前で強くカッコよく戦うことが一番だった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
裏町の盗賊メノウは顎を撫でた。 「贋金を流してるやつがいるって? 組合通さずにか」 「へぇ」 子分の持ってきたタレル銀貨は精巧で、特におかしな様子はない。 「六骨市場の金物工房で見つかったらしくて。そいつが言うには贋金だと」 メノウは片眼を細めた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ノエル |
真鍮広場で軽食を出す屋台を経営しているノエルは、徐々に涼しくなる朝の空気を感じてひとつ伸びをした。 温かいスープはまだ必要ではないだろうが、ソーンの長い冬が近づいてきているのを感じる。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス |
ガルム・ウォレスは、ここしばらく外出していなかった。 机の前で、樹法の青白い明りを頼りにペンを走らせる。 「……」 死んだ兵士たちの遺族への手紙である。 これだけは自分でやる、と、彼は主張していた。 |
時間 | 夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アフィーネ/ アルトレーゼ/ ジークヴァルト・クラウス・ディッペル/ ジャン・ジルベルト |
アフィーネは積み上げられた銀貨に手を叩いた。 “いいとこ”の出であるアルトレーゼもさすがに目をぱちぱちする。 「ベリア氏からの寄進じゃよ」 ジークヴァルト・クラウス・ディッペルは素直に喜んだが、盗賊でもあるジャン・ジルベルトは首を傾げた…。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | ルルク・シェンツァ |
魔香街カプノ・ドゥエイスでは、住人はめったなことでは驚かないし、気にも留めない。 しかし調毒士ルルク・シェンツァは、この区画の住人たちに興味を持っていた。 「さて、なんだろうね」 彼女は、最近妙に金属音のする建物にも注意を払っている。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ヨキ |
獣人種のヨキは、護衛対象を選ぶ立場にない。今、護衛しているのは、たっぷりとした緑の上着を着た貴族だ。 「ベリア殿」 貴族の向かいに座る成金風の男が、彼に箱を差し出した。 中にはぎっしりとタレル銀貨が詰まっている。貴族はにやりと笑った。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | スズラン |
ゴーレムマスターのスズランは一人、ぽつんと朝の桜花広場に立っている。 友達になったはずの男を、ここ数日見かけないのだ。スズランはぼんやりした。 思えばあの男の名前も知らない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
「まったく、理解に苦しむね!」 ドクトル・ハニィマシューは憮然とした。ベッドには獣人種のアリーナ戦士が座っている。 試合の怪我を縫ってもらいに来たのだ。 「なんでそんなにケガするのが好きなのかねェ」 獣人は照れたように笑った。 「褒めてないよッ!」 |
時間 | 夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
突き出された小箱には豪奢な指輪が入っていて、スカーレットは艶然と微笑んだ。 「お客様、ここは一夜の夢を見るところ。夢は持ち帰ることはできません」 彼女はそれを付き人の少女に持たせると、一番高い酒を持ってくるよう命じた。 夢は夢のままに…。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ロア・フィーリス |
獣人種の盗賊ララは、赤盾市場を踊るように歩く。 もちろんただ歩いているわけではない。ぶつかったフリをして、成金風の男の懐からずしりと重い袋をすり取り、代わりに素早く石ころを入れる。 「ごめんねっ!」 と笑顔を向けて、ララはその場と立ち去った。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロア・フィーリス |
ロア・フィーリスの修理工房はにわかに忙しい。 壊れた金物や細工物が持ち込まれ、ロアはその対応にてんてこまいだ。 人々はこうして日常に戻ろうとしている。積み上げられた品物を見て、ロアは頷くのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | アリミナ |
アリミナはゴーレムを慎重に固定具に吊り下げた。 ゴーレムは自己修復したりはしない。きちんと故障個所を調べ、部品を組まねばならない。 人種の身体よりもよほど繊細だ、と、彼女は知り合いの医者を思い浮かべた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | リーズ |
オーリエル学院女子寮ですやすや眠るリーズには、個室が与えられている。 彼女のゴーレムが、彼女自身に完全に制御できないためだ。 これを制御するには、リーズにはもうしばらく勉強と訓練が必要だろう。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ナーレドルヴァ |
ナーレドルヴァは真新しい墓石を撫でた。 おそらく生前好きだったものなのだろう。供えてあった砂糖菓子を彼女は取り上げた。 このままにしておくと、獣が来る。 「あなたはもう、食べたよね」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | イゾー |
流れの用心棒であるイゾーは一人、宵闇の華亭で杯を傾けている。 場所は決まって、壁を背にして表口と裏口のどちらも見えるテーブル席。 からん、と、表口が空いて、禿頭の男が片手を上げて彼に合図した。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
裏町の情報屋ヴェックマンは思わず鼻歌を歌う。 プロタ・リズマの貨幣をレゴスメントで使いたいから、という客がいて、彼は結構な量のタレル銀貨を受け取って、手を回して手に入れたスム銀貨に交換してやった。 後ろ暗いカネなのだろう。 よくある話だ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | カアラ |
双子都市ソーンの守備隊がノードスの撃破にわいていたころ、彼女もまた死線をくぐっていた。 「やつは一体ではない」 そう教えられたカアラは一人、別のノードスと切り結んでいる。 かすれば命とり。 それはカアラ自身よく分かっていた。 青い目が炎を引く。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | ウィク・イグナイター/ アリミナ/ ライル・クロイツァー/ アステール |
ノードスとの戦いは深夜までに及んだ。 ウィク・イグナイターの爆薬で足元に穴をうがちアリミナのゴーレムに加えて現れた謎の自動人形が組み付き、ライル・クロイツァーの騎士隊が突撃をかける。犠牲のもとに現れた亀裂に、アステールらが破壊の樹法を投射した。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | ガルム・ウォレス |
「囲め!」 農場に入ったノードスは、全身のひび割れから青い炎を上げて次の生贄を探すように頭に当たる部分を振った。 兵士たちの死体を踏みつけながらゆっくりと歩く。まっすぐ進めば、ソーンだ。 「たった一体相手でこれか」 ガルム・ウォレスは唸った。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
裏町の重鎮であるブロックマルツの貸金業が、ここのところ調子が悪い。 高利で取り立ても厳しいが、回収困難な相手にも貸し出す闇金業だ。 一定の需要はあった。 とはいえ借り主がいないと成り立たない。 「はてな」 書類を眺めて、ブロックマルツはヒゲを揺らす。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、砦の自室でふてくされた。 ノードス討伐分隊から外され、市内の警邏隊に回されたからだ。 “トリッカー”とあだ名されるほどの騎士である彼を前線に立てない上司に、普段は穏やかな彼も思わず口の中で悪態をついた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミーシャ |
居候をしている旅籠がノードスから避難した住人たちのたまり場になっているので、ミーシャはなんとなく落ち着かない。 手伝いをさせられている彼女は、集団から外れて座る白いフードの女性に気付いて近づいた。 女は青い目を向ける。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
市民の避難を指揮する軍を遠巻きにちょこまかするグルーヴィー・ハイブランダーは、その中心にいる騎士を見つけた。 犬の頭を持つ“番犬”ガルム・ウォレスである。 「おい、小僧の出る幕じゃないぞ!」 兵士ににらまれて、グルーヴィーは頬を膨らませる。 |
時間 | 夜 | 場所 | 東側・六骨市場 | 登場人物 | アルバドヌフ |
“アドの金物工房”を営むアルバドヌフは、客の積んだ銀貨の一枚を取り上げるとにやりと笑った。 「お客さん、これ、贋金ッスよ」 「ええ?!」 「あなたが作ったもんじゃないでしょうけどね」 もしそうなら、目利きの金物屋には持ち込まないだろう。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | シェルク・ウェスティン |
ノードス出現の噂を聞いた騎士シェルク・ウェスティンは、持って来ている騎士甲冑を身に着けた。 「よせよ。軍が出るだろ。俺ぁ知らんぞ」 彼女を見送った用心棒ヴォルだったが、女将マリアンヌの困ったような視線に、しぶしぶ腰を上げる。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シュネーバル |
ゴーレムマスターであるシュネーバルは、珍しく人のために働くつもりになった。 街外れに現れたノードス撃退に協力するつもりになったのだ。 「得るものがあるかもしれないしね」 ゴーレムとノードスの共通性に関して、彼は興味があった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | ウリエラ |
突然の雨の中を、ウリエラは悠然と歩いていた。彼の白い髪や抜けるような肌が濡れて、いっそう美しくさえある。軒下に走る人々が奇妙なものを見る目で彼を見るが、ウリエラは全く気にしない。彼だって走りたいし、さっきまでたしかに走っていたのだが…疲れたのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | アルメル |
ようやっと涼しい風が吹くようになって。獣人種の料理人アルメルはほっとする。広場でたまにお菓子を売っている彼女だったが、暑い盛りには氷の樹法を使う“かち割り”の氷の前に惨敗続きだったから。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア |
戦士アメリアは、父の手作りである鎧をまとった。 「役に立つといいが……」 父が口を引き結ぶ。 ノードスは触れることで生命を吸い取るという。そうして殺された命は源樹に戻ることが出来ない、とも。 しかし。 「守らなきゃ」 アメリアは朝日を見上げた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | マロン/ ノダ |
マロンの手伝う街外れの宿屋はにわかに活気づいていた。ノードスが出たせいだ。 近隣の農家や狩人といった住人たちが、それぞれに宿にやってきている。 「でもここだって……」 マロンが呟くと、ノダはどさっとカバンを下して、言った。 「心配ないよ」 |
時間 | 夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ライル・クロイツァー/ アステール |
王立樹法研究院の麒麟児アステールは、支給品の鎧を断って腕を組んだ。 視線の先には、浅黒い顔だけを甲冑から出したライル・クロイツァーがいる。 「ちょっとさぁ。虫が良くないかい?」 アステールはライルに口を尖らせた。 「腕がたつのは知っている」とライル。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ルティン |
酒場・虎の鰭亭のウェイトレスであるルティンは、薄暗い裏町の通りを歩いている。 「まったくもぅ…なんで組合に手を出すかなぁ…」 元海賊であるルティンの子分が裏町組合につかまったのだ。 助けなければ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
ノードス発見の報を聞いた騎士ライル・クロイツァーは常備軍の兵を集めた。 「使える奴を集めろ」 「全員ですか?」 「いや……全員はだめだ」 常備軍が出払えば、それに付け込んで何が起きるか分からない。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ハナン |
小人種のハナンは積み重なった本の間を抜け出すと、所属するオーリエル学院に登校した。 声をかけてくれる友達ににこにこと手を振りながら、彼女は教室ではなく真直ぐ図書館に向かうのだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミサギ |
鬼人種の戦士ミサギは、ごくり、とつばを飲み込んだ。 地面はまるでナメクジが這ったように、下草が枯れている。 じゃりッ、と踏むと、枯れた草はガラスのようだった。 「ノードス……」 心臓が早鐘のように鳴る。 戦えるのか、自分に。 ミサギは自問する。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
広人種の医師ドクトル・ハニィマシューは自宅で頭を抱えた。 「合わない……!」 小さなランプの明かりで、紙に書かれたいくつもの数字と箱に入ったコインを比べる。 「いくらなんでも30タレントも合わないなんて、そんなことあるか…」 彼は秘書の必要性を痛感した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の町外れ | 登場人物 | アルド |
「源樹よりきたりし生命は、再び源樹へ還りたもう……」 聖職者の朗々とした声が墓地に響いた。葬式である。アルドはそれを、少し離れたところから眺める。 「死者の魂が迷わず再び巡ることを……」 そいつは困る。 それじゃ、俺は誰と話せばいいんだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヘンリー・オーグスト/ ウリエラ |
ヘンリー・オーグストは鼻歌交じりに小さな焜炉の上でフライパンを振った。 錬金術で使う炉は、薬品だけではなくこうして卵とベーコンを焼くこともできる。金欠の昼は自炊だ。 と、そこでドアがノックされ、来客。 「やぁ」 顔を出したウリエラに、ヘンリーは絶句した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ナーレドルヴァ |
墓守であるナーレドルヴァは、朝日に背を向ける。 彼女の働く墓地は、大聖堂に付随するような立派な墓ではない。庶民、あるいは旅人。 名前のない墓石をそっと撫でて、ナーレドルヴァは寝床へ向かった。 「私はベッドへ。あなたはどこに行くのかしらね」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルイーザ |
街外れに奇妙な人型の影が現れたと聞いて行ってみたルイーザは、猟師小屋の一つを確認する。 盗賊に荒らされたわけではない。壁には風穴があいている。 転がっていた黒く焦げたような猟師の死体は、半ば結晶化していた。 「……」 ノードスだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー/ ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
スリを目ざとくみつけ捕まえたグルーヴィー・ハイブランダーは、ちょうど警邏していたルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオにそいつを突き出した。 「あっ、あのですね! 僕、軍に…」 「協力を感謝する。少年」 軽くいなされて、グルーヴィーは肩を落とす。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アメリア |
「すまない……」 ひたすらに頭を下げる兄に、アメリアはむっつりと押し黙る。 「まさかあれがお前の日記だったとは思わなかったんだ……」 普段穏やかで家族を愛するアメリアだけに、彼女は怒り方をよく知らない。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍港 | 登場人物 | エイミィ・イッシュ |
船を失って立ち直れない船長は当てにならない。 本当はまたみんなで船に乗りたいエイミィ・イッシュだったが、生活費は稼がなければならなく、彼女は軍港で風を操る樹法使いとして雇われた。 長期で、とも言われたが… 「いえ、その、日雇いで」 エイミィは首を振った。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | スイ・フィラロイト |
樹石職人であるスイ・フィラロイトは、古書店の軒先で口を尖らせた。 「違う違う。この樹石の解釈は12年前にレゴスメントのゲーレイによって否定されているこの本の発行はいつだそれより後じゃないかどこのどいつだ」店主はうんざりして“はたき”を振った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
スカーレットは呆れて呟いた。 「あんたに客を取らせるつもりはないんだがねぇ」 「でも、わたしもねえさんのやくにたちたいんです」 顔を赤くして力説する、自分の世話をさせている少女に、思わずため息をつく。 「どういうことかわかってるのかい…?」 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス/ ルミア・バリシス |
一角獣の森亭は貴族も集まる気品ある酒場である。 ルミア・バリシスがここで飲んでいるのは少なくともここには同級生がくることがないからだが……。 「ま、僕は天才じゃからね」というサイウォー・ドレシスの声が聞こえて、ルミアはぎくりとする。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ロア・フィーリス/ |
妹が所用で出かけている(心配だ)ため、ロア・フィーリスは一人の夕食を摂らねばならない。 食事自体は妹であるリン・フィーリスが準備して行ってくれているのだが、お茶を淹れようとして立ち上がったロアはふと、立ち止まった。 お茶の場所が分からない。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ミニジン/ |
小人種の教師であるミニジンだが、彼女の本業は数学者である。 不意に抱えていた問題の解決方を思いつきすでに一日徹夜した。 眠くもなければ腹もすかない。 まさしくハイって奴だが、昼近くなって彼女は突然ぶっ倒れ、保健室に運ばれた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ/ アステール/ エレナ・ウォレス/ |
本来健康優良研究員であるエイカ・ロロノトリは、今日に限って朝食を食べられなかった。 昨夜、同僚の少年アステールに付き合って食べた牡蠣に当たったのだ。 彼はエレナ・ウォレスによって安全に隔離され、愛するトレーニング機器から引き離された。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | トニョ・ベルトラン |
野に花が咲き乱れ、空は高く青い。 トニョは騎士甲冑も颯爽と、巨大な甲虫に跨る。 対するは花のような甲冑の騎士。相手にとって不足なし。 トニョは大音声で名乗りを上げた……。 トニョ・ベルトランは夢の中。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | レイ・セライン |
酒場帰りのレイ・セラインは聞き耳を立てる。 彼女の部屋に何者かがいる音がする。同居人かと思ったが彼女はここにいる。 後ろできょとんとしている緊張感に欠けた相棒を一瞥し、レイは腰の細剣に手をかけた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルイーズ |
ルイーズは街外れに寝袋を広げ、現在の所持品をならべて確認した。 ものの見事に銀貨の類は銅貨まで含めても、ない。 彼女はしかし、うきうきする。これぞ家出の醍醐味だ! |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
獣人種の医師ベルゼ・カロンにとっても、獣人種の治療は注意を要する。 獣の要素は様々で思わぬ効果を及ぼすこともあるからだ。 たとえばこれ。 この落葉蔓性木本は、一部の獣人にのみこのように効果を発揮する。 ベルゼはベッドに丸くなり、乾いた枝をかじった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アザミ |
鬼人種の学者アザミは起き出すと、皮膚のようになじんだ仮面をかこりと被る。 それからようやく衣類の身繕いするのだが、机の上に載ったガラス皿の上で試薬が黄色く変色しているのを見て、彼女は衣を放り出した。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
「ふふん」 メノウはにやりと笑って鍵穴を見つめた。後ろで若い盗賊が困った顔で見守っている。 「俺ちゃん、最近は仕事あんましてないけどな、でも腕は鈍っちゃいないぜ」 新式の鍵を開けられなかった若手に代わって、メノウは針金を取り上げた。 「軽い軽い……」 |
時間 | 夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト/ アルトレーゼ |
ジャン・ジルベルトは今夜裏町組合の盗賊と仕事のはずだったのだが、聖騎士アルトレーゼに呼び止められ、説教のリハーサルに付き合わされている。 経典を読み上げる彼女を眺めながら、この女は彼の正体に気付いているのではないかという疑念が首をもたげた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | リッカ/ ザクロ |
夏の暑さももうしばらく続くだろう。 公衆浴場ラ・メル・ソーンは今日も満員である。 「目の前にお風呂があるのに入れないのは地獄よね」と、リッカが笑いかけ、ザクロは肩をすくめた。 「夜にご一緒しましょう」 |
時間 | 昼 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | オルヴァ/ ハナン |
「ここです――」 ハナンは本棚の本をいくつか抜き取った。本に隠れていた壁があらわになる。 「この間――みつけて――」 「フゥン」 オルヴァは膝をついて覗き込んだ。 この高さは、彼では見つけられなかったろう。 壁には四角を組合わせた樹紋がある。 |
時間 | 朝 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | オルヴァ |
朝日を浴びてなお、ゴルゴーナ図書館はじっとりとした霧と静けさに包まれている。 獣人種の樹法使いオルヴァは、焦点具の杖を振って樹文を唱え、小さな明かりを灯した。 「昼行燈も時には必要だねぇ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト/ ノシュマン |
ノシュマンは酒瓶を傾け、同業者で眼鏡仲間であるボルブ・ボルドリック・ボロボレイトのカップにワインを注いだ。 ボルブのほうはすっかり出来上がって、仕事への情熱とか夢とかをとめどなく語り続けている。 ノシュマンは久しぶりの職人の語らいを楽しんだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アルフレド/ グルーヴィー・ハイブランダー |
カフェ・ド・エクスは治安は悪くない。 おかげで用心棒として雇われているグルーヴィー・ハイブランダーは暇である。 「いいことじゃないですか」とアルフレドは笑うが、グルーヴィーは手柄を立てて常備軍入りを狙っているのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト/ ノシュマン |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトの店のドアが開かれ、彼はぎくりとする。 入ってきた長身で眼鏡の男は、こつこつと杖を鳴らしながら飾りのついた武具を見て回った。 ボルブはこの男が武具職人のノシュマンで、実用主義者であることを知っている……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | チノ |
小人種の酔っ払いチノは裏町の通りを歩いていた。 彼女がこうして出歩くのは珍しい。 普段は宵闇の華亭で自らの肝臓に試練を与え続けているのに。 「アラワクのやつ。あたしがどれだけ売り上げに貢献してるか分かってるのか」 大掃除に、彼女はついに追い出されたのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | ロック・トライボー |
漁船の荷揚げは悪くないアルバイトだ。 ロック・トライボーは愛用の鎧を着古した麻のシャツに着替えて、木箱に入った魚を運んだ。 「ふぅっ!」 ため息と同時に、ロックの腹がぐうと鳴る。 このアルバイトの何がいいって、傷物の魚なんかをまかないでもらえるのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | シヅキ |
鬼人種の武闘家シヅキは、巨大な櫂をぶんまわした。 相手の獣人種の戦士は受けきれずたまらず吹き飛ぶ。 周囲に集まったやじ馬たちがはやし立てる。まったく不本意だ。 代理戦士などで腕を振るうなど。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | リン・フィーリス |
兄が職人組合の会合に出ているので、リン・フィーリスは今夜一人で夕食を摂る。 兄はひどく心配していたが、彼女だってもう十六だ。 少し広い一人の食卓で、リンはフンスと鼻息をつくのだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ギネヴィア |
傭兵ギネヴィアは、街外れで腕を組んでいた。 目の前には武装旅団の商人が、やはり腕を組んでいる。 彼女よりいささか背が低い。 「往復で10タレント。そう言ったよな」 「言ったが、思ったより旅団の集まりが悪くて……」 護衛の値切りとは恐れ入る。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | シェルク・ウェスティン/ ヴォル |
アリーナで開かれる騎槍試合の日は格別華やかだ。 普段は空席の目立つ貴賓席が埋まり、庶民たちもすこしだけおしゃれ。 ヴォルのアリーナ通いにいい顔をしないシェルク・ウェスティンもこの日は別だ。 古式ゆかしい甲冑の騎士が、客席の彼女に片手を上げた。 |
時間 | 朝 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ネオーマ |
「地図が役に立たなかった」という抗議を受けて、ネオーマは渋面を作った。 「壁が知らない間に動いたとでも言うのかよ」 彼は突っ返された地図を見返す。いくつかの地図を突き合わせて制度を高めたものだ。 だが、集めた地図のすべてが「正しかった」としたら…? |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | リズベット・ルー |
宵闇の華亭は、酒場として必ずしも治安のいい場所ではない。 この酒場には似つかわしくない身なりのいい少女がガラの悪い三人の男に連れられて入ってきて、リズベット・ルーはいささか注意してそれを見ていた。 単なる仲良しの飲み会とは思えない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | クロエラ |
着火の樹法で灯した焚火を眺めていたクロエラは、ぱちぱちいう木の爆ぜる音に目を細めた。 ゆらぐ焚火に、そっと木の枝に刺したチーズを近づける。 こうしてとろけたやつを薄く切ったパンに乗せて食べるのだ。 なんとご機嫌な夕食か! |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | アリミナ/ ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトのボロボレイト武器防具装飾店に妙に大きな鋼板の持ち込みがあった。 「こいつは?」 首をかしげるボルブに、持ちこんだアリミナは少しためらってから答えた。 「ゴーレムの胸につけるんです。アリーナで……」 ボルブの目が輝く。 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルイーザ |
うごめくキノコの怪物に、ルイーザは破壊の樹法を叩きつけた。 エルディカはある意味で生命に満ちている。樹力とは生命のエネルギーでもあるからだ。 だからこうして、入り込んだ魔獣や怪物も独自の生態系を築くことができる……迷惑千万だ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | キナ・ラトセラ |
ソーンを訪れているキナ・ラトセラは、ふらふらとあちこちを歩き回る。 今朝はなんとなく足の向いた東側のものものしい砦までやってきた。 あちこちに黒王女の旗がたなびいていて、兵士たちが朝の訓練をやっている。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | アリミナ |
その作業は深夜までかかった。ゴーレムマスターであるアリミナは、軍のゴーレムの整備に駆り出されたのだ。 お抱えのゴーレムマスターが何か失敗をしたらしい。とはいえ整備をしないわけにもいかない。 彼女はため息をついた。 失敗こそが人を成長させるというのに。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | キキ・テリヤ・ニートカ |
キキ・テリヤ・ニートカは、自宅の窓からじっと夜空を眺めている。 美しい深い藍色の空に、遠く天枝の影が霞み、その向こうには星の光点が流れる雲に瞬いている。 キキはこれを次に作るヴェールに取り入れるつもりなのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドロイ・トピアス/ レビィア・トピアス |
裁縫職人ドロイ・トピアスは、トルソーに着せてある見事なドレスを満足げに眺めた。 前から見たり、横から見たり。 「綺麗じゃない。着てみてあげよっか」 入ってきた姉のレビィア・トピアスに、彼は気取って首を振る。 「残念。これは腹が合わないよ」 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ/ ギネヴィア |
「おかしいな」 エイカ・ロロノトリはエルディカの第四層で首を傾げた。 「どうしたい、先生?」 同行してくれている傭兵ギネヴィアがいぶかしむ。 「気付かないかい? この壁は、前に来たときにはなかった」 エイカはそっと黒ずんだ壁を撫でた。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン |
ファル・ワン・エンワンは朝に強い。田舎では夜明けとともに起き出していたのだ。 彼女は部屋の鎧戸を上げ、日差しと空気を部屋に取り込んだ。 故郷なら、こうやって窓を開ければ誰かが挨拶してくれたのに。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ウリエラ/ ルミア・バリシス |
ウリエラはあまり夜更かしをしない。 だいたい陽が落ちると、ほどなくして(ごちゃごちゃの)寝床に収まるのが常である。 友人のルミア・バリシスなどに言わせると「悪い奴ほどよく眠る」となるが。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | スイ・フィラロイト |
鑑定書をつけてくれ、という依頼自体は珍しくない。 スイ・フィラロイトは、しかし目にはめていたレンズを外してため息をついた。 これは樹石などではない。砂を焼いた、ガラスだ。 だが……。彼は思案する。 これを持ち込んだ獣人種は、裏町の実力者だったからだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ヴォル/ シェルク・ウェスティン |
「暑くないのか? 馬鹿なの?」 浪人ヴォルに言われて、略式とはいえ甲冑をまとった騎士シェルク・ウェスティンは口をとがらせる。 「常在戦場は騎士のたしなみだ。何だお前のそのすね毛。剣士として恥ずかしくないのか」 「あるもん隠しても仕方ねぇだろ」 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | エルルカ/ アルトレーゼ |
夏休み中のエルルカは、妹たちがいつも読み書きを習っているシドリア大聖堂に二人を送り迎えする。 大好きな姉と離れたがらない妹たちに困っているエルルカに、先生役のアルトレーゼが微笑みかけた。 「よかったら、先生をやってみますか?」 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ノダ |
「いてっ!」 ノダの目覚めは決していいものではなかった。寝返りを打った表紙に蹴った棚から、彼女が盗賊時代に収集した道具が落ちてきて、頭にぶつかったのだ。 ノダは眠い目をこすって、軽く向こう三軒両隣くらいは吹き飛ばす威力の爆弾を部屋の隅に放り投げた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヤエ/ エレナ・ウォレス |
「そろそろお休みになられては?」と、メイドのヤエに言われて、エレナ・ウォレスはようやく本から顔を上げた。 父を待つ間のつもりだったのだが、父が帰ってきてからもずっと居間の水槽で本を読みふけっていたらしい。 |
時間 | 夜 | 場所 | 白樺広場 | 登場人物 | スズラン |
あの奇妙な男性に教わってから、スズランのゴーレムは明らかに動きが良くなった。 かたかたと滑稽に動くスズランのゴーレムの周囲には自然と子供たちが集まり、スズランは新しい遊び相手に嬉しくなった。 いじってもらったゴーレムの指先からは、甘い花の香りがした。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アーベン/ ルイーズ |
「ほぉ」 考古学者アーベンは、ルイーズの銀の葉の冒険談に耳を傾けた。 「綺麗だったよ。先生も行ったら?」 そう締めくくるルイーズに、アーベンは首を振る。 「いや。多分そこには、二度とたどり着けない気がする」 「なんで?」 「なんとなくだがね」 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ブラックフォックス |
ブラックフォックスは研ぎあげた刀をぱちりと鞘に納め、手裏剣を吊るす。ポーチには止血剤。籠手の止め紐を何度も引っ張って確認する。 「お姉ちゃん…」 傍らの寝床から声をかけられて、彼女は顔を上げた。 「どこか行くの…?」 行きたくはない。 だが、稼がねば。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミーシャ |
珍しく朝の早い時間に、ミーシャは森へ繰り出した。 朝早くに花を開き、その時にだけわずかに蜜を作るエルレの花を探しに行ったのだ。 この季節にしかない、美しい青い花。 その甘い香りの蜜は、ひとすすりで熊の心臓も止める。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エストリフォ |
英雄枝のあたりで流星群が見える。 この不思議な光景を、白王女エストリフォは学院の中庭で眺めていた。 彼女はすくいとれそうな星空に、そっと手を伸ばしたが、その手には何もつかむことは出来ない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アメリア/ トニョ・ベルトラン/ ヒルデガルト・リーデルシュタイン |
アメリアは友人であるトニョ・ベルトランに、先日の冒険行について語って聞かせた。 「わぁ! すっごいなぁ! 僕も行きたい!」 興奮してぴょんぴょん跳ねるトニョに、ヒルデガルト・リーデルシュタインと顔を見合わせて微笑む。 次はどんな冒険が待っているだろう。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ハノワリ |
夕暮れ時、海が赤く染まっていくのを、ハノワリはぼんやりと眺めている。 夜のとばりが下りようとするこの時間が、彼は好きだった。 故郷オルオラの氷の海にかかるオーロラを、ほんの少し思い出すから。 |
時間 | 昼 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | シエラ |
シエラは山のような歴史資料をひっくり返していた。定期的に観測される流星群。 その法則性を探すためだ。 シエラの計算によれば今夜未明から明日、英雄枝の向こうに大規模な流星群を観測できるはず。 あとは徹夜続きの彼女が、起きていられるかだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | マトリ |
マトリは眠い目をこすった。頭がガンガンする。酒を飲んでいたりしたわけではない。窓の外でやかましくホウドロホウ、とバグパイプのような音が聞こえるせいだ。 マトリはむすっと仮面をつけると窓を開けて、叫んだ。 「やかましぃっ!」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
深夜の施療院“ラズライト”を経営するベルゼ・カロンは眉をひそめた。 「何かお手伝いをさせてくだせぇ、先生」 数か月前に転がり込んできて、助けてやった男だ。 昼間の人間ではあるまい。 しかし、どうもずいぶんと恩に感じているらしい。 ベルゼは困り果てる。 |
時間 | 夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス/ シエラ |
「天体の運行は現象に過ぎんよ。それが人種の歴史に影響を及ぼすなどナンセンスだ」 サイウォー・ドレシスは喝破する。 しかしシエラはおずおずと反論した。 「前の英雄枝の流星群の時は、オルオラ王が倒れたと記録に」 「偶然じゃよ。僕その時いたもん」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロック・トライボー/ ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
ロック・トライボーは職人ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトに銀の葉の冒険について語った。 ボルブはうさんくさげな顔をする。 「持って帰ってくれば大金持ちだったんじゃ」 言われてロックは鼻の頭を掻いた。 「それさ」 彼は物語を続ける。勇気と愛と冒険の。 |
時間 | 昼 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | リッカ |
「ねぇ聞いた? リッカちゃん」 大衆浴場で働くリッカには、新しい噂話がよく入ってくる。 「何を?」 「流星。近い内に流れ星がいっぱい出るんですって」 常連のおばさんはひそひそ声を出した。 「怖いわぁ。そんなのわかるわけないじゃないねぇ」 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ニレル・ナタン |
ニレル・ナタンは、夜明けとともに目を覚ます。 寝起きであっても表情は崩れず、にこにこしたままで杖に乗って井戸に向かい、顔を洗う。 夏の朝は涼しく、快適だ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルイス・キャロル/ アリス |
アリスは、ルイス・キャロルの先に立って小走りに歩いた。 エルディカは彼女が“発見”された場所である。隠し部屋で見つけた彼女の秘密を探るため、ルイスはこうしてしばしばエルディカを訪れる。 しかしあの部屋にはその後一度も辿り着けていない……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス |
部下の一人が警邏中に住人を殴った、という報告を受けたガルム・ウォレスは、黒王女を探しに行った素浪人風の変装を解きながら答えた。 「はてな…報告書を出すように言え」 「被害の住人からは出ていますが…」 「両方だ。言い分くらいはあるだろう」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、自分の仕事に誇りを持っている。 いざとなれば剣をもたぬ人の盾となり彼らに代わって戦うのだ。 「ふん」 警邏中に「官憲の犬」などと彼を罵った男をぶちのめた彼は首をこきりと鳴らし、言った。 「だからどうした」 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | アキレァ |
その日のアキレァは腹ペコだった。 いつもであるとも言えるが、その日は格別。 なぜなら、昨夜後輩剣士たちに景気よくごちそうしてしまい、財布には数枚のリル銅貨しか入っていなかったからだ。 「それ、食べてもいいかな」 彼女はテーブルの間を飛び回る。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ガルム・ウォレス/ ヴェステルナ |
「いない?」 黒王女ヴェステルナに報告のために王女府を訪れたガルム・ウォレスに、守り役であるクリュズが腕を組む。 「おそらく街に。行きつけの店があるゆえ、そこだろう。お急ぎか?」 「いや」 ガルムは驚きながらも首を振る。あの堅物王女が朝帰りと来たか。 |
時間 | 深夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
貧しい人々や訳ありの人々が生活する魔香街カプノ・ドゥエイス。 アルタイルはそのなかば廃墟になった建物で、二人の若者をじろりとにらんだ。 「兄貴、こいつが…」 「黙ってろ!」 助け合わねば生き残れない。 喧嘩の仲裁も、彼の役目だった。 |
時間 | 夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アルトレーゼ/ アフィーネ |
聖騎士アルトレーゼは丁寧に甲冑とアーミングダブレットの手入れをする。 夏は汗をかくので手入れに苦労する。しかしこれは、彼女にとって大切な時間なのだ。 そこに同僚であるアフィーネが酒瓶片手に現れ、彼女はしぶしぶ作業を中断した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ララ |
街道を歩く盗賊ララは、一人の老人が倒れているのを見つける。 「大丈夫?」 頬に手を当てると、熱い。 ララは彼を木陰に運び、小川まで走って水を汲んでくる。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルシェン |
旅の薬師ルシェンは、相棒の魔獣の仔であるミケとともになるべく人の少ない海岸を訪れた。 天気もいい。 プロタ・リズマの夏は短いので、この小さな相棒に海を見せようと思ったのだ。 「ギェーン!」 「あはは」 波を追いかけるミケに、彼は笑った。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア/ オルヴァ/ ルイーズ/ |
ルイーズは一枚だけ拾った銀の葉を朝日にかざした。 それはきらきらと輝いている。 どうも銀そのものではないようで、オルヴァが何か言っていたが、彼女にはわからなかった。 「ふふ」 アメリアはそれを手に取って、ルイーズの髪に飾った。 「お似合いですよ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
ブロックマルツはのらくらとかわすつもりだった。 つるし上げにしかなりそうになかった裏町組合の会合に出席した彼は、敵対する幹部がどんな書類を出してくるか知っていたからだ。 「カネは払っとくもんだ」 その幹部の部下は、彼の部下でもある。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー/ グルーヴィー・ハイブランダー/ アメリア/ オルヴァ/ ルイーズ/ |
グルーヴィー・ハイブランダーが見つけたその木は、月の光に銀色に輝いた。 「きれい……」 アメリアが嘆息する。葉は銀、幹は銅。 「とても強い樹力を感じるよ」 オルヴァが言い、ルイーズはその小さな木を指した。 「……持って帰る?」 ロック・トライボーは…… |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ミニジン |
頭脳労働者であるところのオーリエル学院教師ミニジンも、たまには彼女の類まれなる優れた脳を休ませたい時がある。 一角獣の森亭で、彼女は静かに、スコッチのグラスを傾けた。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー |
すっかり疲れ果てたロック・トライボーたちだったが、噂に聞いた洞窟を見つけ元気百倍となる。 「んごぉぉ……」 しかし、洞窟の中から何かのいびきが聞こえた。 「この先のはずだけど……」 一行は顔を見合わせる。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | イオナ・ロウグラ/ アルタイル |
イオナ・ロウグラの気持ちは晴れない。 「うまくいったじゃないか」アルタイルはにやりと笑う。 二人で盗み出した金庫はずっしり重く、じゃらじゃらと音を立てている。 彼女の意志に反して、盗賊家業は順風満帆だった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | オルヴァ/ ルイーズ |
「おや」 今度は注意深く焚き火を囲んで見張りに立ったオルヴァが、うとうとしているルイーズを揺すった。 「敵?」 「違うと思いたいね。ごらん」 彼が空を指差すと、巨大な鳥が月と天枝を覆っている。翼は10ミルは超えるだろう。 「伝説の雷雲鳥だよ。本物だ」 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | フクマル |
フクマルは大きな寸胴にスープを煮込んでいる。 新作の研究だ。 「フーム!」 いい出来だ。 なぜって研究の間に、鍋一つをぜんぶつまみ食いしてしまったのだから! |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア/ グルーヴィー・ハイブランダー |
「がんばって! もう少しです!」 上空からの励ましに、グルーヴィー・ハイブランダーはため息をつく。 ほとんど垂直の崖を登るのは、健康優良な彼女でもホネだ。 アメリアの垂らしたロープがなければどうなっていたことか。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | オルヴァ/ ロック・トライボー |
「こっちはやめておこう」 自律体であるレーンを偵察に出したオルヴァは、血気盛んなロック・トライボーに告げた。 「なんで」 オルヴァは少し考える。 巨大蜘蛛がいて毒液を垂らしている、と言ったら、この青年は引き下がるだろうか? |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
「先生、急患だよ!」 ドクトル・ハニィマシューが朝寝を楽しんでいると、近所の少年が激しくドアを叩いた。 「ウチの妹が生まれるんだ!」 「それは産婆さんじゃないかね?!」 「その産婆さんが足をくじいてウチに来れないんだい。産婆さんを診てよ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア |
「スヤァ……」 フィアマ・ソルフィネアは快適なオーリエル学院女子寮ですやすやと眠っていた。 新築のこの女子寮は風の流れも計算されており、夏冬共に健康を損なわないように作られている。 「スヤァ……」 彼女のようにお腹を出して寝ていなければ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | エニシ |
一宿一飯の恩は返した。エニシは本来流浪の身である。 メイド稼業にずっと従事するわけではない。彼女は荷物を背負って、お屋敷を出ようとした。 と、お屋敷からお嬢様が走ってくる。 「えにし、まだいて? これ…」 お嬢様は宝物であろうガラス玉を差し出した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー/ アメリア/ ルイーズ |
食料を熊に奪われたロック・トライボーたちだったが、どうやら助かりそうだ。 同行していたアメリアが、野草とリスで素敵なスープを作ってくれたのだ。 「すっごい! おいしい! お店出せるよ!」 連呼するルイーズに、アメリアは照れ笑いをする。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー/ アメリア/ ルイーズ |
食料を熊に奪われたロック・トライボーたちだったが、どうやら助かりそうだ。 同行していたアメリアが、野草とリスで素敵なスープを作ってくれたのだ。 「すっごい! おいしい! お店出せるよ!」 連呼するルイーズに、アメリアは照れ笑いをする。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | カイル/ ロア・フィーリス |
真鍮広場で焼き肉の露店を出しているカイルは、いつも使っている肉焼きセットを職人街に持ち込んだ。 「この、回すところが……なんかゆるくて。大事に使ってるんだけどなぁ」 修理屋のロア・フィーリスは目を細める。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
「止まれ!」 熊に食料を奪われ腹ペコで歩いていたグルーヴィー・ハイブランダーたちは、だみ声に呼び止められる。 見ればアヒルの獣人種が剣を振っていた。 「ここを通るなら通行料だ!」 グルーヴィーが茂みに目を走らせると、どうやら手下が隠れているらしい……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
「暑い!」 ファコン・ソルフィネアは寝苦しさに布団をけり出した。 暑熱だけなら、彼の故郷であるエードローエのほうが上だが、冷涼なソーンの建物は、夏に快適になるようにはできていない。 ましてこのおんぼろの男子寮では! |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルイーズ/ オルヴァ |
仲間とともに銀の葉の木を探しに着たルイーズは、がさがさいう音に目を覚ました。 焚き火は消えかけている。暗闇に光る二つの点に、ルイーズはぎくりとした。 熊が食料をあさっているのだ。 彼女はそっとつま先を伸ばし、寝ているオルヴァを突いた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ベルゼ・カロン/ ミーシャ |
闇医者を経営するベルゼ・カロンは、裏町に手に入り難い薬品を買いに来ることがある。 ミーシャは客として訪れた鬼人種ふうの恰好をした獣人に、4タレルの薬を 「8タレルだよ」と言って差し出した。 ベルゼは笑う。 「馬鹿言っちゃいけないよお嬢さん」 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー/ ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
銀の葉を茂らせる不思議な木について聞きつけたロック・トライボーは、ソーンで出会った冒険好きとともに早速その木のある山へと向かった。 行きつけの装飾職人ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトに、「帰ったら全身やってもらうぞ」と言い残して。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | フィリアス |
昆虫学者でもあるフィリアスは、鼻息荒く街外れの森から戻る。 彼女の持つ籠の中には、瑠璃色に輝くかぶとむしが数匹入っていた。 このために夜通しミツを塗った木の脇で見張っていたのだ。 ミツにももちろん秘密がある。 それを誰かに喋りたくて仕方ない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ルー |
深夜になって、ルーはベッドから飛び起きた。 びっしょりと汗をかいているのは、暑熱のせいではない。 「うーん」 いまだに悪い夢を見て飛び起きるのはなんとかならないだろうか、と思う。 「これじゃ学院の寮には入れないなぁ」 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ゲルマン・オフチーンニコフ/ アラワク |
「今日も暑かったわね」 ゲルマン・オフチーンニコフは一つため息をついて、首筋に手の甲を当てた。 「何か涼しくなるものを頂戴な」 アラワクはふっと微笑んで、さわやかな柑橘系の果物を使った一杯をふるまう。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
ジークヴァルト・クラウス・ディッペルはその日、暑い中を黒王女ヴェステルナに会いに行く。 形式以上には教会を重要視しない彼女にお説教を垂れるためだ。 とはいえ、ジークヴァルトはあまり期待していない。王女には王女の考えがあるだろうから。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | シャロン |
比較的涼しいソーンだが、今日はかなり気温が上がってしまい、武器屋のシャロンの務める工房は早々に休みになった。 「やってらんねぇよ。飲みに行こうぜ」 親方が言うと、工房に歓声が上がった。 「おごりですよね?!」 シャロンもエプロンを投げ出す。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヨルダ |
鬼人種の錬金術師ヨルダにとって、夏は嫌な季節だった。 昼夜逆転の彼女は、夜に活動し昼は寝る時間なのだが、この季節はそうもいかない。 天枝をすかしてさんさんと降り注ぐ太陽に温まった、カプノ・ドゥエイスの千五百年前の廃屋は、実に寝苦しい。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ロア・フィーリス |
ロア・フィーリスは左の義手を外して、丁寧に枕元のテーブルに置いた。妹が装飾を入れてくれた大切なものだ。 衝立一枚隔てた向こうで、その妹の寝息が聞こえる。 ロアはふっ、と息でランプの明かりを消した。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ギネヴィア |
かなり長いこと戦っている。 戦士ギネヴィアは、ソーン近くの街道で死体の群れに襲われてしまった。 死体が樹力を帯びて人を襲うのは珍しくない。 だからと言って死体の仲間入りするのは、彼女はまっぴらごめんだった。 大剣を担いで、ギネヴィアは走った。 |
時間 | 夕方 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | ルイス・キャロル |
千五百年前に偉大なる源樹を破壊し、今は“反逆者”などと呼ばれているエルディールだが、彼女はもともと人種たちをまとめ上げノードスと共に戦った偉人の一人である。 ゴルゴーナ図書館は彼女ゆかりの遺構であり、ルイス・キャロルはよくそこを訪れている。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | リーズ |
学生の中には夏休みに入った者も多いが、リーズはオーリエル学院の寮にとどまっている。 北方の実家に帰ることも出来るが、彼女はソーンの夏を楽しみたいのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
盗賊アルタイルは、先日エルディカから持ち帰った奇妙な道具を囲んで仲間と考え込んでいた。 それは大理石の切り出しのような四角い物体で、見た目よりも軽い。 面の一つに黒い色で何か樹文が書いてあるが、アルタイルには皆目見当がつかなかった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エニマ |
エニマは窓から見える月をぼんやりと見上げた。夏の涼しい空気が流れ込んでくる。 彼女は手にしたうちわで寝ている弟妹にゆるゆると風を送りながら、ソーンの短い夏を楽しむのだった。 |
時間 | 夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ネオーマ |
エルディカに出入りする商人ネオーマが買い取るのは武器や防具、道具ばかりではない。 「これ、三層目の地図だよ」 「どこまで行った?」 「青水晶のテーブル」 戻ってきた冒険者から、彼らの作った地図を買い取り、複数を組み合わせて精度を上げて高く売るのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | スイ・フィラロイト |
目の前には、布張りの箱に収めた青く輝く宝石が入っている。 樹石である。それもかなり珍しいタイプのもので、スイ・フィラロイトは気合を入れてカットを施した。 これを夜には客が取りに来る。 見事な仕事と言えるが、スイは顔をしかめた。 「売りたくないなぁ……」 |
時間 | 昼 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | ザクロ |
「いやぁ、暑いね」と、やってきた常連のお客様であるご婦人は、汗を拭きふき。 ザクロは裏の井戸からくみ上げた水で手拭いを濡らし、持ち前の怪力でかたく絞ってからお出しする。 涼を取り出したようなおしぼりに、ご婦人は大喜び。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | エミリー |
パン職人エミリーは、アルバイトしているパン屋の棚に朝に焼いた塩パンを並べた。 店主のおじさんが板ガラスの職人と、正面を大きな窓にしようかと話している。 もしそうなれば、素敵な焼きたてのパンを外からも見てもらえるわ! |
時間 | 深夜 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト |
盗賊ジャン・ジルベルトは明け方の赤盾市場からシドリア大聖堂へ急いだ。 赤盾市場の商店の中には、夜には誰もいなくなる店がある。 彼は昼の聖職者としての辻説法中に、そういった店を確認し記憶してあるのだ。仕事はうまくいった。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エルルカ |
夏休みということで、三姉妹の長女であるエルルカには、妹たちの面倒を見るという職務が与えられている。 久しぶりに姉をずっと一緒ですっかり浮かれた妹たちはなかなか布団に入ろうとせず、エルルカは積まれた宿題を片付ける暇がない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトにとって、それは不本意な仕事だった。 「こんなにバカスカ穴あけちゃダメでしょうが……」 騎槍試合に出るという騎士の父からの発注だったが、見るからにうらなり然とした彼の息子のために、とにかく鎧を軽くしてほしいらしい。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | マトリ/ ヴェックマン |
学院生マトリは、仮面の奥から男をにらんだ。 「だがなぁ」 ヴェックマンは帽子をかぶり直す。 「情報を売るのが俺の仕事だし」 「売るなってんだよ」 「そもそもだ」 小娘にすごまれて、彼はため息をつく。 「お前が子犬拾ったなんて情報、誰も買いやしねぇよ」 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | フクマル |
朝食時の混雑が終わり、フクマルは店をひと時閉める。 これから食器の型付けをして昼の仕込みをし、それから…… 「おやつは何にしようかな」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ノワ |
夏は戸締りが緩むので、盗賊ノワにとっては仕事のしやすい季節である。 しかし、ノワはこの季節の仕事があまり好きではない。 「……」 いつも覆面に使う黒いウールのストールが、暑くて仕方ないのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 色街・百合お化け通り | 登場人物 | ドロイ・トピアス |
新進気鋭の裁縫職人ドロイ・トピアスは、完成したドレスの納品に百合おばけ通りを訪れている。 発注主はスカーレットというこの店の主。 色っぽい緋色のつややかなドレスに、金の装飾が美しい。 これを着るのは、十歳にもなっていない少女だった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 白樺広場 | 登場人物 | シュネーバル |
白樺広場でお祭りさながらの酒席が開かれているのを知って、シュネーバルは鼻歌交じりにそこを訪れた。 あちこちで陽気な音楽がかなでられ、人々の笑顔があふれている。 彼はうきうきしてしまい、大きなビールサーバーを見ながらポケットの小瓶の感触を楽しんだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ダイン |
鍛冶屋の店先で、鍛冶師見習いのダインは困惑する。 場違いに店先に若い娘が数人。 「海とか興味あります?」 にこにことはしゃぐ彼女らに、ダインはひたすら困惑した。 この間酔っ払いがクダまいているところに思わず手が出ただけだったのに。 |
時間 | 朝 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | キナ・ラトセラ |
ここしばらくの観光生活で路銀の尽きかけた船乗りキナ・ラトセラだったが、彼女はあまり悲観してはいなかった。 早速真鍮広場に繰り出し、異国の楽器であるウクレレを軽やかにかき鳴らす。 朝からやれば晩御飯と宿代くらいにはなるだろう。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
手下の一人が捕まったと聞いたメノウは思わず抱えていた酒瓶を放り出した。 「この裏町でか? 組合の掟はどうしたんだ? いったい誰に……」 「それが……」 報告を聞いて、メノウは天を仰いて吐き捨てる。 「あの猫爺!」 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー |
城壁からほど近い林を流れる川で、ロック・トライボーは目をぱちぱちした。 夏の日の夜、彼の田舎でもよく見ていた光景だ。 ぼんやりと光る蛍が、幻想的に飛び交っている。 「んわぁ……」 思わず嘆息する。 一人で見るにはもったいない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン |
夕方に入り、かなり涼しく気持ちいい風が吹き始めた。 ファル・ワン・エンワンは、窓に頬杖をつく。 田舎に住んでいた頃は、こんな日の夕方は川に蛍を見に行ったものだ。 今は、蛍がどこにいるかもわからない。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア |
ごく近い村まで向かう対象の護衛に雇われたアメリアは、日差しの中を馬車の車輪を見ながら歩いている。 北国のオルオラ生まれであるアメリアは、日よけの布をかぶったままフウフウと息をついた。 なんてことない距離ではあるのだが……。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ウリエラ |
夏の朝の日差しの下、錬金術師ウリエラはふわふわとした足取りで歩いている。 白い羽根飾りの美しい衣装と涼し気な目元、風になびく白い絹のような髪、白磁を思わせるなめらかな肌からは、彼が熱射病でぶっ倒れる寸前とは誰も思うまい。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
「涼しいだろ? よかったなぁ」 ブロックマルツはにこにこした。広人種の男はげぼげぼと水を吐く。 「今日は暑かったからな。親切な俺に、そろそろお前さんの雇い主が誰か教えちゃくれないか」 彼が太った顎をしゃくると、手下の一人が男をもう一度、水に沈めた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 白樺広場 | 登場人物 | ダイン |
夏の白樺広場では、屋外酒場が開いている。 職場の仲間と一緒に風を感じながら一杯やろうと訪れたダインは、若い女性に妙に絡んでいる男たちを見かけた。 せっかく気分よく飲みに来たのを台無しにされ、思わず鉄拳が飛び出してしまう。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ルシェン/ シェック |
ルシェンの連れている魔獣(彼はミケと呼んでいる)は、なぜだかなかなか大きくならない。 夕食に入った虎の鰭亭で、今のようにシェックから刺身のきれっぱしなどをもらったりなど、きちんと食べているはずなのだが。 ……飼い主よりもいいものを。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
非番を利用して、ライル・クロイツァーは近場の海に日光浴に繰り出した。 適度な日光は骨を強くする。 天枝の向こうの太陽をまぶしく見上げて、ライルは新しく買った水着で寝そべった。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
エルルカは、日課としている弓の練習を学院の運動場で行っている。 左手で真直ぐに弓を構え、きりっ、と引いて、放つ。 矢は狙いどおり、わらの人形の胸に突き刺さった。 「ふぅ」 練習では、百発百中なのに。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ヤエ |
主人であるエレナ・ウォレスが寝静まってから、メイドであるヤエは深夜の貴族街を悠々と歩く。 行先は、酒場・一角獣の森亭。 彼女はこうして、たまに羽を伸ばしに行くのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミーシャ |
厄介になっている旅籠の屋根の上で、獣人種のミーシャはのんびりと夜空を見上げていた。 夜になればさすがに涼しく、気持ちのいい夜風を楽しむことが出来る。 ミーシャ特性の線香の煙が、ぶんぶんいう羽虫を追い払ってくれるので快適だ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | グルーヴィー・ハイブランダー |
グルーヴィー・ハイブランダーは、カフェ・ド・エクスで用心棒をしている。 「ねぇ」 オーナーのエクスが頬杖をついてグルーヴィーの持つ樹法具を指差した。 「それ、音出るの? なんか演れる?」 グルーヴィーはにやりと笑う。 「もちろんですよ」 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | トニョ・ベルトラン/ ヒルデガルト・リーデルシュタイン |
今日の昼食は、どうやらごちそうになりそうだ。 近くの小川で釣り糸を垂らしたトニョ・ベルトランは、立派なアメマスを二匹吊り上げ、意気揚々とヒルデガルト・リーデルシュタインの待つ家に帰るのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ウィク・イグナイター |
ウィク・イグナイターの部屋は整っている。 火薬を扱う以上管理は欠かせないからだ。 「さて、と」 唯一片付いていないもの、煤汚れて床に散らばる服を拾い集める。 週に一度、全部まとめて洗濯に出すのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー/ アリミナ/ アザミ |
星が見えた。天枝が見えた。 ドクトル・ハニィマシューはそれが本当に久しぶりに思えた。 「やぁ、助かったー」と、アザミ。 アリミナのゴーレムは各部から異音が。 しかしそれでも 「助かった」 と、ドクトルは背後の穴を見返して盛大にため息をついた。 |
時間 | 夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
オーリエル学院の講師に潜り込めというレゴスメントの密使にジークヴァルト・クラウス・ディッペルは顔をしかめる。 白王女の後見役になろうとしているのだろうが、あの“ちび宰相”がそんな餌にかかるとは思えない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アルトレーゼ |
レゴスメントからお越しあそばされた枢機卿はアルトレーゼにプロタ=リズマの軍備の質問を投げかける。 私は諜報員じゃない、という怒りを飲み込んで聖騎士は笑顔で話を濁す。 国境問題があるとはいえ猊下は心配が過ぎる。 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ロック・トライボー/ アルタイル |
エルディカ探索に雇われたロック・トライボーは、アルタイルがカプノ・ドゥエィスを仕切る一人と知って思わず声をあげた。 「わ、悪いことはいけないことだぞ!」 「お前にやれとは言わねえよ」 アルタイルは気にしない。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴァネッサ |
裏町の調毒士ヴァネッサにとって、その朝は最悪の朝だった。 「頭痛い……」 昨晩、毒物を生成するためにアルコールのランプである毒草をあぶった時に、その煙を吸い込んでしまったのだ。 急いで外に出たが、それでも一部は彼女の頭痛となって残った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ギネヴィア |
エルディカで“円卓”と呼ばれる巨大な水晶の層がある広間は、この迷宮で怪物が近寄らない格好の休憩所だ。 ギネヴィアも腰掛けて夜食をとる。 ここで青騎士と黒騎士がチェスを挑むという噂がある。 まさか。 |
時間 | 夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー/ アリミナ |
壁をアリミナのゴーレムで破壊したドクトル・ハニィマシューは、ぶつくさ言いながらランタンに火をともした。 「まったく、面倒かけさせるね」 いなくなった友人を探すため、ドクトルとアリミナはエルディカに入ってゆく。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | カアラ |
カアラは連れの少女とともにひょこりと顔を出した。 農作業をしていた農夫が目をぱちぱちする。 「すまないが、野菜を少し分けてくれないか」 「あぁ、いいよ。旅のひとかい? 泊って行っても……」 善良そうな彼に、カアラは首を振る。 「野菜だけでいい」 |
時間 | 昼 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ |
日の高くなる夏だったが、エイカ・ロロノトリには関係ない。 むしろ汗が流れる分、よりトレーニングに向いているとさえ考えているフシがある。 彼はトレーニング機材を研究院の中庭に運び出し、日光浴と筋力増強を同時にこなすのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
老境にある裏社会の住人ブロックマルツは、おなじ世界に住む他の者に比べて比較的規則正しい生活をしている。 「オウ、おまえら。散歩に行くぞ」 付き合わされる部下はたまったものではない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エストリフォ |
一人で横になると急に寂しくなることがある。 エストリフォは窓から外を眺める。蒸し暑い夏が迫っている。 姉は今頃団扇で扇いでもらいながら寝てるだろうか。 あの人は暑いの苦手だったから。 懐かしい記憶に胸が苦しくなる。 |
時間 | 夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
戻ってこない友人がいる。ドクトル・ハニィマシューは診察の後、彼女の足取りを追った。 エルディカかと思えばそうではない。 何の変哲もない地下室で、姿を消していた。 「おや?」 しかしドクトルは目ざとく、壁の亀裂を見つけ出す。最近ふさがったものだ……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 白樺広場 | 登場人物 | ハノワリ |
白樺広場では、子供たちが集まって夕遊びが行われている。 大聖堂の聖職者たちが出てきて子供たちにお菓子を配っており、黄昏に子供の声が響く。 ハノワリはにこにことその光景を眺めていたが、やくざ者が子供に服を汚されたとかで大声を出し、彼は立ち上がった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | エニシ |
「よいしょっと!」 夏の日差しの中、お嬢様のわがままでエニシは重労働。 井戸まで大きなタライを持っていき、水を満たして戻るのだ。 彼女の怪力を持ってしても結構な骨折りだが、タライに飛び込んではしゃぐお嬢様に手招きされて、エニシはいそいそと上着を脱いだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ点 | 登場人物 | マロン |
夏が訪れた双子都市ソーンの街外れでは、マロンが夏野菜の収穫にかかる。 葉物野菜やトマト、きゅうりなど、春から大切に手をかけた、周辺で採れる野菜はさまざまだ。 やはり旬のものはいい。 マロンはにっこりする。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
深夜であるにも関わらず、ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは真面目に働いていた。 昼間の警邏の報告書をまとめているのだ。他の者は、もっと適当でいいというが、彼は手を抜く気はない。 些細なことであっても、ポラリスの名を汚すわけにはいかないのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ニレル・ナタン |
小人種の治癒術士ニレル・ナタンは単身、ソーン近くの漁村に向かっていた。 原因不明の奇病が流行っていると聞いたのだ。 それを聞いた彼女はいてもたってもいられなくなり、ぴょこぴょこいう杖に乗って、くだんの漁村へと向かった……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アザミ |
錬金術師アザミは、エルディカの暗い道を一人歩いていた。 そんなつもりではなかった。 彼女はある商店の地下から妙な音が聞こえる、と言われ、様子を見に行ったのだ。 まさかその地下室に開いた亀裂がエルディカに繋がるなど、夢にも思わなかった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シェルク・ウェスティン/ マリアンヌ・フィケ |
シェルク・ウェスティンは、たぬき屋の娘エリチを連れて海に繰り出していた。 亡き夫の酒場を一人で切り盛りするマリアンヌは、いつも娘の相手をすることはできない。 シェルクは忙しい両親の間でさみしかった自分を思い出し、子守りを買って出たのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | マグリア・A=ドラグ/ キナ・ラトセラ |
港で朝の人々を眺めているマグリア・A=ドラグは、奇妙な獣人に目を付けた。 キナ・ラトセラである。 旅人である彼女は、他の人々とは逆の方向に歩いていて、それがマグリアの目についたのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト/ ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
盗賊ジャン・ジルベルトは慎重にシドリア大聖堂に戻った。 錠前を外すのはお手のものだ。ポケットにはいくばくかの宝石。 「夜歩きかね?」 背後からジークヴァルト・クラウス・ディッペルに話しかけられて、彼はぎくりとする。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ヴェックマン/ ブロックマルツ |
獣人種の老人ににらまれて、ヴェックマンは震え上がった。 この太った猫が、裏町でブロックマルツと呼ばれ恐れられていることを、もちろん彼は知っている。 もちろん。 「で?」 老人は唸るように言った。 「何が欲しいんだ?」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ルミア・バリシス/ |
好天に恵まれた夕方の真鍮広場を、ルミア・バリシスはうらめしそうに眺めた。 広場では夕涼みを楽しみながら地ビールで乾杯するといった青空酒場が開かれている。 「いいのぅ……」 ルミアは呟いた。 しかし店内ならまだしも、あそこにこの姿では混ざれまい。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ムツラ/ |
盗賊ムツラにとって、夏の海は困難な仕事場だった。 短い夏を楽しむソーンの住人(特に金持ち)は気が緩み、盗みには絶好だ。 しかしそこでは自分も薄着をさらしていて、盗んだものを隠し持つことが困難なのだ。 ムツラはすり取った宝石を、胸の間に隠した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | スイ・フィラロイト/ |
スイ・フィラロイトは完全装備で坑道の入り口に立った。 案内してくれる工夫を頼んであったのだが、彼はスイの姿を見て笑う。 「旦那、そんなに着込んだら動きにくいぜ」 しかしスイは、工夫の腰に下げたカナリアの籠を見て、自分は間違っていないと確信した。 |
時間 | 深夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ララ/ |
シドリア大聖堂の屋根の上で、一人の少女がぼんやりと星を見ている。 大聖堂の屋根は高く、誰にも邪魔されない。ララは空を見上げて、星が天枝に隠れるのを見た。 どこかにいる双子の妹も、この空を見ているだろうか。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ウィク・イグナイター/ |
夏が近づくと、ウィク・イグナイターは忙しくなる。 火薬の専門家である彼女には、いくつもの依頼が舞い込むのだ。 「空で星型にして欲しい、ねぇ……」 ウィクは注文書をにらんで、半球の中に火薬を仕込んでいく。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア/ |
涼しい風の渡る桜花広場ではこの時期、やや遅くまで屋台が出ている。 流しで明かりを灯す樹法使い(一晩の明かりで半タレルほど)が歩き回り、その幻想的な黄昏時の光景に、フィアマ・ソルフィネアは両手に焼いたトウモロコシを握って見ほれた。 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル/ アフィーネ |
「よさんか、はしたない」と、ジークヴァルト・クラウス・ディッペルは眉をひそめてアフィーネの改造法衣を眺めた。 「だって暑くて……」と、アフィーネは言い訳する。 ちょっとならいいが、それはもう下着だろう、と、ジークヴァルトはため息をついた。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | イスラ/ |
もうじき夏季休暇にはいるということで、トビア・サンチェスのオーリエル学院訪問もしばらくお休みになりそうだ。 最初は面倒なだけだったこの仕事も、なかなか楽しい思い出となった。 とはいえ、名簿にあるのにまだ一度も顔を見ていない学生もいる……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | イスラ/ |
イスラは、自室屋根裏部屋から空を見上げて、アルトロラーベを操作した。 天枝と、その向こうの星を合わせて位置を測定する器具だ。 「うう、ねむいよぅ」イスラは遊びでやっているわけではない。 計算の練習に宿題を出されているのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン/ |
ファル・ワン・エンワンは成績優秀である。 ゆえに、問題行動(彼女自身は問題とは思っていない。困ったときはお互い様じゃない!)も大目に見てもらえるが、彼女の成績は、天才故ではなかった。 ファルは読んでいた教科書から顔を上げて、疲れた目をこすった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | キキ・テリヤ・ニートカ/ |
キキ・テリヤ・ニートカは、夏があまり好きではない。 彼女の得意は縫製で、デザインで、つまりは服飾だ。それもできれば布をたっぷり使ったものがいい。 ところが夏になると、おひさまの魅力の前に、みんなそれを脱いでしまうのだから。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ミニジン/ |
ミニジンは昼食に迷わない。 彼女はいつものように食堂に行き、きゃっきゃとメニューを見比べる学生たちをよそにいつものように鶏むね肉のハムを使ったサンドウィッチを注文する。 彼女の脳細胞は、昼食を選ぶなどということに使うには高価すぎるのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | アキレァ/ レビィア・トピアス/ |
「まったく、ひどい目にあった」 レビィア・トピアスはぷりぷりした。その後ろをアキレァが続く。 真剣勝負の見世物にするという企みだったらしい。 「とんだ罠だよ」 レビィアは口をとがらせる。 しかしてアリーナの花形剣士たちにとって、罠とは踏み破るものだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | アキレァ/ レビィア・トピアス/ |
「先生、お願いします」 促されて、レビィア・トピアスは自慢の黄金剣を抜いた。 「来たな、無慈悲な人斬り。このレビィアさんが……」まで言って、彼女はぽかんと口を開ける。 「あれ、レビィアじゃないか」 出てきたのは、見慣れた剣士アキレァだったのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | アキレァ |
残虐非道な剣士とやらをぶちのめすべく、アキレァは“善良な悪党”に連れられてカプノ・ドゥエイスに向かう。 なるほど、悪名高い魔香街を根城にしているなら、よっぽど悪いやつに違いない。 「任せておきたまえ」 アキレァは骨だけになった鶏の足を放り出した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カプノ・ドゥエィス | 登場人物 | ルルク・シェンツァ |
カプノ・ドゥエィスでルルク・シェンツァが「先生」と呼ばれる理由は、彼女の部屋を埋め尽くす書と実験器具の数にある。 「なあに大したことはないよ」と謙遜するが、先生と呼ばれてちょっと嬉しくなくもない。 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | アキレァ/ ルティン |
健啖ぶりを発揮するアキレァに、ルティンは顔をしかめる。 「その依頼、本当に大丈夫か?」 酒を勢いよく飲み干してアキレァはドンと胸を叩く。 「大丈夫、やっつけるのは悪い奴さ!」 受け取った前金は景気良く使うほどいい。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | クロエラ |
クロエラは朝の空気が好きだ。 とりわけ交易商人と農民達が早くから移動を始める街外れの朝が好きだ。 うかうかしてると置いていかれそう。 クロエラもマントをひるがえし闊歩する。 さて、まずは一杯のコーヒーから始めよう。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | キャンデロロ |
今日は素敵な日だった。貴族の宴会に忍び込みたらふく食べたのだ。 「さ、寝よ」 キャンデロロが囁くと袋から零れた水が柔らかい網になった。なんて素敵なハンモック! 彼女は目を閉じる。 おやすみ、タプタプ……。 |
時間 | 夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
魔香街カプノ・ドゥエイスには様々な者が訪れる。 身分の上下を問わずだ。それはつまり、身分の高い者も訪れることがあるということである。 「最近おかしくねぇか」アルタイルは首を傾げた。 深夜に二頭引きの馬車を見かける。窓にヴェールをかけて。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
ベルゼ・カロンの診療所“ラズライト”に運び込まれている剣士は、いまだ意識不明だ。 おそらく斬り合いだろう。 奇妙なのは、と、ベルゼは思う。 患者を運び込んできたのがやはり剣士で、しかも斬り傷だらけだったことだ。 とはいえベルゼは多くを質問しない。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | シュネーバル |
「こうして騎士は弟とバラバラになりました」 シュネーバルの人形劇に子供は無邪気に尋ねる。 「おじさんも弟いるの?」 彼は優しく答える。 「いるよ。でもバラバラなんだ。君達も大人になったら、バラバラになるんだよ!」 シュネーバルにつられて子供らも笑う。 |
時間 | 朝 | 場所 | 白樺広場 | 登場人物 | ノワ |
船乗りキナ・ラトセラは、前から来たかった白樺広場を訪れた。 わざわざ早朝にやってきた彼女は、丘の上にあるこの広場から朝焼けを見ようと考えたのだ。 彼女の眼下で、うっすらと霧がかったソーンの街が暁の光に照らされ、彼女はひゅう、と口笛を吹いた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ノワ |
「アリーナなんて所詮はお遊びですよ」 スリ目的のノワはなんとなく聞き耳を立てた。 「アリーナ剣士同士の真剣勝負で賭け。一口乗りませんか」 「どうやって対戦させるんだ」 「アイドル気取りの娘っこですよ。簡単でさ…」 ソーンの夜は更けていく。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | レビィア・トピアス/ アキレァ |
「随分景気がいいじゃないか」 レヴィア・トピアスは、山盛りの牛肉を消してゆくアキレァに話しかける。 「ま、血も涙もない悪党退治の前金」 「似たような話知ってる」 アキレァに負けない豪華な食事を頬張りつつレヴィアは言った。 「流行ってるのかな」 |
時間 | 夕方 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | ルイーズ |
家出して定住所さえ持たないルイーズだが、もともとは“いいとこ”のお嬢様だ。 久しぶりにちょっとした収入が入ったルイーズは、アリーナで開催される演劇を見にやってきた。 ところが主演の剣士が怪我をしたため中止になったらしい。 残念。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | イオナ・ロウグラ |
イオナ・ロウグラはがっくりと肩を落とした。 工房で職人として使ってもらいたかったのだが、人手不足だったはずの工房は、イオナの体格を一目見てその看板を取り外した。 「僕、働けます!」と食い下がったが、にべもない。 イオナはしょんぼりと盗賊家業に戻る。 |
時間 | 夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アキレァ |
用心棒になって欲しい、といわれたアキレァは眉間に皺を寄せる。 こいつらが密輸組織の悪党と知っていたからだ。 だが「相手の用心棒は俺らより悪で、子供も平気で殺める」と聞き、しゃぶっていた鳥の骨を皿に置いた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | レビィア・トピアス |
港にある貝料理の店で太った商人は揉み手をする。 「で、この鮮血の赤兎に用心棒をやれって?」 「何せ相手の用心棒は無慈悲な人斬りで……」 油汗を流す商人を横目で見ながらレビィア・トピアスは牡蠣に手を伸ばした。 |
時間 | 昼 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス/ トビア・サンチェス |
サイウォー・ドレシスには探している男がいる。 「いやね、昔、僕と同じように肉体変容の術を施した男がいたんだよね。でも逃げられちゃって、追跡研究ができないんじゃ」 トビア・サンチェスはうさんくさげに少女の姿の同年代の研究員を見やった。 「左様か」 |
時間 | 朝 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル/ ヨルダ |
「急ぎの仕事を頼みてぇ」 枕元に立つアルタイルに、ヨルダは欠伸混じりで応えた。 「先に仮面つけさせとくれよ」 しかしヨルダが手に取ったのは愛用の煙管だった。旨そうに煙を吐く。 「なんだってのさ朝っぱらから」 |
時間 | 深夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | リース |
蹄が音を立てないように、リースは魔香街の帰路を急ぐ。 リズベット・ルーと秘薬を調合していたらもう真夜中だった。 急に空腹を覚えて、食べ損ねていた昼のサンドイッチにかぶりつく。 湿気ったパンに顔をしかめた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ヴェックマン/ チノ |
「兄貴はすげえんだよ」 ヴェックマンはもつれた口を動かす。 「優しくて、頭もいいんだ」 「で、そいつはどこ行ったんだい」 冗談めかしてチノは尋ねる。 「しらねえよ」 吐き捨てて、なんでも知っているはずの情報屋はグラスを煽った。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | エニマ/ アラワク |
メニューに“エニマの出番”が来るというと、客足がぐんと増える。 丸焼き用の長いフォークを使って豚をこんがりと焼き上げる。根気のいる作業は得意だ。 香ばしい匂いで酒を飲む客に、アラワクはシェーカーを振る。 |
時間 | 昼 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | リズベット・ルー |
リズベット・ルーは苦しがる患者の側で薬液の抽出をする。 「これで肺が楽になるよ。最近の連中は丁寧に濁りを取らないから……」 愚痴の内容が昔の師の言葉そっくりになっているのに、彼女は気づいていない。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ルシェン |
医者に仕事がないのはそれはそれでいいことだ。ルシェンは調剤した薬物を施療院ラズライトに卸してから、残りを桜花広場で並べた。普段なら風邪薬がいくばくか売れるが、ここしばらくの陽気で、どうやら患者は多くないらしい。「夏ですね」彼は目を細めてつぶやいた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | チノ |
酒の匂いと煙の匂いが満ちた宵闇の華亭で、チノはのんびりと身を起こした。 店のやや奥で喧嘩騒ぎが起きているが、彼女が目を覚ましたのはそのせいではない。 「おかわり」 チノは言う。 酒が切れたのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シェック |
虎の鰭亭での仕事を終えたシェックは、早々に住処に戻る。彼の朝は早い。早寝早起きが、彼の生活リズムだった。しかしその日は違った。彼の育った村から、使いの鬼人が来ていたのだ。「悪いんだけど」シェックは言う。「おいらは料理で身を立てるんだ。帰るつもりはないよ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ノエル |
砂糖星のちりばめられたクッキーも大方売れて、ノエルは出店を畳んだ。 残った菓子をざっと大籠に入れて大きなベルを鳴らしながら家まで余りを売り売り帰る。 「星降る夜の星菓子の菓子。たった1リルひとすくい♪」 |
時間 | 昼 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ノア |
温厚そうなノアに、人はつい喋りすぎてしまう。 青ざめている男はたった今、不用意な一言から自分が強盗団の一味だと周囲に気づかれてしまったところだ。 月光の角度と彼が見た物の矛盾が解けたノアは満足そうに紅茶を啜る。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | マトリ |
マトリは早朝に白王女区画を抜け港に出て、犬の散歩にきた老人達に混じり犬と戯れる。 「うはぁ、フカフカだな……フフフやめろ舐めるなって」 ご満悦のマトリが学院で怖いと陰口叩かれているとは皆、夢にも思わない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルミア・バリシス/ フィアマ・ソルフィネア |
ルミア・バリシスにとって学院の高い白壁を越えることなど造作もないことだった。 彼はほろ酔いで壁を越え、いつものように二階から寮に戻ろうとして…。 「あらっ? ルミアさんもオットイレですの?」 というフィアマ・ソルフィネアに発見されてしまった。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | スクレ |
睡眠過剰気味の小人種スクレにとって、夜も昼も大差がない。 彼女は貴族の集まる酒場“一角獣の森”亭でワインをたしなみながら同席していた貴公子たちに樹法について講釈していたが、急に席を立った。 眠くなったのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エルディール |
どことも知れぬ闇の中、エルディールは息をひそめた。 重力もない。上下もない。何も、ない。 鮮やかな赤のマントの形と揺らぎを意識する。 開いた本の中から目玉がぎょろりと彼女を観測して、エルディールは形を取り戻した……。 illust.たつよ |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | アルトレーゼ |
聖騎士アルトレーゼは所用で軍事拠点を訪れていた。 その帰り道、一人の青年に声をかけられた。若き騎士ライル・クロイツァーである。 「お父上にはお世話になりました」 礼儀正しいライルに、アルトレーゼは困惑する。 父は父だ。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルー |
ルーは最近、学院に通うことが楽しくなり始めている。 彼女にとって他人は恐怖の存在だったが、しかし今は違う。友人が、できたのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
色街で娼館を営むスカーレットは、見つけた小瓶をつまみあげる。 娼婦の一人が小さくなって彼女の前に座っていて、スカーレットはふんふんと鼻を鳴らした。 「あんたに出してるお小遣いは、こんな“の”を買わせるためじゃないんだよ」 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ロア・フィーリス/ リン・フィーリス |
ロア・フィーリスは、妹のリン・フィーリスと一緒に食卓についた。 苦労して妹の作ってくれた夕食を口に運ぶ。 「今日ね、革飾りが売れたんだよ。キキに」 そう嬉しそうに話す妹を見て、ロアは彼女を芸術の学校にやれない自分のふがいなさを思うのだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン/ ヴェックマン |
「きっとね、樹法具ですわ。千五百年以上前。しかも稼働状態!」 ラスグィル・ダルジェエリングはため息をつく。 「残念」 「そんな危ない物」 レイ・セラインは苦笑い。 「お手柄よ。ヴェックマン」 ヴェックマンは美女二人を見比べて小さくなった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | スイ・フィラロイト |
樹石職人であるスイ・フィラロイトは、鑑定を依頼された緑色の輝石を見つめた。 「これは瑪瑙の特徴を備えているけど光に当てた時の反射角度や透過光を考えると瑪瑙ではない珪岩とも水晶とも違うアベンチュリンはもっと細かく光るはずじゃあこれ」 彼は呟く。 「欲しい」 |
時間 | 朝 | 場所 | 港 | 登場人物 | シュネーバル |
自作のゴーレムの関節がぎちぎち言う。 どうやら昨夜水草かなにかが噛んだらしい。指を突っ込んで取るには、くさい。 シュネーバルは眉を上げて、ゴーレムに自壊の樹文を唱えた。 がしゃん、と崩れたゴーレムからコアを取り出し、夕べの奇妙な怪物について思いかえす。
「僕が人助けなんてね」 彼はくすくす笑った。青い箱は、助けた男はこけつまろびつ逃げ去り、怪物は青い箱を抱えて海へと消えていった。 どうやら、樹法具のようだった。仕組みについては……。 「面白いものを見た」 天才はそうつぶやいて、にっこり笑うのだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 港 | 登場人物 | ヴェックマン |
情報屋ヴェックマンは港近くの路地で、手に入れた青い箱を眺めていた。 買い手もついて、買った時の倍で売れそうだ。世間知らずの探偵様はちょろい。 その時、ヴェックマンの手の中で箱がほんの少し振動し、生臭い匂いが漂った。 「ん?」 彼が振り返ると……。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルイス・キャロル |
ルイス・キャロルはアリスから聞いた違和感について調べていた。何かに呼びかけられる感覚があったという。 「樹法具か何かでしょうね」 彼はとりあえずそう結論付けた。本体が別の場所にあって、そこから何かを転送する。 ルイスはそんな存在を知っている。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
情報屋ヴェックマンには樹法や錬金術、考古学の素養はない。しかし、それを持つものにとっては、買い取った青い小箱は十分すぎる価値がある物なのだろう、と、彼は考えた。 持ち込んだ盗賊が、怪物がどうとか言っていたがかまうことはあるまい。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ノワ |
盗賊ノワは一人、鼻を鳴らした。 盗賊たるもの、盗みは堂々とすべきだ。夜の闇にまぎれて生活に困らない金持ちの金庫からスマートにいただく。誰も傷つけない。 詐欺まがいのことをして女子供から掠め取るのは、彼の流儀ではない。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
エルルカは朝早くに寮を抜け出し、近くの礼拝堂に確認に行った。あの青い小箱がどうなったかがどうしても気になったのだ。くだんの小箱は消えており、彼女はほっと胸をなでおろす。同時に小心な自分が、なんだかひどくちっぽけに思えた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト |
ジャン・ジルベルトは一人、黒い法衣のまま、オーリエル学院近くの礼拝堂に入った。 思った通りだ。青い美しい箱が、祭壇の脇にひっそりと置いてある。 彼はあまりに簡単な仕事に笑い出したくなるのをこらえてそれを取り上げると、早速裏町に向かうのだった。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
エルルカは懺悔室で言われたとおりにした。 盗み出した青い箱を、そっと学院の外、人気のない小さな礼拝堂に置いたのだ。 大いなる源樹が、きっとこの気持ちの悪い綺麗な箱をなんとかしてくれるだろう……。 エルルカはそう考えた。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ アルフレド |
ラスグィル・ダルジェエリングはどさり、とタレント硬貨の詰まった袋をとりだした。 「耳が早いですね」と、アルフレド。 「わたくしの興味を引くものがあるといいのですけれど」 と、ラスグィルは難破船から引き揚げられた品物を値踏みする。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
武術の腕を磨くメイ・アサーシャにとって、アリーナは楽しめる場所だった。 さまざまな武術の達人が次々現れ、腕を競っている。 もちろんメイも出場することも出来るが、彼女は今はその武道大会を見ることに満足している。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | エルルカ/ ジャン・ジルベルト |
「エ…わたしは罪を犯しました」 エルルカは朝早くにシドリア大聖堂に向かうと、懺悔室で盗んだ小箱について告白した。 気休めと思うが、気にせずいられるほど彼女は豪胆ではない。 「箱、ですか」 懺悔を聞いた、ジャン・ジルベルトは薄く笑った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
ぬたり、という音で、エルルカは目を覚ました。 目を開けると彼女のかわいらしく調度品がならんだ部屋に、黒い人影があった。 きつい潮の匂いがする。そいつは海藻をたばねたような姿で、かろうじて人の形をしている。 エルルカは悲鳴を上げた。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
エルルカは奇妙な感覚にとらわれている。 難破船からこっそり持ち出した青い小箱。 箱のはずだが開かなくて、磨くと不思議な模様が描かれている。 綺麗だから持ってきたのだけれど……。 今更になって自分が盗みをしたことに思い至り、彼女はどきどきした。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アーベン/ エクス |
アーベンはうきうきと広げられた財宝を品定めした。 「すごい。どれも700年は前の品です。これ、アルストロメリアの名前が入っている。当時のソーンの王太子ですよ。彼は……」 解説するアーベンの話に、エクスは興味深げに聞き入っている。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン/ ミニジン |
ファル・ワン・エンワンは憮然となった。今度は無実だ。 「なんなの、もう」 彼女の窓のあたりで、濡れた足跡が見つかったのだ。 また男の子を連れ込んだと思われた彼女は無実を訴えたが、ミニジン先生は「もうオバケ騒動は沢山です!」と取り付く島もない。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルイス・キャロル/ ルー/ ルミア・バリシス |
「休講? ルイス先生のが?」 うきうきと校門から出て行こうとするルミア・バリシスを見とがめたルーが聞くと、ルミアは休講を告げた。 「ふ、ふふ…。奴のとこにはかわいい“の”がいたからな…」 含み笑いをするルミアに、ルーは目をぱちぱちした。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ エルルカ |
ファコン・ソルフィネアらとともに難破船を探検にいった件については、ミニジン先生にこってり絞られたのだが、それはそれとしてエルルカの目の前には、一つの小さな箱がある。 綺麗な青い箱で、エルルカはこっそりとそれを難破船から持ってきたのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ノシュマン |
「ほう」カフェ・ド・エクスには、ぷんと潮の匂いが漂っていた。 引き上げた品物のいくつかが、どうだとばかりに並べられている。 ノシュマンは興味深げにそれぞれつまみ上げて顎を撫でた。 「結構古いものだね。どれだけ漂っていたんだろう」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アルトレーゼ/ アフィーネ |
聖騎士アルトレーゼと聖職者アフィーネは、のんびりと海岸を歩いていた。 アルトレーゼはアフィーネに誘われて海水浴に行ったのだが、出る前の渋りよう嘘のように微笑んでいる。 夕焼けの海に、エクス商会のカラベル船が戻ってくるのが見えた。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エクス/ キナ・ラトセラ |
エクスは船上を楽しんでいる。 昨日、難破船の調査に出た軍の船は、周辺の海流に阻まれた。 「でも小回りが利く船で、風の樹法使いを乗せれば」 彼女は自信たっぷり。 乗船したキナ・ラトセラが、船倉でオーリエル学院の学生を見つけるのは、沖に出た後である。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン/ ファコン・ソルフィネア |
ファル・ワン・エンワンは、朝早くでかけていくファコン・ソルフィネアらをうさんくさげに見送った。 揃いも揃ってこそこそとしている。 だが彼らがいないのは好都合だ。 ファルは親しくしている男の子のもとに向かった。 同級生はみんな子供! |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア/ アリス |
「どうなさいましたのかしら?」 アリスを部屋に招いてこっそりとお茶を飲んでいたフィアマ・ソルフィネアは、急に押し黙ったアリスの小さな顔を覗き込んだ。 アリスは立ち上がると部屋を出ていき、フィアマは「なんなんですのかしら……」と首を傾げた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | シエラ |
夜、星と天枝の運行を見ることは、シエラの日課の一つである。 占いは所詮占い、などと言われるが、彼女の付けた記録は占い以外にもさまざまな天候予測などに使われた。 「……?」 シエラは海魔枝のあたりにちらつく星を見た。 良くない兆しかもしれない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | エイミィ・イッシュ/ エクス |
エイミィ・イッシュは戻ってくる“飛象号”を眺めた。 エルディソン川にかかる橋がゴーレム仕掛けによって上がり、五本マストを迎え入れる。 「実はさ」 彼女は不意に話しかけられ振り向いた。話しかけたエクスがにやっと笑う。 「お宝さがしに行きたいんだよね」 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍港 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
ライル・クロイツァーは、軍船“飛象号”の甲板にあった。 漂流船が沈んだという報告を受けての確認だ。 「あのあたりは地根から飛び出した根があるから、それに腹ァひっかけたんじゃないですかね」 海兵の一人がそう言った。 |
時間 | 朝 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | キナ・ラトセラ/ シェック |
「聞いた?」キナ・ラトセラは、虎の鰭亭で魚の下ごしらっをするシェックににこやかに話しかけた。 「ソーンの沖で船が沈んでるって話」 キナはもともと船乗りなので、この手の話は耳が早い。 「それがね、乗組員がみんな死んで漂流してたって話でさ……」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | シヅキ/ ブロックマルツ |
鬼人種の武闘家シヅキは、一人の小柄な獣人の老人を前に、沈黙を守る。 「いい腕じゃねぇか」 老人……ブロックマルツは笑いかけた。 しかしシヅキは、彼の後ろに、闇の中に、無数の目が隠れていることに気付いていた。 「仲間にならねぇかい?」 シヅキは首を振る。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | フィリアス |
小人種の樹法使いフィリアスの自宅は、さながら植物園のようである。 高価なガラスを使った温室は丁寧に区分けされ、ある部分にはエードローエの植物が、こちらの氷室にはオルオラの植物が植えられている。 だが主役はあくまでそこに飼育される昆虫だ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロック・トライボー/ ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
「ボロボロ屋はいつもボロだなぁ」 建て付けの悪いオーク材の扉がぐうっと開かれ、ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは顔を上げた。 入ってきた若者の鎧も剣もひどく傷んでいる。 ボルブはふーっと笑うと、ロック・トライボーに言った。 「ボロはどっちですか」 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス |
ガルム・ウォレスはため息をついた。 今日は大きな動きもなく平和な一日なのだが、先日軍の厨房で業者が変わったらしく、すっかり味が落ちたのだ。 将校であるガルムは本来別メニューでもいいのだが、彼はそうしていない。 「さて」 彼は顎を撫でた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー/ アメリア |
朝日が差し込むころ、ロック・トライボーの鎧には傷が入り、せっかくの装飾も剥げ落ちていた。 だが、彼の背後の少女は、まだ生きている。 彼らを狙う魔獣も。 と、その時だった。 白い翼の女戦士が、魔獣の背後から舞い降りるとその背に槍を突き刺した! |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ロック・トライボー |
ロック・トライボーは左手に持ったたいまつを掲げた。 右手の剣の目釘がガタついている。 迷子の少女を送り届けるべく寄り道をしたのだが、魔獣に囲まれてしまったようだ。 彼は背後で震える少女に、精一杯のやせ我慢で笑いかけた。 「大丈夫! 任せろ!」 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
いつも来ている客が来ない。ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは閉店を伸ばしてカウンターで腕組みをした。 英雄にあこがれる若者だ。 いつもならそろそろ来るはずなのに。 まさか何かあったのでは。 彼は口を引き結んだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | アルメル/ レビィア・トピアス |
日が暮れはじめ、アルメルはお菓子の露店を店じまいしはじめた。 そこに赤毛の兎獣人が駆け込んでくる。 「待って、待って! 残ってるものある?」 アリーナの剣士レビィア・トピアスは、いきつけとなりつつあるアルメルの露店で、たっぷり弟の分も買い込んだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | デュリン |
ゴーレムのゴーちゃんを連れ、天真爛漫ゆえの棒弱無人さでうろつく小人種のゴーレムマスター、デュリンに、驚くべきことがあった。 彼女のゴーレムであるゴーちゃんが、広場の子供の間で人気者になってしまったのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | カプノ・ドゥエィス | 登場人物 | ヨルダ |
魔香街カプノ・ドゥエイスはいわゆるスラム街である。薄汚れた路地に、行き場のない人々が隠れ住む。 鬼人種の部族になじめずふらふらと放浪するヨルダもまた、その一人だ。 彼女はさわやかとは言えない朝を迎え、住処に戻った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ヨキ |
要人のボディガードを務めるヨキに、深夜、ひっそりと接触を試みる男があった。 裏切りの相談である。 ヨキは心底から落胆する。 世界は、かくもつまらなく、薄汚い。 彼女は斧の血を払って、ため息をついた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アステール/ オルヴァ |
王立樹法研究院の麒麟児アステールは、さすがに観念して研究院の椅子に座った。 「私はいいんだけどね」 オルヴァは腕組みをする。 「そろそろ何か論文の一つも出さないとまずいよ」 「じゃあなにかパッパと作るよ」 アステールは口をとがらせながら言う。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | マロン/ ノダ |
街外れの宿で働くマロンは眉を上げた。 「ノダさん」彼女はテーブルにがしゃんと食事を置き、腰に手を当てる。 「結構溜まってますよ、ツケ」 「やっぱり?」 言われたノダは料理に手を伸ばしながら思案した。 倉庫の中から何か売るしかないか。 |
時間 | 昼 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ノエル |
獣人種の料理人ノエルは、いつものように真鍮広場に屋台を出したが、どうも今日は人が少ない。 とはいえ忙しいほどでもなく、彼女はぼんやりと尻尾をくわえた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ダイン |
ダインは朝の仕事のためにぐいっともろ肌を脱ぐ。 実際鍛冶の仕事は力仕事だし、ぴらぴらした服など着ていて火が付いたり鎚に巻き込んだりすると面倒なことになる。 ダインはその恰好のまま表で水撒きをして、道行く若い女性がぎょっとしたように彼を見た。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 六骨市場 | 登場人物 | イスラ/ ライル・クロイツァー |
見習い錬金術師イスラはいてもたってもいられず住処を飛び出した。 夕方には戻るはずの師匠がいまだに戻らないのだ。何かあったのではないか。 走る彼女は、夜警をしていたライル・クロイツァーとぶつかる。 「どうしました?」 彼は聞いた。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アルフレド/ リーズ |
「おつかれさま」 一日のアルバイトを終えたリーズに、机を拭いていたアルフレドが笑いかけた。 「よかったら、コーヒーでも飲んでいかないかい? 新しいお菓子を試したいんだ」 リーズは少し考えて「ミルクがいいです」と、言った。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
街外れに蛮人種の一団が現れたとのことで、ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは手勢を率いて討伐に向かう。 彼自信も、率いる騎兵も、ドットレムの有翼騎兵ほど精強とは言えないが、ルイは胸を張って軍旗をなびかせた。 |
時間 | 昼 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ミーシャ/ ドクトル・ハニィマシュー |
「それ、いくらかね」裏町で調合した薬を売っていると、身なりのいい男が話しかけてきた。 ミーシャはちらりと男を見る。匂いからして医者だろう。薬は1タレントと2タレル。 ミーシャはドクトル・ハニィマシューに告げた。 「2タレントだよ」 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヒルデガルト・リーデルシュタイン/ トニョ・ベルトラン |
ヒルデガルト・リーデルシュタインは、いそいそと出ていくトニョ・ベルトランを寝たふりのまま見送った。 幼い彼が、新しくできた学院に興味があるのは分かる。 行かせてやりたくはあるが、そうすると彼女は一人になってしまうのだ…。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | アキレァ |
アリーナの剣士アキレァは、いささか後悔していた。 ファンだという貴族がパーティに来て欲しい、というので、(食べ放題に釣られて)のこのこ登場したのだが、どうも剣士というよりも芸人のように思われている気がする。 腹も膨れたし、そろそろ退散すべきだろう。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ルイーズ/ ヴェステルナ |
「家? ないよ」虎の鰭亭で、家で娘ルイーズは笑って言った。 相席した黒衣の女剣士は深刻な顔をする。 「……世の中はそんなに貧しいのか?」 「それだったらこんなところで食べてないよ。ここ、結構高いし」 「たかかったのか」 「へんな人だなぁ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト |
シドリア大聖堂で源樹教に仕えるジャン・ジルベルトは、法衣のままで人込みを歩いていた。 その左手が素早く動き、不注意な商人の懐から財布を抜き取る。 彼の正体は、裏町の盗賊なのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ブロックマルツ |
裏町である組織を束ねている獣人種の老人ブロックマルツは、ある貴族の応接間で完璧なマナーでお茶を飲んで見せた。 対面する貴族も同様だ。 「いい天気ですなぁ」 ブロックマルツは窓の外に目をやる。 戦いは始まっている。 |
時間 | 朝 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アルフレド/ エイミィ・イッシュ |
アルフレドは、朝の光を浴びるカフェ・ド・エクスの店前を掃き清める。 「おはようございます!」と、通りかかったエイミィ・イッシュが声をかけてくれる。 あの人、いつもいるな、とアルフレドは首を傾げた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア |
幽霊騒動の正体も分かり、フィアマ・ソルフィネアは安心してぐっすりと眠る。 しかし寝る前にたくさん果物を食べたのが良くなかったようで、彼女はもぞもぞとベッドを抜け出した。 鼻歌交じりにお手洗いに向かう彼女の背後で、窓に……。 あぁ窓に! |
時間 | 夜 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | リッカ/ ザクロ |
ラ・メル・ソーンで働くリッカは、実を言えばケアをしてもらう機会は多くはない。 マッサージ店を営むザクロも同様で、たまたま一緒になった二人は、お互いに順番にマッサージしあうことにした。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ロア・フィーリス |
ロア・フィーリスが営む修理屋にはさまざまなものが持ち込まれる。 持ち込まれるものにはすべてに、買い替えではなく修理を選ぶ理由があるのだ。 ロアは義手でひっかけた小さな木の玩具を手に取った。帰らぬ息子のものだという。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ウリエラ/ ヘンリー・オーグスト |
錬金術師仲間であるウリエラの部屋にお邪魔したヘンリー・オーグストは絶句した。 「これ、どこに何があるか分かるんですか?」 ヘンリーがおずおずと聞く。 貴族で通るような美しい錬金術師は、ゴミ箱をひっくり返したかのような部屋で、 やはり優雅に頷いた。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファル・ワン・エンワン |
ファル・ワン・エンワンは眉間にしわを寄せた。 昨夜廊下で大捕り物があり、ほとんど眠れていないのだが、しかし彼女の眉間のしわはそのせいではない。 「普通に男の子は入れるなら、なンで私が起こられたんですのよ…」 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | アリス |
オーリエル学院に住み着いている少女アリスは一人、女子寮の廊下を歩いている。 同居人のルイス・キャロルがおらず、しかし出歩いてはいけないという彼の言いつけを守っていた。 こうしてシーツをかぶっていれば、私が誰だかわかるまい…。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルイス・キャロル/ アリス |
「いいですか」 ルイス・キャロルは、同居している謎の少女アリスに根気強く言った。 「今夜はどうしても出かけなければなりません。部屋から出ずに、力も使わずに」 「わかったわ、マスター」 アリスは頷く。 とりあえず。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
「ない、ない。ここ、改装したばっかりだよ」 詰めかけた学生たちに、メシュ・メシュはけらけらと笑った。 「幽霊なんて出るわけないよぉー」 ほっ、と弛んだ空気が漂う生徒たちに、メシュ・メシュは背を向けて声を落として言った。 「でもさぁー……」 「ここ、前は王太子府でね。むかーし、玉座を争って血で血を洗う戦いをしたっていう王子が二人いてね…どっちも死んじゃってるんだよねぇー…」 ごくり、と生徒たちが息をのむ。 「きっとさ、恨んでるだろうねぇ…」 メシュ・メシュは息をついて見せた…。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルー/ エストリフォ |
「え? おばけ?」 ルーは首を傾げた。 オーリエル学院の女子寮で部屋をノックして回るという話だ。 ルーは女子寮ではなく師匠のもとで暮らしているから、とんと知らない。 視線を向けられたエストリフォは小さく首を振った。 「わたしも見てないの」 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ エルルカ |
「本当だ! 見たんだよ!」ファコン・ソルフィネアは口角泡を飛ばして力説した。 昨夜妹が見たという幽霊を捕まえるために張り込んだというが、エルルカはむしろ、女子寮の廊下に深夜で張り込んでいたということのほうが気になるのだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
ファコン・ソルフィネアは鼻息荒い。 「幽霊だって? そんなもの恐れるものか」 彼はオーリエル学院生の刃引きした剣を握り、シーツに地図を描いた妹の名誉のために一人、深夜の廊下で怪気炎を上げた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン |
ラスグィル・ダルジェエリングは、住処にしているアパルトマンで独り考え事をしている。 考え事をするときにヴァイオリンを唸らせるのは彼女の習慣だが、同居人のレイ・セラインがそれに合いの手を入れ始めて、彼女は憮然としてヴァイオリンを放り出した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | フクマル |
職人街で食堂を開くフクマルの店は、安くて量が多いと評判だ。 食材を安く多めに仕入れて、手間をかけて調理することでこれを可能にしているのだが、読みを間違うと結構な余り物が出てしまう。 そういう日には、フクマルの腹回りが少し膨らむのであった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍港 | 登場人物 | キナ・ラトセラ |
「ほー」 キナ・ラトセラは軍港に停泊する巨大な重ガレオン船“海鼠号”を見上げた。 こりゃすごいや、と4本マストを眺める。 この船が入港するために、エルディソン川にかかる橋は樹法を使った可動橋に造り替えられた。 ソーン観光の目玉である。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ガルム・ウォレス/ エレナ・ウォレス |
ガルム・ウォレスはその日、我が家に入るために足音を忍ばせた。 昨夜は娘のエレナ・ウォレスが特にと食事を作って待っていたはずだった。 そのことは楽しみにしていたのだが、折悪く貴族街で騒ぎがあって出動がかかり、使いすら送ることができなかったのだ…。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | エニシ |
こんなはずではなかった。 鬼人種のメイドであるエニシは、行き倒れ寸前にパンをくれた少女のために短期メイドとして彼女の屋敷に入っていたのだが…。 「うわっ」 闇の中から繰り出される暗殺者の短剣を、エニシは金棒で打ち払った。 こんなはずではなかった! |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ロック・トライボー/ ヴェステルナ |
「そこで俺の見たものはさ!」 ロック・トライボーは虎の鰭亭でジョッキから口を離してナイフを振った。 「牛くらいもあるでかいトカゲだ! 俺はそいつとこう…戦ったんだ」 「すごいな」 かなり盛った話に、黒衣の女剣士が興味深げに聞き入っている。 |
時間 | 夕方 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ニレル・ナタン/ アフィーネ |
聖職者にして治癒術士であるニレル・ナタンは、いつもの表情のままでシドリア大聖堂の階段に座り込んでぼんやりしていた。 アフィーネはただ黙って隣に座る。 助けられなかった患者を看取った後のニレルがいつもこうなのを知っているから。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは、珍しくボロボロ屋とあだ名される店を休んで鉱山に出かけていた。 材料である金属の仕入れのためである。 本物の貴金属である必要は無い。 格好よく、らしく見えるものが必要なのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | フラーニ |
フラーニは、父の友人であるおじさんと、山を朱に染める朝焼けを眺めた。 たまたま早起きしてしまったからなのだが、おじさんは暖かいお茶を淹れてくれて、「ハンパなく」美しい暁の空を眺めるのだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | マグリア・A=ドラグ |
マグリア・A=ドラグはいささか後悔する。 エルディカにもぐる冒険者について行ったのだが、どうやら一部でソーンの下水道に繋がっていたらしい。現れた子供ほどもある大ネズミから逃げ回りながら、彼女は毒づいた。 「こんなの、ちっとも知的じゃない!」 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | シェック |
シェックは、普段は昼の間しか虎の鰭亭にいないが、今日は特別だ。 「ったく、どこ行ったんだ」 彼は口を尖らせた。 入れ替わりのはずのルティンが、時々現れる黒衣の女剣士ヴェステルナとともにどこかに行ってしまったのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シヅキ |
面は、鬼人種にとってかけがえのない物である。 先日の戦いで傷ついてしまったそれを、シヅキは丁寧に補修した。 辰砂から作った朱色を塗りつけていく。 がたっ、という玄関の音に、シヅキはとっさに腕で顔を隠した。 夕食を届けにきた少女である。 「置いてくれ」 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア |
兄と父が出かけており、アメリアは機嫌よく厨房に立った。 昨日、行商に出た父が珍しい黒い砂糖を持ち帰ってきており、これを使ってなにか変わったお菓子を作ろうと考えたのだ。 二人が帰るころに出来上がっているといい。 素敵な夜になるだろう。 |
時間 | 朝 | 場所 | 東側・六骨市場 | 登場人物 | ミサギ |
鬼人種の戦士ミサギは軽装を好むが、なにも防具を身につけないというわけではない。 鬼人種の技術で鍛造された剣や籠手は替えが利かないが、それ以外のものはこの六骨市場で手に入る。 彼女はくたびれたブーツの替えを探しに市場を訪れた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミーシャ |
ミーシャは、街外れで営業している宿屋に世話になっている。 宿屋では酔客が二階の部屋に戻れず一階でくだを巻いているようだった。 「手伝ってくれない?」と言う女主人に、ミーシャは顔をしかめた。 「やだよ……」 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | アリス |
オーリエル学院の寮の一室で、アリスは戻ってこないルイス・キャロルを待っていた。 暇だし、つまらない。 彼女はふらふらと部屋を出ると、夜の街に繰り出した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルイス・キャロル |
オーリエル学院で教師として生業を立てるルイス・キャロルは、その本業がどうであれ、ある程度は教師としての仕事をしなければならない。 彼は先日生徒たちに課したレポートの採点のために、教員室に居残りする羽目になった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
街外れの砂浜でのんびりと昼寝をしていた獣人種の武闘家メイ・アサーシャは、助けを求める声を聞きつけた。 ソーンから漁村に戻る村人が、数匹の野犬に襲われて逃げまどっている。 彼女は水着のままで飛び出した。 |
時間 | 朝 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ゼフィランサス |
地根の迷宮エルディカに昼夜はない。 青騎士とあだ名されるゼフィランサスは、青白い光の下でわずかな時間まどろんだ。 もはや睡眠は必要ない彼である。 そのまどろみは、はるかな昔の光景を思い出し、魂を保つための儀式のようなものだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ノワ |
盗賊ノワとて、毎晩のように盗みに入っているわけではない。 たっぷり稼ぐことが出来れば、数日こうしてのんびり過ごすことも出来るのだ。 彼はアラワクの作るカクテルを静かに傾けた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | ザクロ |
普段ラ・メル・ソーン近くのマッサージ店を営むザクロは、たまに出張で施術をしに行くこともある。 その夜は、色街での仕事だった。お客は普段は店に来る常連。 勝手は違うが、やることは同じだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ボタン |
鬼人種の未亡人ボタンの住処には、大きな植物園が備えられている。 彼女はそこで、たくさんの薬草を育てているのだが、最近ここを遊び場にする子供たちがいるらしいことには困り果てていた。 薬草は、ともすれば毒草でもあるからだ。 何かあってからでは遅い。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | スカーレット |
昼夜逆転生活をするスカーレットは、昼の遅くにようやく身を起こした。 香が焚き染められた部屋のベッドに眠っているのは彼女だけではない。 スカーレットは腕に抱き着いて眠っている幼い少女をつついて起こした。 「いつまで寝てるんだい。朝食にしておくれ」 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ノア |
小人種の錬金術師ノアは、日々勉強を欠かさない。 今日も彼は自宅で朝早くから昨夜の復習をするべく、机の上に開いたままの本を取り上げた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ララ |
ララはへまをした。 盗賊である彼女は、いつものように深夜の商店を狙ったのだが、運悪く警邏の兵士に発見されてしまった。 「止まれ!」 後ろから声が聞こえるが、止まれと言われて止まる盗賊がいるだろうか。 ララは裏路地を選んで走った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アーベン |
アーベンが家に帰ると、家の中が何者かによって荒らされていた。 金目のものはもとよりない。アーベンは油断なく部屋を見回し、すぐには部屋に戻らず一度行きつけの宿に向かった。 待ち伏せされているかもしれないからだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | イスラ |
錬金術師のタマゴであるイスラは、今日は少し背伸びをしてカフェ・ド・エクスのカウンター席に陣取っていた。 師匠は王都で用事があるとかでしばらくいないので、面倒な夕食作りもしないですむ。 イスラは存分に羽を伸ばすつもりだった。 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アルトレーゼ |
聖騎士アルトレーゼは仏頂面を崩そうともしない。 シドリア大聖堂に大口の寄付をしている大商人の男が、是非に、と、見事な刺繍の入ったドレスを持ってきたのだ。 聖なる源樹の盾であり槍を自認する彼女ではあるが、一回くらいは袖を通さないわけにはいかない。 |
時間 | 朝 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | シル |
普段は街外れで暮らしている治癒術士シルは、今日はソーンの軍事拠点に来ている。 兵士たちは日々の訓練で怪我をすることも少なくない。 その兵士の一人が、たまたま彼女の作った薬を気に入って、偉い人に紹介したらしい。 場違いな雰囲気に、シルはおどおどした。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴァネッサ |
裏町組合の調毒士ヴァネッサは、ソファに深く沈みこんだ。 手のひらで小さな香炉をもてあそぶ。火がついており、乗せた粉から煙が上がっていた。 目の裏がぱちぱち言って、彼女は頭を振る。 売り物の試験だ。 意識を飛ばす薬だが、自分が飛ぶわけにはいかない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ノシュマン |
ノシュマンは火の落ちた工房をゆっくりと見まわす。 初夏だというのに、不意の寒気に膝が痛んだ。 古傷である。 これがなければ、彼は戦士として今頃脂ののった働きをしていただろう。 ノシュマンはため息をついて、杖を握り直した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ルルバ |
シドリア大聖堂には、大きな墓地が併設されている。 そこの墓守いわく、最近妙な人影がうろついているという。 ルルバが数人の死体を持ち込んでからだ、というので、ルルバとしても穏やかではない。 仕方なく彼女は、墓守の真似事をする。 |
時間 | 昼 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ミニジン |
オーリエル学院で教鞭をとるミニジンは、本来は数学者である。 王女府に招かれた彼女は、渡された橋の図面に目を通した。 「これじゃ落ちますね」 彼女は言い放ち、赤いインクのペンを手に取る。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア/ トニョ・ベルトラン |
フィアマ・ソルフィネアは、実際はオーリエル学院生ではない。 気ままに過ごす彼女は、学院の壁のそばで中を覗こうとする黄色いひよこの獣人少年を見つけた。 「あなた、何してますの?」 声をかけられたトニョ・ベルトランは驚いて飛び上がる。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
オーリエル学院の男子寮を抜け出したファコン・ソルフィネアとその一党は、高い塀を乗り越えて待ちの酒場に繰り出した。 その夜の夕食があまりにも貧相だったためだ。 「おごるぞ」と言ったファコンは、その言葉を後悔することになる。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ナギ・ルーシプルムス |
夜のナギ・ルーシプルムスは、腕利きの狩人としての顔を見せる。 夜目の効く彼女は夜の闇を音もなく走り、夜行性の獣を狩るのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ブラックフォックス |
ブラックフォックスは機嫌がいい。 数日かかった護衛の仕事は退屈で不本意だったが、得られた銀貨に罪はない。 大病を患う妹のために、これで何か美味しい物でも買ってやりたい。 肝心の薬には届かないだろうが。 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | リズベット・ルー |
リズベット・ルーは錬金術師である。 彼女は未知の財宝や技術に興味を持ち、迷宮エルディカを擁するこのソーンにやってきている。 「どうだい、いいものはあったかい」 リズベットは興味津々に、エルディカから引き揚げてきた冒険者に話しかけた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エミリー |
アパルトマンで借家暮らしをしているエミリーは、窓の外で小鳥がさえずる声を目覚ましにしている。 「ふわぁ……」 彼女はおおきく伸びをしてから寝間着のまま窓を開けて、袋に入れたパンくずを取り出した。 「さ、朝ご飯よ」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | スズラン/ シュネーバル |
ゴーレムを遊び相手としていた鬼人種の少女スズランは、ある時出会ったゴーレムマスター、シュネーバルと意気投合した。 二人は楽しいことが好きだったが、あいにくと遊び相手に恵まれていなかったからだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | エレナ・ウォレス |
樹法の研究を続けるエレナ・ウォレスは、ごくごくまれに研究院に泊まり込むことがある。 彼女の実家は名家であるし、彼女の父はエレナが外泊することを喜ばないが、しかしエレナはそんなたまの外泊が好きだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
以前の発見に味を占めたドクトル・ハニィマシューは、地根の迷宮エルディカに赴く頻度が目に見えて増えている。 彼は探検道具に湯水のように投資し、いっぱしの冒険者のような風情で夕刻、鼻息荒くエルディカに乗り込んだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
ちび宰相メシュ・メシュは、ソーンの西側を預かる宰相である。 彼女の最大の武器は情報で、部下のもたらす情報を分析し、状況を把握し、主導権を握る。 それにより、彼女は今日、一人の有力貴族の支持を取り付けることに成功した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 虎杖門 | 登場人物 | スクレ |
王立樹法研究院のゴーレムマスターであるスクレの今日の仕事は、虎杖門に据えられているゴーレムのメンテナンスである。 この二体の巨大なゴーレムは、もう数百年動いていないが、それでも有事の際は動けるようにしておく必要がある。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ヨキ |
ヨキは手にした斧を振って、まとわりついた血を払った。 くだらない世の中である。 彼女は護衛対象だったドットレムの貴族を眺める。 腰を抜かした彼は、恐怖の混じった目でヨキを見上げた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
情報屋ヴェックマンには敵が多いが、彼はそれを脅威とは感じていない。 今も、目の前ですごんで見せている男に、彼は悠々と肩をすくめて見せた。 「いいけどな。あんたの雇い主に聞いてくれよ。俺に何かあったら、全部流出する手はずになってるけどいいかって」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | エストリフォ/ ヴェステルナ |
双子都市ソーンは二人の王女が分割して統治していた。 住民たちに不便がないよう、防衛力に不安が生じ近隣の野心を煽ることのないよう、定期的に話し合いの場が持たれる。 形式上、隣同士で座に就いた二人の王女は、しかし言葉を交わすことはなかった…。 illust.moryo |
時間 | 昼 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | エストリフォ |
白王女エストリフォにとって、現在の王女府は特別な場所だった。姉の居城であるという以上に、ここには父王であるアルヴァルト王との思い出も収められている。「どうしてこうなっちゃったんだろ…」エストリフォは誰にも聞こえないようにつぶやいた。 |
時間 | 朝 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | アキレァ |
午後の試合を控えて、アキレァは(彼女にしては)軽めの食事と軽い運動で英気を養っている。 そこにやってきたのは、一人の身なりのいい男だ。 彼は彼女に「午後の試合で負けてくれ」と持ち掛ける。 アキレァは鼻を鳴らした。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | リー |
あまり人と交わらない鬼人種の錬金術師リーは、ひとり、宵闇の華亭のカウンターで酒杯を傾けている。 物心ついたころから孤独を好んでいた彼だったが、酒場の喧騒は案外と嫌いではない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シヅキ |
用心棒である鬼人種の武闘家シヅキは不本意な仕事をすることも多い。 しかしその夜は違った。 貧しい農村に夜ごと訪れる無頼の野伏リどもから村を守るのだ。 村の娘を背に、彼は山賊まがいどもを見回した。 「さぁ、誰から死にたい?」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ヤルドレド |
暗殺者ヤルドレドは、夕暮れ時の赤盾市場で果物を一つ見繕っていた。 「これは、甘いか」 彼はリンゴを一つ指差して、店の女性に聞く。 「そんなの、割ってみないと分からないよ」と言われ、もっともな話だ、と、彼はそれを三つ購入する。 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | フィリアス |
エルディカで奇妙な仕掛けを踏んだらしいフィリアスは、暗闇の中で目を覚ました。 近くにいたはずの仲間ともはぐれている。ここは一体どこだろうか……。 フィリアスは樹文を唱えて小さな明かりを発生させた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
自宅に併設した診療所“ラズライト”の扉に『休診中』の札を下げ、ベルゼ・カロンは猫科獣人種らしく伸びをして大きくあくびをした。 昨夜はどこで刺されたか言えない急患で忙しかった……。 今日はゆっくり眠ろう。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブラックフォックス/ メノウ |
「もう面倒だ」 ブラックフォックスはうんざりと言った。 「そう言わないでくれよ」と、メノウ。 組合の幹部の護衛を数日引き受けたブラックフォックスだったが、オーダーは「誰も殺さず追い払え」だ。 おかげで終わりが見えない……。 彼女は渋面を作った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アーベン |
帝国時代初期は、つまりノードス戦争の真っ最中である。 そのころの遺跡をいくつか探索したアーベンは、奇妙なことに気付いた。 現在と違い完全な樹力に満ちていたはずなのに、彼らは樹力を使わない武器の開発に熱を上げていたようなのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | アルフレド |
カフェ・ド・エクスのバリスタであるアルフレドは、たまの休暇を得て、西側の商業港に繰り出した。 ここには外国の港から様々なものが降ろされる。 アルフレドのお目当ては、コーヒーの豆だ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エリク・ヤヌシュ |
エリク・ヤヌシュは、木漏れ日の中で森の空気を楽しんだ。 狩人である彼にとって、森はいつもいる場所であるが、だからといってこの心地よさが減るわけではない。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラバンニャ |
明け方、ラバンニャは機嫌よくベッドに入った。 ここしばらくかかりきりだった、あるキノコを溶剤に落としたときに起きた奇妙な反応について、一応の結論が出たのだ。 発表すれば多くの人を助けるかもしれないが、彼女にそのつもりはない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ロック・トライボー |
ロック・トライボーは深夜、一人今日稼いだ銀貨を数えている。 戦士である以上、できれば腕っぷしで稼ぎたいが、この日の稼ぎは、港での荷下ろしだった。 しかしこの銀貨があれば、一張羅の鎧に部品を一つ増やせるかもしれない。 |
時間 | 夜 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | シェルク・ウェスティン/ ヴォル |
シェルク・ウェスティンは、アリーナ戦士募集の貼り紙を眺める。 名を上げて騎士として取り立てられるのが目標である彼女にとって、これは早道に思えた。 しかし彼女は断念する。 あのもじゃ毛のヴォルのような賭け事好きの連中を喜ばせるのはシャクだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | キャンデロロ/ トニョ・ベルトラン |
キャンデロロは、鍵の掛かっていない不用心な家に平然と入り込んだ。 かまどにのった鍋はまだ暖かい。彼女は鼻歌交じりに鍋を開けた……ところで、ドアがばんっと開く! 「アッ!」 帰ってきたトニョ・ベルトランと鉢合わせしてしまった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ヤエ/ エレナ・ウォレス |
鬼人種のメイド、ヤエはもともとは腕の立つ傭兵戦士であった。 片足を失いウォレス家に雇われた今、その腕前は、主人とその令嬢であるエレナ・ウォレスのためにのみ振るわれる。 例えば今、半魚の令嬢であるエレナに襲い掛かった、赤い布をつけた男を斬り伏せたように。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | デュリン |
小人種のゴーレムマスター・デュリンは、今日も朝から機嫌よく桜花広場に出かけてゆく。 実のところ、なんでも「それ、デュリンちゃんにちょうだいよ!」と言う彼女は悪評名高いのだが、彼女は天真爛漫、全く気にしていない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | ダイン/ アルタイル |
見習い鍛冶師ダインは、魔香街と名高いスラムでアルタイルの率いる盗賊団と相対していた。 元ゴロつきであるダインのかつての仲間が彼らと喧嘩になり、捕らわれている。 「俺は手を出さねぇ。好きに殴りな」 ダインはどっかと腰を下ろした。 |
時間 | 夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | レイ・セライン |
貴族街の屋敷から出てきたレイ・セラインは、眉をひそめて自分が出てきたお屋敷を振り返った。 ダルジェエリング家は、西側の有力議員の一人だ。そして、彼女の同居する相棒の実家でもある。 レイはポケットの金貨をもてあそぶと、少しの罪悪感を感じた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | ドロイ・トピアス/ スカーレット |
色街の娼婦たちは、ドロイ・トピアスのお得意様だ。 納品にもくるのだが、年若く見られる彼は化粧臭い美女たちの恰好の玩具になってしまう。 「よしなさいな、みっともない」 たっぷりからかわれた後、ようやくスカーレットが止めに入ってくれた。 |
時間 | 昼 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | ザクロ |
港は荷揚げの場でもある。しかし積み過ぎたようだ。 箱が崩れ、屈強な船乗りが一人、箱の下敷きになってしまった。 上に載ってしまった荷物をどけなければ助けられない。 駆け寄ったザクロは、膂力にものを言わせて彼を救い出した。 こう見えて彼女は力持ちなのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 東側・六骨市場 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
六骨市場の武器屋を訪れたライル・クロイツァーは、厳しい目で品定めをした。 長く使っていた剣が、先日の斬り合いで半ばから折れてしまったのだ。官給品を頼むことも出来るが…。 「これ、振ってみてもいいですか?」 彼は店主に聞いた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア/ ルー |
ファコン・ソルフィネアの出自は、エードローエの名家だ。 だがそのファコンは、あろうことか空腹を抱えて布団に丸くなっていた。 嵐で実家からの仕送りが遅れたのだ。 昼にルーがパンをくれようとしたが、彼はそれを格好つけて断っていた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ノダ |
ノダが裏町を訪れることは決して多くはない。 彼女は錬金術師としてすぐれた腕前を持つが、それを安売りすることは無いからだ。 だから、彼女が裏町、もっと言えば裏町組合を訪れるのは、なにか大きな計画があるときだけだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルルバ |
「まったく面倒くさい話だっちゃ……」 ルルバは小さな体でエルディカから地上への道を歩いていた。 空身ではない。 彼女がロープで引っ張っているのは、仲間の死体だ。 行きずりの仲間だが、せめて葬式くらいは必要だろう……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | サヤ/ ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
錬金術師であるサヤにとって、イミテーションの宝石は研究の副産物だ。 彼女はそれを、ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトの武器防具装飾・に持ち込む。 防具を飾る宝石としては、偽物だと分かったとしてもの頑丈な、サヤの輝石は最適なのである。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ナギ・ルーシプルムス |
朝日とともに、ナギ・ルーシプルムスの時間は終わりを告げる。 日光に過敏な彼女の肌は、夏が近づきつつあるソーンの昼に耐えられない。 彼女は滑るように自宅に戻った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ルシェン |
ルシェンはここしばらく、虎の鰭亭での少し高価な夕食を続けていた。 ある事件の解決に寄与した事で、金一封がでていたからだ。 しかしそれも今夜まで。飼っているミケがうまい切り身にありつけていたのも、今夜までだろう。 ミケが「ギェーン」と鳴いた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | エルルカ/ ギネヴィア |
虎の鰭亭での仕事を終え自宅に戻るエルルカの背後で足音がする。 エルルカは飛び上がって駆け出し、酒場に戻った。 ここには頼れる人が多い。 眉間にしわを寄せたギネヴィアが、家まで送ってくれた。 エルルカは安堵と劣等感のため息をつく。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ/ ネオーマ |
「へぇ。本物ですか?」エイカ・ロロノトリはネオーマの出した小さな樹法具を手に取った。 小ぶりの黒い石板で、まるでムカデの足のように何か金属の板が無数に生えている。継ぎ目は見えない。 「もちろん。エルディカの出土品さ。王国未登録」 |
時間 | 昼 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルイス・キャロル/ アリス |
オーリエル学院教師ルイス・キャロルは、生徒を伴いエルディカ探索に入った。 ごく浅い層までではあるが、しかし危険は避けねばならない。 彼の連れているエルディカ生まれの謎の少女アリスが、みんなの前で力を使ってしまいかねないからだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | オルヴァ |
王立樹法研究院の研究者であるオルヴァにとって、オーリエル学院の蔵書は魅力的だ。 今まではこそこそ入っていたのだが、先日から客員講師となったので堂々と入ることができる。 授業は全く面倒だが。 「ま、起きててくれればいいよ」 彼は肩をすくめた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | カプノ・ドゥエィス | 登場人物 | アルタイル |
アルタイルは魔香街カプノ・ドゥエィスで仲間と盗賊団を結成している。 がめつく稼いでいる商人を襲った今夜の稼ぎは悪くなかった。 「等分だぞ」 アルタイルは団員を見回した。きちんと同じだけ分けるんだ。俺たちは仲間なんだからな」 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ブロックマルツ |
獣人種の老人ブロックマルツは、裏町の事務所でのんびりと煙草をくゆらせていた。 手には世話をしている孤児からもらった手作りの玩具をもてあそび、目を細める。 「ボス。嗅ぎまわってるやつ、どうしやしょう」 後ろの部下に問われて、彼は答えた。 「さらっちまえ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | アラワク |
獣人アラワクにとって、夜のカウンターは自分の聖域であった。そのカウンターで喧嘩するカップルに、彼女はそっとサービスとして強めの一杯を出す。夜のカウンターは自分の聖域である。酒の味を楽しめないような無粋な喧噪は、とっとと追い出すに限る……。
illust.志田 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルー/ ファコン・ソルフィネア |
お弁当を抱えて木陰に歩くルーに、ファコン・ソルフィネアが声を掛ける。 「おい、どこに行くんだ? 「おひるごはんですけど」 「一人か」 「はい」 目をぱちぱちするルーに、ファコンは胸をそらした。 「ならこっちに来い。みんなで食おう」 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング |
ラスグィル・ダルジェエリングは、アパルトマンのベッドからのろのろと身を起こす。 相棒は早々に起きて抜け出しているようで、彼女は久々の一人の朝を楽しむべく猫のように伸びをした。 「ふふっ。邪魔が入らないというのはいいものですわね」 彼女は寝ぐせの髪を振る。 |
時間 | 深夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ニレル・ナタン |
ニレル・ナタンは、深夜までかかった治療を終えて、一息つくために外に出る。 たまたま通りかかった墓守が悲鳴を上げて倒れた。 「??」 ニレルは自分が、外科手術の恰好のままの血まみれであることを思い出した。 |
時間 | 夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アルメル |
アルメルは自宅でふんふんと鼻歌を歌った。 手に入ったたっぷりのはちみつを使って、紅茶のマフィンを作るのだ。 クリーム状にしたバターと油、それからはちみつ。 明日の朝にはふわふわのマフィンが食べられるだろう。 誰にプレゼントしようかな? |
時間 | 夕方 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ノエル |
ノエルの屋台は評判がいい。 「うまいねぇ」と褒められるのは気分がいいが、続く「あっちの店は不味くて捨てちゃったよ」という言葉に、彼女はかっとなった。 食べ物を粗末にするような奴は客でも何でもない! |
時間 | 昼 | 場所 | 王立樹法研究所 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス |
サイウォー・ドレシスの研究は、目下のところ肉体の変容である。 自らを半ば実験台としたこの樹法に、彼はおおいに満足していた。 さて、これを施してやった騎士は、今頃どうしているだろうか……。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ムツラ |
ムツラはむっつりと押し黙って、朝の裏町を歩いていた。腰の袋には、さっき港の商人から盗み出した宝石が入っている。 「商人? 違うわ」 ムツラは口を尖らせた。 「詐欺師よ!」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シュネーバル |
シュネーバルは腕利きのゴーレムマスターだ。 住処を転々としつつも、彼はその器用な指先で新しいゴーレムを作成する。 「これに入れるコアが欲しいな」 彼は背もたれに体重を預けて、それをくれそうな人を思い浮かべた。 |
時間 | 夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | リーズ |
オーリエル学院の学生リーズは、返ってきた答案を手にほっぺを膨らませた。 このテストのとき、リーズは分からなかった問題を背負った棺桶に入っているゴーレムに聞いたのだ。 「……」 すべてバツだった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ダイン |
鍛冶師見習いのダインは、ぐいっと額の汗をぬぐった。たくましい腕にも玉のような汗が躍っている。炉の火をみつめる目は真剣だ。 「おうい、今日はしまいにしようや」 親方が言った。 |
時間 | 昼 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ノシュマン |
一日の仕事を終えたノシュマンは、工房を離れて悠々とカフェでワインを注文し、くつろいでいる。 どうやらエルディカ帰りの冒険者らしい一団が話しており、ノシュマンは口元をほころばせて聞き耳を立てた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ボタン |
鬼人種の未亡人ボタンは、ぐうっと伸びをひとつ。 仮面を身に着け衣類を整えて、如雨露に水を注ぐ。 まだ体温の上がらない大蛇に声を掛けると、彼女は花壇で栽培している緋色の花に水をやった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア |
「困りましたわ…」 フィアマ・ソルフィネアは真っ暗な中、布団から頭だけを出して震えた。 昼の間にやった怪談話のせいだ。 夜にノックをしてまわる、ずるずるいう謎の足音の話。 「こっまりましたわぁ…!」 彼女の膀胱は限界を迎えつつある…! |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アーベン/ ルイーズ |
遺跡調査を終え、アーベンは家に帰り着いた。結果を早く書き残したい。 彼は振り返るとついてきているルイーズに言った。 「ありがとう。護衛は終わりですよ。……帰らないんですか?」 「晩御飯は?」 首をかしげるルイーズに、アーベンはため息を付いた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | エイミィ・イッシュ |
港でぼんやりと海を見ているエイミィ・イッシュに、商船の船長が声をかけた。 願ってもないスカウトだったが、彼女は首を横に振った。 エイミィはまだ、前の船の仲間ともう一度海に出る夢をあきらめていないのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト/ アルトレーゼ |
敬虔な聖職者ジャン・ジルベルトはそっと顔をしかめた。 彼の正体は裏町の盗賊である。 その正体を知ってか知らずか、聖騎士アルトレーゼは、いつも見透かすような目で彼を見た。 きっと後ろ暗いことなんてないのだろう、この美しき聖騎士は。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドロイ・トピアス/ レビィア・トピアス/ アキレァ |
「もう出るの?」 寝床から聞こえる弟の声に、姉のレビィア・トピアスは鼻を鳴らした。 「お日様はとっくにでているよ、ドロイ」 もぞもぞと義足を着ける弟を尻目に、“鮮血の赤兎”はアリーナへと向かうのだった。 今日の試合は、アキレァとだ! |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ヴォル/ シェルク・ウェスティン |
ヴォルが用心棒をする“たぬき屋”に現れた奇妙な酔客。 身なりからは考えられないほど羽振りが良く、全員の飲み代を奢って上機嫌で出て行く。 「妙だな……」 ヴォルは後をすっかり眠くなっているシェルクに頼んで、そっと後を尾けた……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ゲルマン・オフチーンニコフ/ アラワク |
ゲルマン・オフチーンニコフは。いつもよりかなり遅くに店に入った。 「遅かったですね」 とアラワクに問われて、彼はふっと笑った。 「モテるからね」 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | メシュ・メシュ |
“ちび宰相”メシュ・メシュは、午前中に行われた議員連中との会談を終えてぐったりと椅子に沈み込んだ。 その彼女の執務室にノック。 「あのぉ…学長、部費のことなんですが…」 持ち込まれる相談に、彼女は学長の顔に戻るのだった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ヴェステルナ |
黒王女ヴェステルナはいつもの黒いコートを片掛けに羽織って長剣を佩いた。 王女府の抜け道を使って、ソーンの街に出るつもりなのだ。 「市井をつぶさに見るのも、王たる責務の一つだ」 彼女はぶつくさと言い訳をした。 先ず向かうのは、ルティンのいる虎の鰭亭だ…。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | スズラン |
夕べ食べた魚が悪くなっていたらしい。 スズランは仮面の下の顔を青くして、いつも出ている奇妙な動物を連れた薬の露店を当てにして桜花広場に向かったが、あいにく今日は休みのようだ……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アザミ/ ゼフィランサス |
アザミはエルディカの深部で目を覚ました。 「気が付いたか」 座っていたのは、鮮やかな青い甲冑の騎士。周囲には、樹力の影響を受けて動き出した骸骨が、いまはすべて破壊されている。 「…あなたが?」 アザミは痛む頭を振った。青騎士はただ一言。 「去れ」 |
時間 | 夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | シエラ/ アステール |
赤い布を敷いた上で、エルディカから持ち帰った石を磨いたものを指先ではじく。 シエラはそうして、未来を占おうとしていた。 「当たるの?」 アステールが後ろからのぞき込む。 「私はそう信じてます」 シエラは静かに答える。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | トニョ・ベルトラン/ ヒルデガルト・リーデルシュタイン/ アメリア |
トニョ・ベルトランは、かまどを前に四苦八苦していた。 同居しているヒルデガルト・リーデルシュタインに「今日は僕が食事を準備するよ」と大きく出てしまったのだ。 こんなことならアメリアさんに習っておくんだった。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ノワ |
昼間のノワは余り出歩かない。 盗賊である彼の時間は夜だったし、何より彼は趣味を楽しむ余裕も持っていた。 彼は砥石に水をかけ、丁寧にコレクションのナイフを研ぎ直した。 形も様々なナイフを並べ、ノワは満足げだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | アキレァ/ シェック |
「おい」 酒場・虎の鰭亭で寝こけていたアキレァは、朝市から帰ってきたシェックにつつかれた。 「むにゃ…」 「今日試合あるんじゃないのか?」 「あるよ。だから腹ごしらえになにか食べさせてくれないかな」 それなら食堂で夜明かしも効率がいい。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ノワ |
ノワはストールを覆面とし、音もなく忍び込んだ貴族の金庫に近づいた。 一人の仕事はやはりいい。 彼は針金を取り出し、鍵穴にゆっくりと差し込んだ……。 |
時間 | 夜 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | リッカ |
大衆浴場ラ・メル・ソーンで働くリッカにとって、浴場が閉まったあとの一人の入浴は最上のひとときだ。 この大理石の広い浴場を独り占めして、ステンドグラス越しに夜空の天枝を眺めることができるのは、職員の特権と言えるだろう。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エストリフォ |
今日はとてもいいことがあった。 白王女エストリフォは、寮の自室にへたくそなステップを踏みながら戻る。 なんと今日のお昼休みには、お友達に三回も話しかけられたのだ! 三回も! すごい! |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ノシュマン |
「いいかい」 ノシュマンは久しぶりに鎚を手に取り、不自由な脚を折り曲げて座った。 新人の武器鍛冶が彼の手元を見つめる。「欠けた剣でも、こうして火を入れて打ち直せば、また使い手の命を守ってくれるものだよ」 彼は赤く燃える鋼に、鎚を振り下ろした。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | レノ |
朝のさわやかな空気の中を、獣人種の少女レノは踊るように歩いた。 思い切って服を新調したのだ。 つやのあるひらひらと上等な布は、光を浴びて風になびいた。最高。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | シヅキ |
鬼人種の用心棒シヅキは、娼館の部屋の前でむっつりと押し黙る。 気の乗らない仕事だ。 娼館の用心棒が見張るのは、暴れる客だけではない。 逃げようとする娼婦も、見張らねばならないのだ。 彼は部屋の中にいるはずの少女を思った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
忠実な騎士ライル・クロイツァーとて木や石でできているわけではない。今日は部下を誘って、すこし高い酒場に繰り出すことにした。 貴族も立ち寄る一角獣の森亭はメニューに値段がなく、盛り上がる部下たちをよそにライルは少し無口になる。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ヒルデガルト・リーデルシュタイン |
ヒルデガルト・リーデルシュタインは、毒や薬の原料を問われても答えないようにしている。 「テオ、こっちに」 彼女は調合している小瓶に、家族と言ってもいい大蜘蛛の牙から垂れる黒い液体を落とした。 原料を言えば、この大切な家族が奪われるかもしれない。 |
時間 | 昼 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ウリエラ |
ウリエラの財布の中身は一定しない。そのうえ自分でも把握していないことが多い。 カフェ・ド・エクスのカウンター席に座り、いつものようにお茶を注文し、そして会計の段になって、ウリエラは初めて持ち合わせがないことに気付く……。 |
時間 | 朝 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | フィリアス/ キキ・テリヤ・ニートカ |
フィリアスの色とりどりの服は、魔獣に分類される珍しい蝶から作ったものだが、エルディカから一人戻ってきた彼女は、厄介な少女につかまった。 「それ、何で出来てるんですか?!」 目を輝かせたファッションデザイナー、キキ・テリヤ・ニートカである。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ミーシャ/ ムツラ |
調毒士ミーシャは、ムツラの持ち込んだ小さな花をつまみ上げた。 「これ、やせ薬ですか?」 うさん臭げに斜めに見る。 「買ったはいいんだけど、騙されたかなぁって」 ムツラは言い、ミーシャは思案した。 明らかに騙しだが、他人の商売を邪魔するのも気が引ける…。 |
時間 | 夜 | 場所 | カプノ・ドゥエィス | 登場人物 | アルタイル/ ルルク・シェンツァ |
「これ、役に立つのか?」 アルタイルは小人種の錬金術師ルルク・シェンツァから受け取った、何の変哲のない投網をつまみ上げた。 「もちろん。これを投げる直前に、こっちの液に漬けるんだ。そうすればこれは、蜘蛛の糸のようになるよ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | ヴェックマン |
ヴェックマンの仕事は情報集めとそれを売ることだけではない。 「なぁ、知ってるかい? ケッセルの花を干したものをお茶に入れると…痩せるんだってよ」 仕入れ過ぎた花を売り抜けたい商人に頼まれて噂を流すのも、彼の得手だ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | ブロックマルツ/ スカーレット |
ブロックマルツは、手下の少年にカバンを持たせてのんびりと色街に向かった。 時刻は昼。遊びではない。 連れているのは一人の幼い少女だ。 彼は到着した娼館のスカーレットの前に少女を押し出す。 「悪いんだが、こいつを働かせてやってくんな」 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ルシェン |
ルシェンの露店は、なぜか朝から大忙しだ。 それも売れるのは干した花で、ルシェンは首をかしげる。 聞いてみると「ダイエットに効果あり」とのうわさが流れているらしい。 「…ないですよ?」という言葉を、ルシェンは飲み込んだ。 病は気からとも言うし…。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ナギ・ルーシプルムス |
日光が苦手なナギ・ルーシプルムスにとって、夜の狩りは自分を解放できる貴重な時間だ。 星と月が雲に隠れ天枝の影も落ちない闇を選んで、ナギはゆっくりと楽しむように歩いた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ハノワリ |
日の落ちた空に、ハノワリのまとう衣の裏地は溶け込むように見えた。 彼は星空を眺め、夜風を楽しみ、穏やかな日常に感謝をのべて、自分の家に戻る。 明日もこうであるといい。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | トビア・サンチェス/ シエラ |
トビア・サンチェスの後ろを、シエラは実をいうと昼過ぎからついて回っている。 一方自分の考えをまとめるのに夢中のトビアは、そんな彼女に気付きもしない。 「あぁあ……」 引っ込み思案のシエラは、本当は彼の小さな計算機を貸してほしいだけなのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 赤盾市場 | 登場人物 | シェルク・ウェスティン/ ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
赤盾市場で悪質なならず者を叩きのめしたシェルク・ウェスティンは、走ってくる兵士に胸を張り、それから素早く後ろを向いて逃げ出した。 ポラリス伯のご子息であるルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオの姿を見たからだ。 シェルクは家出中の身なのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エニマ |
小人種の女性エニマは、朝早くから街外れの農家のところに向かう。 市場に出せない崩れた野菜などを、安く分けてもらうためだ。 七人もの弟妹を養うのには大助かり。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルイーズ |
ルイーズにとって、夜は寝る時間である。しかしこの夜、彼女は夕食を食べそこね、口をとがらせて木の下に布団を敷いた。 家に帰ればいいのだが、彼女はそうしない。 |
時間 | 夜 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | ザクロ |
ザクロの経営するマッサージ店には、ラ・メル・ソーンで体を温めリラックスした客がよく訪れる。 そこではすっかり気が緩んだ客が、秘密の話を漏らしてしまうこともしばしばだ。 だが、彼女はそれを誰にも明かさない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ロビンフッド |
裏町の入り組んだ路地は、古い帝国時代から区画整理されないままだ。 ロビンフッドと名乗る男は、その路地を一人歩く。 |
時間 | 昼 | 場所 | 住処 | 登場人物 | イスラ |
錬金術の師匠のもとで修行を続けるイスラにとって、師匠の身の回りの世話もまた大事な仕事だった。 彼女は赤い衣をなびかせて、今日のお惣菜を買いに走る。 「師匠、味うるさいからなぁ」 それも錬金術師の資質の一つではあるが、彼女はうへぇ、と舌を出した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ルー |
ルーは毎朝オーリエル学院に登校する前に、一通り武芸の型をおさらいする。 もう何も見ないで出来るほど繰り返した一連の動作が、彼女の悪い夢を押し流してくれる。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ドロイ・トピアス/ レビィア・トピアス |
ドロイ・トピアスは深夜遅くまでかけて作りかけの銀のアクセサリーを磨いていたのだが、さすがに眠くなってベッドに入る。 樹法のかかった義足を外して布団を持ち上げ…なぜかすでに入っていた姉のレビィア・トピアスを見つけて盛大にため息をついた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シュネーバル |
シュネーバルは機嫌がいい。今日はたっぷり“遊んだ”帰り道だったからだ。 しかし彼には本当に残念で、そして本当に不思議なことがあった。 彼の遊び相手が、すぐに動かなくなってしまうことだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | マグリア・A=ドラグ |
マグリア・A=ドラグは、公衆浴場ラ・メル・ソーンのたっぷりした湯に、白い細身を沈めた。 がやがやと賑やかなこの場所は、観察好きな彼女にとって楽しい場所だ。 あのご婦人は、確か先週は指輪をしていたはずだが、今ははずしている…。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
「父上が?」 ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、父親であるポラリス伯がソーンに来ていると聞いて口元を引き結んだ。 彼は父と関係が悪いわけではないし家柄を誇りに思っているが、しかし父の七光りを勘繰られるのは、やはり気分が悪い…。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アフィーネ/ アルトレーゼ |
おそらく朝が弱いのであろう、青い顔で、しかしにこにこと、シドリア大聖堂に手習いのためにやってくる子供たちを迎え入れるアフィーネをみて、聖騎士アルトレーゼは目をぱちぱちして感心する。 慈母のような方だ。自分もかくありたいものだなぁ、と。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラバンニャ |
研究にいささか行き詰ったラバンニャは、気分転換にタバコをくゆらせながらぼんやりと空を眺めた。 夜空には天枝の影が見え、その向こうに瞬く星。 彼女はふーっと、紫煙を吐き出す。 煙がゆったりと登り、夜空を覆った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ヤルドレド |
夜。桜花広場の小さなベンチに座る小さな兄妹を見つけた暗殺者ヤルドレドは舌打ちをした。 「おい」 彼は二人に近づくと、膝をついて目線をあわせる。 「どうした。親はどこにいるんだ」 どうやら、父親が賭場から戻らないらしい…。 彼はもう一度舌打ちをする。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
「フゥン」 スカーレットは農夫が連れてきた少女を見下ろして鼻を鳴らした。 幼いと言ってもいい。連れてきた農夫はもう帰った。 娼館では、夜の営業に向けて娘たちが賑やかに走り回っている。 その中でぽつねんと、少女がスカーレットを見上げた…。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エルルカ |
昼時のオーリエル学院は賑やかだ。 午前の講義が終わり、生徒たちはめいめいに昼食を摂るのだが、エルルカは、ふっと一人になってしまった。 「いいけどね」 彼女は一人、木陰でお弁当を食べることにする。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アフィーネ |
「朝が弱そう」とよく言われるアフィーネだが、実際のところそうでもない。 弱いは弱いが、彼女は鋼の精神力で起き上がり、身支度をして聖堂で微笑んだ。 「せんせー、おはよー!」「おはよー!」 「はいおはよう!」 子供たちの元気な姿を見るために。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
ベルゼ・カロンの本業は闇医者だが、客のいないときにはほかのこともやる。爆薬の作成だ。 彼が才能を示すのはどちらかといえばそっちで、そのレシピは、実はいいカネになるのだ…。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | アルフレド/ エクス |
カフェ・ド・エクスの料理人アルフレドの仕事は多岐にわたる。 料理に、ウェイター。 「はぁ……」 アルフレドはため息をついて、カウンターで寝ている雇用主であるエクス嬢の肩に毛布を掛けた。 これも仕事だろうか? |
時間 | 夕方 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
裏町組合で世話役として新米盗賊の面倒を見るメノウは、新米を片眼で見上げながら言った。 「いいか、困ったことがあればこのメノウちゃんに言うんだ。捕まったら組合で出してやるから心配すんな。だが注意はしろ」 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ウィク・イグナイター |
ウィク・イグナイターの仕事場は、城外の街外れのなかでも人の少ないあたりにある。 ウィクは家の前の広場に小さな樽を置き、導火線に火をつけた。 ……どかん!大 成功! 響く轟音! まぶしい閃光! 漂う火薬の剣呑な匂い! つまり、こういうわけなのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
朝の売り買いが終わった港で、メイ・アサーシャはのんびりと潮の香りを楽しんでいた。 この時間には、魚河岸の連中が売れ残った魚を使ったまかないを食べており、それのご相伴にあずかる算段だが……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴァネッサ |
ヴァネッサは深夜の裏町で約束の客を待っている。 裏町を歩く剣呑な雰囲気の男たちの中で、バスケットを抱えた彼女の姿は悪目立ちする。 たとえその籠の中身が、スズランの根からとった猛毒だったとしても。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | エクス |
エクスは、カフェのちょっと高いスツールに腰掛け、足をブラブラさせて頬杖をついた。 目は閉じており、耳は店内の会話を聞いている。 情報収集は商会にとって重要だが、それ以上に彼女はこうしていろいろな話を聞くのが好きなのである。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ |
王立樹法研究院のエイカ・ロロノトリにとって、樹法と体術の融合は研究テーマの一つであり、そのためには実践も重要だった。 彼は研究が一段落したのを見計らって、今夜もエルディカに挑む。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | フクマル |
昼食時も一段落して、職人街で食堂を営むフクマルはほっと一息ついた。 さて、自分も昼食を、と鍋を覗き込むと、ほとんど何も残っていない。 今日の香辛料入り汁物はよくできていて、まかないを楽しみにしていた彼はがっくりとうなだれた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
「おぉい、たすけてくれぇ!」 ソーンの中央を流れるエルディソン川と海の交わる辺りで、子供が海に落ちてしまったらしい。 港で大道芸を披露していたメイ・アサーシャは素早く飛び込んで、子供を抱きかかえた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
突然の招集に、ライル・クロイツァーは素早く目を覚ます。 素早く身繕いをし、略式に甲冑を身に着けて、拠点の一室に走った。 即応訓練だ。 訓練であることは感づいていたが、しかし彼は手を抜かない。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エリク・ヤヌシュ |
街外れの森で暮らしているエリク・ヤヌシュだったが、狩り小屋で眠りに落ちようというときに外でがさりと音がした。 彼は即座に緊張し、そっと外の様子をうかがう。 一人の狩人の男が通りかかっていて、エリクは彼から身を隠すべきかどうか思案した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アザミ |
鬼人種の錬金術師アザミのもとに、めずらしく錬金術の依頼が舞い込んだ。 東方の鬼人種由来の薬の依頼だ。 彼女は思うままに腕を振るう。 |
時間 | 昼 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア |
エードローエ風の衣装を身に付けたフィアマ・ソルフィネアに、商人が話しかける。 「エードローエからいしいものが入ってるよ。懐かしいだろう」 しかしフィアマは見向きもしない。 彼女にとって、見慣れた故郷のものよりもこの国のもののほうが興味深いのだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス/ エイカ・ロロノトリ |
サイウォー・ドレシスとエイカ・ロロノトリは、王立樹法研究院の中でも口論が絶えない。 仲が悪いというより、意見が合わないのだ。 「もっと体を鍛え、筋肉をつけるべきです」 「僕はこの姿こそが理想で完璧なのじゃ!」 今朝もまた口論が始まる。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ルイーザ |
天涯孤独であるルイーザは、エルディカに潜ることとノードスを倒すことだけが、両親、そして祖父とのつながりであると感じていた。 小声で樹文を唱え、出力を絞って小さな炎を生じさせる。 小さなランタンにそれを移し、彼女は眠りに落ちた。 |
時間 | 夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アルタイル |
アルタイルは手下とともに“迷宮”エルディカに挑んでいた。 苦労して進んだ先にあったものは、黒ずんだ小さな平べったい石で、彼らはがっかりしてそれを投げ捨てた。 もし持って帰ればひと財産だったのだが。 彼らはぶうぶう言いながら街に戻る。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 東側・六骨市場 | 登場人物 | ダイン |
鍛冶師見習いのダインは、たまに仕事上がりに六骨市場に足を向ける。 六骨市場は、金物や武器を扱う店も多く、よその工房で作られたものなども見ることが出来る。 ダインはその中に、自分が作った少しいびつな剣を見つけ、赤面した。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | ヴォル |
昨夜暴れた悪漢を叩きのめしたおかげで、浪人ヴォルはたぬき屋の女将マリアンヌからちょっとしたボーナスを貰った。 彼は早速、いそいそとアリーナに出かける。 今日はちょうど、騎馬によるレースが行われているのだ。「うひひ」 もちろん彼は賭けるほうだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | ノア |
ゴルゴーナ図書館で利用できる蔵書量は少ないが、ノアはその書架の一つを全て読破するという目標を立てた。 高いところの本は小人種のノアにとっては取りづらく、彼ははしごを掛けてよじ登り、そこから転げ落ちておおきなコブを作る。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | キキ・テリヤ・ニートカ |
キキ・テリヤ・ニートカは眠い目をこすりながら、魔獣の毛皮を薬液に付けた。 その毛は硬く、しかも先が曲がっている。 ……この毛皮同士をくっつけることで、ボタンなしで布と布を合わせることができるかもしれない……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | カアラ |
カアラは右の小脇に連れの少女ルディを抱えたまま走った。 ノードスに追われているのだ。 普段ならカアラがノードスから逃げるなど有り得ない。 しかしルディが意識を失っている。 今は逃げるしかない……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
シドリア大聖堂の重鎮であり良識であるジークヴァルト・クラウス・ディッペルは、日が落ち始めるとそうそうに眠ってしまうので、教会のいささか不まじめな構成員たちは、日が落ちてから活動を始めるのがもっぱらである……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | アラワク/ チノ |
酒場・宵闇の華亭は昼は閉店しているが、客がいなくなるわけではない。 アラワクは酒樽の上で高いびきをかいているチノを、箒でつついた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アステール |
天才と名高いアステールは、特に破壊の樹法に関してはかなりのものだが、それと同等に得意なものがある。 彼は朝の街で背の高い女性に伸び上がってキスすると、踵を返した。 つまり彼は、モテるのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アメリア |
アメリアは深夜、ふと目が覚めて起き上がった。 丸くなって眠っていたベッドを起き上がり、水瓶から水を一口飲む。 見上げれば、星空の間から天枝が見えた。 ほんとうの両親も、この枝を見ているのだろうか。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ララ |
ララは立ち寄った酒場で軽い夕食を摂る。 盗賊としての性でつい金目の物を目で物色してしまうが、ララの標的になるようなお金持ちでは無さそうだ。 酒場の娘らしき少女がこちらをじっと見ていて、ララはぷっと頬を膨らませて顔だけで遊んでやった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | アキレァ |
夕方、アキレァはおそらく武装旅団の打ち上げだろう宴会に突入した。 まるで最初からそこにいるかのような顔で、出される肉をぱくつく。 いい加減出来上がった宴会の人々は、いつのまにか増えた一人に気づいていない。 おいしい。 |
時間 | 朝 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ニレル・ナタン |
聖職者にして治癒術士であるニレル・ナタンにとって、無茶な冒険者が入っていくエルディカは、よく行く場所のひとつだった。 迷宮は危険に満ちている。 ニレルが治癒できないものも多い。 だが彼女は「行くな」とは言わなかった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー |
貴族街への往診は、ドクトル・ハニィマシューにとって比較的好きな仕事だった。 建物はどこも綺麗で、医者に対する扱いも悪くない。 「これこそが、あたしに対する正当な扱いだよ」 彼はエルディカ探索者の仲間のことを思い出し、鼻を鳴らした。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ボタン |
鬼人種の未亡人ボタンは売り物の薬を調合し、丁寧に小分けしてから布団に入った。 今調合している薬は簡単に手に入る。しかしそれがたった二年前にはなかった。 もしあれば、彼女は夫を救えたのに。ボタンはそれを思い、またすすり泣いた。 |
時間 | 夜間 | 場所 | カプノ・ドゥエィス | 登場人物 | ルルク・シェンツァ |
「これは触れてはいけないものだ」と、ある年かさの調毒士が言った奇妙な薬品を手に入れたルルク・シェンツァは、ふんふんと鼻歌を歌いながらその正体を解明にかかる。 しかし、触れてはいけないものは確実にあるのだ……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | レビィア・トピアス |
レビィア・トピアスは一日を終えて家に帰る。 今日はアリーナでの試合に弟が作った服を着ていったのだが、試合中に緩んできてえらいことになるところだった。 これは文句を言わなくては……! |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
エードローエの名家ソルフィネア家のファコンは、真面目と言えば真面目な少年である。 彼は勝利と栄光のために手段を選ばないまっすぐな少年で、彼は最難関のテストで満点を取り……カンニングがバレて追試となった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王女府 | 登場人物 | ヴェステルナ |
黒王女ヴェステルナは王女府でいつもの朝食を摂る。 もともとは軍事拠点だったものをごく簡単に改装しただけの冷たい石造りの建物で、彼女はひとり、冷えた朝食を摂った。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | アリス |
謎の少女アリスは眠っていなかった。 「ねぇ、遊びましょう? マスター」 彼女は同居しているオーリエル学院教師のルイスにせがむ。ルイスは首を振って、彼女をベッドに戻した。 「眠りたくないわ」 アリスは口を尖らせる。 「意味がないもの」 |
時間 | 夜間 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | フィリアス |
いつのまにか同行者とはぐれたらしい。 エルディカ内部で独りになってしまったフィリアスはやっと捕まえた瑠璃色のカブトムシを手に憤慨した。 カブトムシを追って一人列を離れたのは彼女の方だったが。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | トニョ・ベルトラン |
陽が落ちかけて家に帰ろうと歩くトニョ・ベルトランは、足元にすりよってくる毛玉のようなものに気付いた。 それは小さな猫で、猫の苦手なトニョは飛び上がる。 親とはぐれたのだろうか……。トニョは震えながらきょろきょろした。 |
時間 | 昼間 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ネオーマ |
ちょっとした噂で、医薬品の需要が高まる、という話を聞いていたネオーマだったが、どうやらガセだったようだ。 彼は買い占めた傷薬や包帯を売りさばくために、怪我人を探してエルディカにもぐることにした……。 |
時間 | 早朝夜 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | シェック |
鬼人種の魚料理人シェックの朝は早い。 港に行って戻ってくる漁船をいちはやく覗くためだ。 もちろん、この頭越しのツバつけは漁業組合に怒られたことも一度や二度ではない……。 「気をつけよう」 見つからないように! |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ヒルデガルト・リーデルシュタイン |
歩行に難のあるヒルデガルト・リーデルシュタインは、普段は大蜘蛛のテオに乗って移動する。 大蜘蛛は魔獣であり、まるでヒルデガルドは蜘蛛にさらわれているようにも見られてしまう。 だから彼女は人目につかない深夜に散歩をするのだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
武具装飾職人であるボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは、渡された甲冑に装飾を付ける仕事に没頭する。 「こだわるのはいいけどなぁ」 やたら細かく描かれた指示書に、彼は顔をしかめた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シュネーバル |
「ちぇ」と、シュネーバルは舌打ちする。 彼はつまらなそうに片眼鏡を上げ、あの女から受け取っていた銀貨の袋を興味なさげに道に投げ捨てた。せっかく彼が盗み出した火薬は不発に終わったらしい。 「ま、作り方は見せてもらったしね」 彼は夕暮れに消えた。 |
時間 | 昼 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス |
ある盗賊が、双子都市を爆破しその混乱に乗じる計画を立てていたらしい。 それは警邏を担当する者、あるいは街を愛する者たちの手で未然に防がれた。 部下からの報告をまとめながら、“番犬”ガルム・ウォレスは初夏の空を見上げるのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ヤエ |
ウォレス家のメイド・ヤエは義足に油を差すと、主人であるエレナ・ウォレスのための水槽に水を張り直した。 上水道から流れ水を引き込めば楽になるのだが、ヤエはそれを拒否した。 邸内の井戸の方が安全だと考えたのだ。 そしてそれはおそらく正しい。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ヴォル |
たくらみはすべて失敗した。 “灰色鼬”は、しかし官憲の手を逃れ這う這うの体でソーンから脱出しようとする。 爆薬で都市を火の海にしようとした盗賊・灰色鼬。 「よぉ」 その目の前に、すい、と一人のもじゃもじゃ頭が立ちふさがり、長剣を抜いた……。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ムツラ/ アラワク/ チノ |
頭を抱えるムツラに、アラワクはそっと一杯の酒を出した。 「大丈夫ですよ。ムツラ様」 「あんたは“灰色鼬”がどんな奴か知らないから呑気でいられるんだ」と、ムツラ。 チノは酒樽の上で手をひらひらした。 「ヴォルなら大丈夫さ。剣で遅れは取るまいよ」 |
時間 | 夜間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ライル・クロイツァー/ ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
ライル・クロイツァーとルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは、手勢と共に“善意の市民”から通報のあった地下下水道の一角に急いだ。 「油断するな」 ライルは部下たちに言い、ルイは勢い込んで駆けた。 「御用改めである!」 |
時間 | 昼間 | 場所 | 南側・港 | 登場人物 | エミリー |
商船の出入りする港に、エミリーはふわふわのパンを持ち込んだ。 露店で売るつもりだったのだが、さっぱり買い手がつかない。 長い航海に向かおうとする船乗りは、もっと保存のきく焼しめたパンを求めたようだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルルバ |
エルディカ探索者ルルバは、夜の探索行を打ち切ってソーンに帰還した。 本当はもう数日もぐるつもりだったのだが。「困った奴らだっちゃ」 彼女は文句たらたらだが、彼女に続く仲間たちはぐったりする。 仲間がついて来れなかったのだ。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン/ シェルク・ウェスティン/ ヴォル |
「あぁ、確かに来たよ」 情報屋ヴェックマンは、浪人ヴォルにこともなげに答えた。 「あの“灰色鼬”さ」 「そいつはどこに?!」 シェルクが思わずヴェックマンの胸倉をつかんで、ヴォルはそれを制して聞いた。 「いくらだい?」 ヴェックマンはにぃと笑う。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ノワ/ ヴァネッサ |
双子都市の地下には古い帝国時代からの下水道が巡っている。それらは複雑で、すべてを記した地図はもはや残っていない。 「ふん」と、ノワは鼻を鳴らす。 「あれは爆薬よ。鉱山を吹っ飛ばしたのと同じ」ヴァネッサは陰に身をひそめながら、積み上げられた樽を指差した。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ハノワリ |
昼の市場を冷やかしたハノワリは、日が落ち始めるのと同時に住処のある街外れに戻る。 途中、彼は見覚えのある女とすれ違った。 オルオラで見た女だ。確か樹法と黒色火薬を併せた爆発物の研究をしていた。 ハノワリは嫌な予感に杖を握り直す。 |
時間 | 昼 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオは何杯目かの水を飲み干した。 「旦那!」 優雅な上流酒場には似つかわしくない町人の男が駆け込んでくる。 「盗人と斬り合ったってアリーナの女剣士を見つけました!」 「でかした!」 彼は立ち上がった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ルシェン |
「ギェーン」 いつものように広場に露店を出そうと歩いていたルシェンの肩で、とつぜんミケが鳴いた。 フードつきマントを被った長身の男とすれ違った時だ。 ミケがじっとそいつを見ている。ルシェンは男の後を尾けてみることにした…。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | チノ/ ムツラ |
酒場・宵闇の華亭で、酒の妖精チノは薄目を開けた。 「そうさ。背の高い男だった」 ムツラはぎくりとする。豊かな胸の前で上着をかき合わせた。 「何か言ってた?」 ムツラは声を潜める。 「木っ端みじんだって」 チノはしらふの目で答えた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴォル |
浪人ヴォルは、裏町のはずれでようやく探していた男を見つけた。奥さんに捜索を頼まれていた元盗賊の飾り職人だ。 「……」 ヴォルは路地裏に転がる死体のそばにひざまずいた。 「やってくれるじゃねぇか」 浪人の眠そうな目に剣呑な光が宿る。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | キャンデロロ |
キャンデロロはいつものように空き巣に入る。 この時間帯の職人街は、すでに職人たちが帰宅し火が落ちているところも多い。 彼女は悠々と忍び込んだが、ふと首を傾げた。どうやら誰かいるらしい。 キャンデロロはさっさと退散する。 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | アリミナ |
アリミナのゴーレムは、その破城槌のような腕を巨大な熊に打ち付けた。 異形の獣の大きさは7ミルを越えるが、その熊が吹き飛び、たちまち戦意を失う。 「続けますか?」 アリミナが振り返ると、彼女のゴーレムを侮った無礼な興行主は震え上がった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ミーシャ |
「傷薬を売ってくれないかしら」 そう言ってきた女に、ミーシャは鼻をひくつかせた。血と、それから嗅ぎ慣れない匂い。火薬かしら? 「いくつ?」 ミーシャは気付かぬふりをした。 「高いよ?」 ふっかけられそうだったからだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | イオナ・ロウグラ |
イオナは不本意だった。 盗賊としての仕事は彼女にとって生きるすべだったが、決してよいこととは思っていない。しかしそうしなければ生きてこれなかったことも事実だ。 イオナは仲間が忍び込む後ろ姿を肩を落としながら見送った。 |
時間 | 夜 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | アキレァ |
アキレァはその日上機嫌だった。 大好きな肉をしこたま平らげて、「どこに入ったの」と言われる腹をさすり夜道を歩く彼女は、港の倉庫でがちゃがちゃやる男どもに気付いた。盗人の類だろう。 「ふふん。腹ごなしだな」 アキレァは鼻歌交じりに腰の長剣を抜いた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス/ ライル・クロイツァー |
番犬とあだ名されるガルムは、その名の通り鼻の効く男だった。 双子都市ソーンにただよう不穏な気配に、彼は騎士ライル・クロイツァーとともに警備を強化する決定を行った。 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジャン・ジルベルト |
ジャン・ジルベルトは手にした本をめくり、声を作って子供たちに読み聞かせた。 「その時でした。小僧さんが投げたお札が風に舞って、急に山が出来たのです…」 子供たちは固唾をのんで聞いている。 ちょろいものだ。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | カイル |
まだ朝の早い時間だが、カイルは街外れに住んでいるいつも肉を仕入れている狩人のところにやってきた。 珍しい猪肉を手に入れて、カイルはメニューを考える。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | シュネーバル |
シュネーバルは、盗み出した樽を二つ、女に引き渡した。 彼と彼のゴーレムがあれば、勝手知ったる軍事拠点から火薬を盗み出すなど造作もない。 「さぁ、これで」 シュネーバルはにこにこする。 「楽しくなるんだろう?」 |
時間 | 夜間 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ブラックフォックス |
ブラックフォックスは反射的に後ろに跳躍した。 尻尾でバランスを取って空中でとんぼを切ると、着地と同時に左の刀を抜いて前に疾走。対峙する大柄な鬼人種の男が、空を切った金棒を引き戻す。 暗殺を生業にすれば、恨みを買うこともあるのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | アーベン |
アーベンはある遺跡で発見した樹紋の写しを手に取った。 紙に正確に写し取った樹文は、特定の樹法具を起動させることが出来るという。樹法使いでなくとも。 アーベンは、この奇妙で謎の多い図書館の開かずの扉の前に立った……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | レノ |
桜花広場にはいくつもの露店が出ている。レノは感覚の鋭い鼻をひくつかせ、露店売りの花屋に近づいた。 彼女は白くて香りの少ない蘭を数本選び、自分の服に飾るとにっこりする。 実に素敵だ! |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | リース |
調毒師リースは、昨夜作った試薬の様子を見るために起き上がった。 残念! 成功していれば緑色のかびが生えているはずだったが、ガラスの皿の上には何もなく、リースはがっくりとうなだれた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | マリアンヌ・フィケ |
娘を寝かしつけてから翌日のスープの仕込みを終えたマリアンヌ・フィケは、深夜にようやく床に就く。 隣のベッドでは娘が歯の一本抜けた口を開けて布団をはねのけており、彼女は微笑んで薄い布団をかけなおした。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
「まずいぜ」 裏町組合の上役は、苦り切った顔で世話役の一人であるメノウに言った。 「灰色鼬を野放しにしておけねぇ。奴め、大店も会員ものべつ幕なしで、しかも血まみれの荒仕事だ」 メノウは顔をゆがめて黙り込む。 「メノウちゃんよ。この件、重くなるぜ」 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルミア・バリシス/ エルルカ |
素性を隠してオーリエル学院に通うルミア・バリシスは、一日のカリキュラムを終えてこきりと首を鳴らした。 さて、カフェで一杯やるか、というところで、同級生のエルルカに捕まる。 「一緒に帰らない?」 「あ、あー…はは…」 ルミアは冷や汗をかいた。 |
時間 | 昼間 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アルトレーゼ |
「私はキミたちに武術を教えますが」 聖騎士アルトレーゼは、武術を習おうとする子供たちに説明する。 「武術、強さ、地位…それはあくまで手段で、目的ではないことを忘れないでください」 彼女は青い目を伏せた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エピリアーヌ |
植物と会話する樹法使いであるエピリアーヌは、樹法研究院近くの自宅で鉢植えに朝日を当てるために外に出していた。 もし通行人がいたら、植物に話しかける彼女は、ずいぶんと奇妙に見えただろう。 果たして彼女の聞く植物の言葉が本当に植物のものなのかは分からないが。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | リー/ ゲルマン・オフチーンニコフ |
リーは一人、酒場・宵闇の華亭でちびちびとなめるように杯を傾けている。彼はいつも一人で、そんな彼を心配したのか、ゲルマン・オフチーンニコフが、この小柄な鬼人種に近づいた……。 |
時間 | 夜 | 場所 | 六骨市場 | 登場人物 | シル/ シヅキ |
街の市場に薬を売りに来たシルは思わず一歩下がった。 「傷薬をいくつか買いたいのだが」 と、ぶっきらぼうに言う鬼人種の青年シヅキに(強面である以外は)落ち度はない。 単にシルは、男性がやや苦手だったのだ。ましてこんな仮面の大男は! |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | マグリア・A=ドラグ |
マグリア・A=ドラグが、いつものようにのんびりと港を眺めて群衆観察を楽しんでいると、気の荒い船乗りにぶつかられた。 「気を付けろぃ!」 しゃがれ声で言う船乗りに、彼女は憤然と言い返した。 |
時間 | 昼間 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | ザクロ |
ザクロは少し力を込めて、お客である女性の背中をもみほぐした。 焚き染めたお香の香りが汗のにおいと混じってむしろ心地いい。 「どうですか?」 彼女は苦心してその膂力を調整し、うっとりするお客に声をかけた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | ララ |
盗賊ララは、朝の光の中を元気いっぱいに歩いていた。 晴れ晴れとした彼女の顔を見た人は、この純真無垢な少女が、まさか西側有名議員であるダルジェエリング家の金庫を荒らした帰りだとは思わないだろう……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ亭 | 登場人物 | ドクトル・ハニィマシュー/ アザミ |
ドクトル・ハニィマシューは、護衛として雇ったアザミとともに、エルディカの帰路を急いでいた。 「キミが道を間違ったからじゃあないのかね! あたしは回診があるんだがね!」 「私は暇ですよぉ?」 出口は、遠い。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | チノ |
チノは酒樽の上で寝そべって高いびきだ。その彼女の脇で、長身の中年男が若い盗賊風の青年の肩を抱いてなにやら耳打ちしている。 中年男は寝ているチノの脇でこう言った。 「全部木っ端みじんさ」 彼らが出て行ったあと、チノは身を起こして目を細めた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | サヤ |
日没が近づき家路につき始める人々の流れとは反対に、サヤはエルディカに向かっていた。この間の探索行で見つけた鉱物のよりよいサンプルを探すためだ。さて前のような幸運があるといいけど!
illust.moryo |
時間 | 昼間 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ルティン/ ヴェステルナ |
ランチタイムが終わって、“虎の鰭”亭にはルティンとヴェステルナだけだ。 「暇なのか」 ルティンは言い、ヴェステルナは少し考えて「暇だ」と答えた。 結果彼女は、バケツ一杯の芋の皮むきを命じられたのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ルー |
「おはようございます」 獣人種の少女ルーは、改造制服をかきあわせながらにこにこと挨拶する。 「おはよう、ルーちゃん」 同じ道行きになったエストリフォが挨拶を返してくれて、ルーはうきうきした。今日も頑張ろう! |
時間 | 深夜 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | スカーレット |
「知らないねぇ。ここは夢の館…娼館だよ? 盗人も殺し屋もおりませんとも。無粋なことはやめてくださいな」 スカーレットは乗り込んできた官憲の顎を撫でた。 「お客さんとしてなら歓迎だけどね。女の子がいい? 男の子でもそろえられますわよ?」 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | シェック/ ルティン |
「閉めるのか?」 虎の鰭亭で料理をしていたシェックは、ルティンが店を早々に閉めようとしているのを見て仮面の下の目をぱちぱちした。 「あぁ、うん」 ルティンは頷く。 「最近物騒らしくて、店長が早めに閉めろって」 彼女は顔をしかめた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
「兄貴、今日は俺がおごりますよ」 魔香街で盗賊団を結成しているアルタイルは、妙に気が大きくなっている弟分に首を傾げた。 「羽振りがいいな。どうしたんだ」 「へへっ。ちょっとオイシイ仕事に噛みまして」 アルタイルは訝しんだ。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ミサギ |
ひゅっ、と風切り音を残して、鬼人種の戦士ミサギは木から木に飛び移りながら、据え付けた藁人形を切り飛ばした。 豹のようなダンスを終えて地上に戻り、枝を見上げる。 一つのこした藁人形に、ミサギは舌打ちした。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | スクレ |
王立樹法研究院に向かう途中でさえ、小人種の女性スクレは夢の中にいる。 彼女を運ぶのは、自身で作ったゴーレムだ。 がしゃーんがしゃーん、と、優雅な出勤を見せるスクラを咎めるものはいない。 慣れているのである。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ゼフィランサス |
エルディカ深部のその場所は、壁がわずかに青白く発光していた。 眠ることのない“青騎士”ゼフィランサスは、倒したノードスに腰を下ろし、兜の奥で目を閉じる。 薄れゆく記憶を、怒りと悲しみをかき抱くように。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | リア・エイリコ/ シェック |
同僚であるシェックに挨拶をして、獣人のリア・エイリコは大きなリュックを背負い直した。 虎の鰭亭での一日は今日もどじばっかりだったが、彼女の心は軽かった。 「うふふ!」 残った果物やくるみをたっぷり貰ったからだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン |
「ただの物盗りですわ」 ラスグィル・ダルジェエリングは殺人現場で相棒に鼻を鳴らした。 「つまらない」 「ひど。めった刺しよ。刺し慣れてる」 「そうね。犯人は背が高くて足の大きさは32サル。他に仲の悪い仲間が二人…どうして解るか聞きたい?」 |
時間 | 昼 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | シェルク・ウェスティン |
いつもなら開いているはずの店が、昼になっても開いていない。 「お休みかな」 シェルク・ウェスティンはなんとはなしに足を止めた。そして眉を上げる。生臭い匂い。血の匂いだ。 シェルクは戸を叩いた。一体何が?! |
時間 | 朝 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ファコン・ソルフィネア |
ファコン・ソルフィネアは毎朝起きるたびに顔をしかめる。 オーリエル学院の男子寮やベッドはたいそうおんぼろであり、名門出身で優秀な彼にはふさわしくないと思えるからだ。 くそっ! |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ルイーザ |
“迷宮”エルディカに昼夜はない。 破壊の樹法を受けたノードスが、ようやくその動きを止めた。 ルイーザが肩で息をしながら奥を見ると、別の黒い影が青い炎を引きながらこちらにゆっくりと向かって来る……。 長い夜になりそうだ。 |
時間 | 夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ゲルマン・オフチーンニコフ |
ゲルマン・オフチーンニコフの夜は忙しい。 特に深い時間になると、常連客の相手の他に酒の勢いで暴れたり店員に不埒な行いをしはじめる客を叩き出す仕事も加わるからだ。 しかしゲルマンは、この仕事を楽しんでいる。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ヴォル |
「はぁ? 来てない?」 浪人ヴォルは、最近様子がおかしいという飾り職人の男を訪ねた。しかしここ数日職場に出てきていないという。 「奴のカミさん、朝は普通に出勤してるって言ってたぞ。何か聞いてないか?」 親方も首をかしげるのみで、ヴォルは腕を組んだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
ジークヴァルト・クラウス・ディッペルは、お菓子をせがむ子供たちに昼寝を阻止されてしまった。子供たちの人気者である彼を廊下の影でアフィーネが悔しそうに見ているのに気づき、彼はにやりと笑って見せる。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | エイカ・ロロノトリ |
「……99、100!」エイカ・ロロノトリは、研究室に据えてある自作のトレーニング・ウェイトを持ち上げ、下ろした。ふーっ、と息をついて汗をぬぐうと、彼は今日の日課である研究の方に移る。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ノワ |
フードの男は、血と火薬のにおいを漂わせていた。 ノワは油断なく腰のナイフの重みを確認した。 「俺は誰とも組まない。ましておまえとは」 ノワは身体のばねをためてフードの男に言った。 「灰色鼬」 男が鼻を鳴らす……。 |
時間 | 夜 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ウリエラ |
錬金術師を名乗る黒いマントの女に声をかけられて、ウリエラは優雅に首を傾げた。 「錬金術の材料が欲しいんですかぁ? それなら組合に入れば……」 女は黙って銀貨の詰まった袋を見せる。代理で購入して欲しいというのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | エミリー |
エミリーは昼間に読みかけた恋愛小説の続きを赤い顔で読み続ける。 外で読むのが好きだが、これは外では読めない……。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
桜花広場は賑やかで、メイ・アサーシャは手にした短剣を投げ上げた。 五本の短剣を空中で入れ替え、回し、ぶつけ、踊らせる。 遊びに来ていた子供たちが、きらきらした目でメイの手元を見つめて手を叩いた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | マロン |
マロンはその日、宿で出す野菜の品定めをするために市場を訪れている。 「こっちはちょっと傷んでますね」 彼女の目を欺くことは難しい。 マロンは立派な蕪を選んで、宿まで配達を頼んだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ヤルドレド |
深夜。ある貴族の墓の前に、黒衣赤髪の青年が立っている。深い霧に沈む墓石に刻まれているのは、彼が半月前に殺した男の名。手向けられた花は彼の娘のものだろう。 暗殺者ヤルドレドはただ、それを見下ろしていた。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ボルブ・ボルドリック・ボロボレイト |
ボルブ・ボルドリック・ボロボレイトは一人、ボロボレイト武器防具装飾店の奥で持ち込みの甲冑に装飾を施している。 魔獣の毛皮で飾られた威圧的な兜を撫でて、彼はにんまりした。いい仕事をした。 |
時間 | 夜間 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ノア/ ヘンリー・オーグスト |
「へぇ、そんな方法で金と銀の合金を?」 「えぇ。かえって高くつきますけど」 カフェ・ド・エクスで出会った二人の錬金術師、ノアとヘンリー・オーグストは、それぞれの技術の話題で盛り上がった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | トビア・サンチェス |
先日の鉱山で起きた爆発事故について、意見を求められた爆発物に詳しい樹法使いのトビア・サンチェスは、地図と使っていた火薬量を一目見て言った。 「こりゃ事故じゃあないなぁ。誰かがこのリストとは別の火薬を持ち込んだんだ」 |
時間 | 昼 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | フィアマ・ソルフィネア |
アリーナにやってきたフィアマ・ソルフィネアは、巨大な魔獣と戦う兎の獣人戦士に大興奮である。 「わたくしもアリーナで戦ってみたいですわ!」 彼女は鼻息荒く受付に行き、親の承諾書を求められて退散した。 |
時間 | 朝 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シェルク・ウェスティン |
騎士シェルク・ウェスティンの朝は早い。 毎朝、彼女は借りている長屋の裏で剣の稽古をしひと汗流した後、甲冑を付けて騎士になるべく善行のために外出する。 今日は町会のゴミ拾いの日だ……。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | リズベット・ルー |
「あんたには売れないよ」と、リズベット・ルーは売ろうとしていた薬をひっこめた。 適量なら薬になるが、一度に使えば検出不能の毒薬になる。 「病気の奥さんなんて、いないんだろ」 彼女が言うと、客は顔をしかめた。 |
時間 | 夜 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴェックマン |
夜の裏町で、情報屋ヴェックマンはコインを数えながら言った。 「俺は情報屋ですぜ。あんたの知りたいことは教えまさぁ。もちろん、あんたが来たってことも、金を積まれれば売り物でさぁね」 相手である長身痩躯の中年男は薄く笑って頷いた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | リッカ |
ラ・メル・ソーンで働くリッカは人気の店員だ。 暖かい湯で心もほぐれたお客は、親しげに彼女に用を頼む。散髪、ブラッシング、お遣い……。 リッカはお客の間をちょこまかと走り回った。 |
時間 | 昼 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | スズラン/ シュネーバル |
スズランの周囲に人は少ない。 ゴーレムを遊び相手にする彼女は、邪悪ではないが危険な存在でもあった。 「やぁ、君もゴーレムで遊ぶのかい」 一人真鍮広場で遊ぶ彼女に、シュネーバルが声をかけた。 「僕もなんだ」 中年の男は無邪気に笑う……。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | アフィーネ |
元気な子供たちの声がシドリア大聖堂に響く。 今日は子供たちに読み書きを教える日で、子供好きなアフィーネにとってはまさに週に数度の祝日であった。 彼女は一人一人、子供を抱きしめて教室に迎え入れた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | シャロン |
帰宅したシャロンはぐったりとベッドに倒れ込んだ。こんなはずではなかった。酒場で夕食だけの予定だったのに、職人街の友人につかまってしこたま飲まされたのだ。 彼は泥のように眠った……。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | ヴォル |
その夜、たぬき屋の用心棒である浪人ヴォルは、以前助けた元盗賊の飾り職人の妻に相談事を持ち掛けられた。 「旦那…ウチの人が最近おかしいんです…。まさかまた盗人に…」 「まさかぁ…あいつは足を洗っただろう」 どうやら面倒なことになりそうだ…。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | アイリス=ローゼ |
夕暮れ時、大通りの街灯の一つ一つに、雇われ樹法使いが明かりを灯してゆく。 アイリス=ローゼは、ほんのりオレンジ色の明かりに、小さな埃がきらめいているのを無感動に眺めた。 昨日も今日も、きっと明日も。 |
時間 | 昼 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ドロイ・トピアス |
裁縫職人であるドロイ・トピアスは、アトリエにしている職人街の職場で、持ってきたおべんとうを広げた。 剣闘士である姉が作ってくれたもので、彼はその小箱にたっぷりのにんじんが入っているのを見て顔をしかめた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 西側・港 | 登場人物 | エクス |
エクス貿易商会の主であるエクスは、うきうきと小走りに西の商業港に走った。 伝書鳩によると、今日の朝には凪の海を越えて、彼女の商会の貿易船が戻ってくる手筈になっているのだ。 見たこともない品物と話を載せて! |
時間 | 未明 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | メノウ |
ソーンの夜を牛耳る裏町組合の世話役の一人であるメノウは未明、突然後ろから声をかけられた。 「よぉ、メノウ。相変わらずチビだな」 「…お前、灰色鼬…。戻ってたのか」 声をかけてきた長身の中年男は、にたりと笑った。 |
時間 | 夜間 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エストリフォ |
白王女エストリフォは、差出人不明の小さなかわいらしい箱が、寮の机の上に置かれているのを見つけた。メシュ・メシュの字で「仕掛けはないよ」とある。 「わぁ…」 中には、頭がぴょこぴょこ動くクマのおもちゃが入っていた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | リーズ/ アルフレド |
たまにカフェの手伝いに入ってくれるリーズを、アルフレドはそれなりに頼りにしている。彼女はお客に人気があるし、育ちが良くて礼儀正しい。 ただ気を付けねばならないのは、彼女の背負ったゴーレムだ……。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | クロエラ |
そもそも師匠を探しているクロエラは、聞き込みまがいのことをすることも多い。 そんな彼女の行動と、根無し草の大道芸人であることが怪しく見えたのだろう。 妙にぴりぴりした憲兵の職質を受け、クロエラはげんなりした。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 青銅広場 | 登場人物 | クロエラ |
そもそも師匠を探しているクロエラは、聞き込みまがいのことをすることも多い。 そんな彼女の行動と、根無し草の大道芸人であることが怪しく見えたのだろう。 妙にぴりぴりした憲兵の職質を受け、クロエラはげんなりした。 |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街はずれ | 登場人物 | ルイーズ |
家出中のルイーズは、朝のさわやかな光とともに目を覚ました。 目を覚ましたのは暖かなベッドではない。落ち葉を積んだ上で毛布にくるまった彼女は、消えかけた焚火の火を熾すために起き上がった。 今日も素敵な一日になりますように! |
時間 | 未明 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ヨルダ |
空が白みはじめた頃、ヨルダの時間は終わりを告げる。 一番鶏が鳴く頃にヨルダは宵闇の華亭を後にし、魔香街カプノ・ドゥエイスのねぐらに戻り、彼女はそこで、自由気ままと天涯孤独の中間を過ごすのだ。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 赤盾市場 | 登場人物 | ウィク・イグナイター |
その少年は不運だった。 ウィク・イグナイターのポケットから、重みのある物体をすり取ったまではいいのだが、それについていたピンを残してしまった。 数秒後、少年は夜の通りの真ん中で炸裂した発光と轟音で気絶するのだった…。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 六骨市場 | 登場人物 | ルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオ |
「若殿、チョイとお耳を」 六骨市場を警邏巡回していたルイ=シャルル・ド・ポラリス=ヘカテリオに、配下の町人が耳打ちした。 「灰色鼬が街に戻ってるってぇ噂で…」 数年前に捕り逃がした盗人だ。ルイは片眉を上げた。 |
時間 | 昼間 | 場所 | ラ・メル・ソーン | 登場人物 | フィリアス |
予想以上に長引いたエルディカ探索から戻ったフィリアスは、自宅よりも先にこの公衆浴場ラ・メル・ソーンにやってきた。 日の差さない“迷宮”の埃や得体の知れない泥を落としたい! |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | ダイン |
見習い職人ダインは、毎朝早くから鍛冶場にやってくる。簡単に掃除をし、どきどきしながら火を熾しておくのだ。 そこに、かつての裏町の仲間がやってきた。 「実はもめごとがあって……」 ダインは選択を迫られる。 |
時間 | 未明 | 場所 | 城外の街はずれ | 登場人物 | フラーニ |
明け方、扉が開く音に、フラーニは目を覚ました。 不自由な身体を起こそうとする彼女を、入ってきた男がそっとまた横たえる。 「ごめん、起こしたかな」「どこに行っていたの」 彼女の問いに、彼は微笑んで首を振った。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ヴァリュー |
薬の売買のために裏町にやってきたヴァリューは、少年たちと言ってもいい若い連中が集団で喧嘩をしているのを見つけた。 とりあえず刃物を振り回す様子はなく、ヴァリューはひとつ肩をすくめるにとどめた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 酒場・たぬき屋 | 登場人物 | マリアンヌ・フィケ |
亡き夫から受け継いだ酒場“たぬき屋”は、マリアンヌ・フィケの城だった。 ごく一般的な庶民向けの居酒屋で、これといって名物があるわけではないが、しかし彼女は、この店とここに集まるお客を愛しているのだ。 今日も彼女の城に、常客たちが訪れる…。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 虎杖門 | 登場人物 | ニレル・ナタン |
近くの採掘場で火薬の誤爆とみられる崩落事故があったらしい。 門には怪我人が並び、仮設の診療所が開かれている。 ニレル・ナタンは怪我人の間を飛び回り、素早いが的確に応急処置を施していった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ルミア・バリシス |
深酒の後のルミア・バリシスは毎度後悔する。今朝も彼(彼女)は、ゴミ捨て場から身を起こした。 「いかん…これから水浴びして…服を…かわいくしなくては…」 彼女(彼)は愛刀を杖によろよろと立ち上がった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | ミサギ |
腕試しのためにエルディカに一人踏み込んだミサギは、三体目の“死にぞこない”を始末した。 孤独を選んだのは自分だ。 ミサギは向こうの通路から元冒険者風の“死にぞこない”が殺到するのを見た。 ああはならない。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・虎の鰭亭 | 登場人物 | ギネヴィア |
武装旅団に依頼され護衛としてしばらくソーンから離れていたギネヴィアは、久々に行きつけの“虎の鰭”亭で膨らんだ財布を軽くした。 …でも全員に奢ったのはやり過ぎだったかもしれない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | オルヴァ |
窓の少ない図書館の数少ない明り取りの窓から、調べものに飽きたオルヴァはひょいと顔をのぞかせた。 下校中の学生たちが、楽しそうに歩いている。 …数日後「誰もいないはずの図書館の窓に浮かび上がる顔」という怪談が生まれた。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | デュリン/ アルメル |
沢山の人でごった返す桜花広場に、ずしんずしんと重い音が響く。 デュリンの連れたゴーレムのゴーちゃんだ。 ぎょっとして振り返る人々をよそに、彼女はアルメルのおままごとのようなお菓子露店を見つけると、興味津々に近づいた。 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | アザミ |
鬼人種の錬金術師アザミは、不意に鼻をひくつかせて立ち止った。アザミにとっては嗅ぎ慣れているが、街中ではあまり匂わない香り。 すれ違った長身の中年男性が漂わせていたのは、火薬のにおいだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ナギ・ルーシプルムス |
ナギ・ルーシプルムスは桜のつぼみを眺めた。 月の光が天枝の影を落とし、昼間はまぶしく騒がしいこの広場を幻想的な場所に変えてくれている。 白くて長い耳が夜風に揺れて、彼女は夜の散歩を続けるのだった。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・宵闇の華亭 | 登場人物 | ヒルデガルト・リーデルシュタイン/ トニョ・ベルトラン |
ヒルデガルド・リーデルシュタインは、トニョ・ベルトランとともに、“宵闇の華”亭で夕食を摂ったのだが、どうもあまり美味くない。 二人は文句を言うでもなく、黙々とそれを片付けた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 西側・赤盾市場 | 登場人物 | キキ・テリヤ・ニートカ |
服飾に携わるキキ・テリヤ・ニートカは、熱心に緑色のチュニックを勧めた。 「これ、襟のところの切り替えしにレースを使っていまして……」 相手はちょっと太めの貴族で、これなら隠すより貫録を出した方がいい。 彼女は自分のセンスと裁縫に自信があった。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | イオナ・ロウグラ/ ノシュマン |
盗賊イオナ・ロウグラは、“仕事”に向かう途中の鍛冶屋で足を止めた。見れば若い職人たちが仕事に精を出している。憧れの目でそれを見るイオナだったが、「興味があるのかね?」と、店主のノシュマンに話しかけられ、飛び上がって逃げ出したのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | アキレァ |
今日は剣闘の試合がある。アキレァは威風堂々アリーナに向かい、途中で手を振ってくれるファンに手を振り返した……途中で立ち止まり、ファンの持っていた骨付き肉を指差す。 「それ、もらっていいかな?」 |
時間 | 深夜 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | シエラ |
シエラは深夜、樹法研究院の屋上に上がって星を眺めた。 星の巡りは未来を予測する手助けになると信じるシエラは、分厚いノートに星の配置を書き記す。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 貴族街 | 登場人物 | エレナ・ウォレス |
エレナ・ウォレスの屋敷のあちこちには、彼女のために水槽が据えられている。 留守がちな父とメイドの三人暮らしで持て余し気味なお屋敷だが、エレナにとっては憩いの我が家なのだ。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 赤盾市場 | 登場人物 | ラバンニャ |
ほとんどの市場は店じまいを始めている。 明かりが灯っているのは酒場やレストランばかりで、一匹狼の調毒士ラバンニャには、すこし居心地が悪い。 彼女はタバコをくゆらせながら、待ち合わせていた売人を待った。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | ミニジン |
オーリエル学院で教鞭をとるミニジンは、昼食の最中に突然たちあがった。 一緒に食べていた生徒がいぶかしむが、ミニジンは彼女にこたえず持っていたナイフで、食堂の真新しい机にいきなり数式を刻み始めた……。 |
時間 | 朝 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | アステール |
休み明けのアステールは少し遠い樹法研究院まで走って通勤する。樹法に関しては天才と名高い彼だが、あえて樹法を使わず走る。 もちろん朝には牛乳も飲むのだ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン |
「ロジィ。反省会するわよ」 泥で汚れた顔をぬぐって、レイはソファに帽子を叩きつける。 「楽しかったでしょう? 楽しみは人生に欠かせないものである」 ラスグィル・ダルジェエリングは自分のミスを誤魔化した。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | クロエラ |
今日はちょうどいい宿が見つからなかった。クロエラは街外れの木立の下に敷物を広げ、落ち葉を集めて着火の樹法で火を熾し、大道芸で得たパンをあぶる。 ついでにお茶も淹れようか。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 六骨市場 | 登場人物 | ルルバ |
小人種の樹法使いルルバはロープやランタンの油を品定めした。陽気でのんきな彼女も、決して“迷宮”エルディカをなめてかかっているわけではない。 「これ、いくらだっちゃ?」 彼女は商談という戦いに臨んだ。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 裏町 | 登場人物 | ラスグィル・ダルジェエリング/ レイ・セライン |
同居人ラスグィル嬢にとって、ティータイムは優雅な自分を“演出”するために欠かせないものなのだ、と、レイは認識していた。 しかし、まさに悪党を追い詰めようという時にもお茶を欲しがるのは、全く理解できない! |
時間 | 朝 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ライル・クロイツァー |
騎士ライル・クロイツァーは兵士たちに号令する。 いざとなれば彼らを率いて戦う責務があるのだ。訓練には手を抜けない。 「でも少し真面目すぎるだろうか……」 彼は昨夜読んだ“部下の掌握術”なる本を反芻した。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ノダ |
街外れの住処で、元盗賊のノダがにまにましている。 自宅にこしらえた地下室には彼女が収集した武器が保管されており……。 「おっと」 彼女は近づけ過ぎた蝋燭を慌てて遠ざけた。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 色街・百合おばけ通り | 登場人物 | シヅキ |
「覚えてやがれ!」と逃げていくちんぴらどもを見送って、シヅキは肩をすくめた。 彼はただの用心棒。連中を軽く“なでてやった”ことなど、いちいち覚えていられない。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | エリク・ヤヌシュ |
エリク・ヤヌシュは短く息を吐いて呼吸を整えた。視線の先には銀色の毛並みを持つテン。手には単弓。エリクの枝角はまるで彼が隠れている茂みの一部のよう。 エリクは目を細めた……。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | キャンデロロ |
動く水の「タプタプ」を操るキャンデロロにとって、空き巣に入るくらいお手の物だ。仕事に出て留守になっている家の錠前を外し、中に入る。 嬉しいことに、食卓にスープ鍋が出しっぱなしだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | 職人街 | 登場人物 | フクマル |
職人街の飲食店に求められるのは、やはり量と早さだ。 フクマルは朝早くから押し掛ける気の短い職人たちに、次々と朝食を出してゆく。ただ、量と早さ以上に喜ばれるものもある。 笑顔だ。 |
時間 | 深夜 | 場所 | ゴルゴーナ図書館 | 登場人物 | サイウォー・ドレシス |
サイウォー・ドレシスは樹法で灯した明かりを掲げた。ゴルゴーナ図書館は暗く、闇に満ちている。しかし彼は得意げに鼻を鳴らした。 「隠し部屋がどこかにあるはずなんじゃ……」 彼の探索は続く。 |
時間 | 夜間 | 場所 | カプノ・ドゥエイス | 登場人物 | アルタイル |
「こっちだ!」 アルタイルは路地のごみに身を隠して、逃げる仲間に声をかけた。追ってくる兵士から、仲間と共に素早く身を隠す。 「間抜けめ。捕まるかよ」 彼はにやりと笑った。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 六骨市場 | 登場人物 | ネオーマ |
夕暮れ時、早く店を閉めたい店主の対応が雑になっていくのを、ネオーマは根気よく待った。材料の仕入れは安い方がいい。 「いいだろ、ひとつ銀貨四枚で」 ネオーマは値切りに手を抜かない。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | ノエル/ ヘンリー・オーグスト |
真鍮広場での軽食売りはこの時間が一番の書き入れ時。料理人ノエルは、しっぽをくわえる暇もない。 朝から座り込んでいたヘンリー・オーグストは、とうとう売れない露店を放り出して、ノエルの店に並ぶのだった。 |
時間 | 朝 | 場所 | シドリア大聖堂 | 登場人物 | ジークヴァルト・クラウス・ディッペル |
ジークヴァルト・クラウス・ディッペルはいつものように礼拝を済ませると、子供たちに読み書きを教えている教室をのぞきに行った。 「ジーちゃん先生だ!」と、子供たちが駆け寄る。 袖のお菓子を目当てに。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 市場 | 登場人物 | ムツラ |
夜陰に紛れ、ムツラは市場の大店に向かった。ここが今夜の仕事場だ。ハイヒールのまま音もなく裏口に忍び寄ると、ポケットから針金を取り出す。 「さぁ、いい子にしててね……」 ムツラは錠前に語り掛けた……。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 酒場・一角獣の森亭 | 登場人物 | ヨキ |
貴族同士のやりとりにも暴力はつきまとう。秘書として後ろに立っていた獣人種の戦士ヨキは、雇用主がすごまれたのを見てボディガードとして前に立った。 散るは微笑か鮮血か。 |
時間 | 夕方 | 場所 | カフェ・ド・エクス | 登場人物 | ルルク・シェンツァ |
ルルク・シェンツァは、引きこもっているカプノ・ドゥエイスの自宅を抜け出し、珍しく港近くのカフェ・ド・エクスにやってきた。 「甘いものは頭にいいんだ」彼女はそううそぶいて、砂糖菓子をいくつか購入する |
時間 | 昼間 | 場所 | アリーナ | 登場人物 | レビィア・トピアス |
今日最後の試合で、レビィア・トピアスは猛り狂う巨大なカミツキガメと対戦した。熱狂する観客の前で、“鮮血の赤兎”は見事カメをひっくり返し大勝利。カメがウサギに勝つのはお話だけで沢山だ! |
時間 | 朝 | 場所 | 城外の街外れ/朝 | 登場人物 | カアラ/ ルディ |
“呪腕の”カアラは街中で夜を明かさない。彼女は連れの少女をともに街外れで悪夢に目覚めた。いつものノードスの夢だ。慣れてはいけない。心配そうにする少女を右手で押しのけ、カアラは起き上がった。
illust.iltusa |
時間 | 深夜 | 場所 | 虎の鰭亭 | 登場人物 | ギネヴィア |
ごく健全な酒場である“虎の鰭”亭は、料理も酒も安くてうまいが閉店時間が早い。追い出されたギネヴィアは背中の大剣をゆすると、飲み直すために“宵闇の華”亭に向かうのだった。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 宵闇の華亭 | 登場人物 | ノワ |
夜は盗賊ノワの時間だ。宵闇の華亭で“手遊び”をするつもりはないが、しかし耳は立てておくべきだろう。 頭を突き合わせてひそひそ話す男たちの話を盗み聞くために、ノワは影のようにその背後に忍び寄った……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ダイン/ アリミナ |
「こんなの、何に使うんスか?」鍛冶師見習いのダインは一抱えもあるような籠手を、マントの美女に引き渡した。受け取ったアリミナは微笑むと、店の外に停めてある自身のゴーレムを指してみせ、ダインは息をのんだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | アメリア |
今日は天気がいい。アメリアは家の近くの森に散歩に行こうとしたところで、お父さんに「危険だからやめろ」と呼び止められる。アメリアはぷっと膨れると、立てかけてあった大斧をかついでみせた。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | イスラ |
錬金術師の卵であるイスラにとって、深夜は貴重な勉強時間だ。昼間は師匠にくっついて下働きに忙しい。「あたしだってすぐ師匠みたいになるんだから……」イスラは呟いて、教科書に垂れたよだれをぬぐった。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 虎の鰭亭 | 登場人物 | エルルカ/ ルティン |
下校するエルルカは学院の友達と笑顔で別れると、アルバイトをしている“虎の鰭”亭に向かう。そつなく明るくこなしているが、彼女はあの店のルティンが苦手だった。なんとなく、心を見透かされる気がして。 |
時間 | 日中 | 場所 | 城外の街外れ | 登場人物 | ルシェン |
薬売りのルシェンは相棒の獣であるミケを伴って、街外れの森を散策していた。「青い花……これですね」ぱらぱらと手帳をめくりながら、ルシェンは鎮静効果のある花をいくつか摘んで鞄にしまいこんだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | 真鍮広場 | 登場人物 | カイル |
市場の仲買人から肉を仕入れると、カイルは屋台を引いて真鍮広場に繰り出した。エプロンをかけ、炭を熾し、肉に串を打つ。準備が出来て、カイルは声を張り上げた。「さぁいらっしゃい! おいしい串焼きだよ!」 |
時間 | 朝 | 場所 | 宵闇の華亭 | 登場人物 | アラワク |
日が昇り街が目を覚ますころ、獣人アラワクの一日が終わる。酒のブレンド研究に余念のない彼女は、試作品をすべて飲み干してしまう。店の片付けも早々に、彼女は気分良く服を脱ぎ捨てて布団に潜り込むのだった。 |
時間 | 深夜 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ベルゼ・カロン |
ベルゼ・カロンの個人診療所“ラズライト”には、しばしば厄介な客が訪れる。今夜もそうだ。大きな刀傷を受けた鬼人種の男は、銀貨を一山投げてうめくように言った。「何も聞くな」と。ベルゼには慣れたものだが。 |
時間 | 夜間 | 場所 | 宵闇の華亭 | 登場人物 | ブラックフォックス |
ブラックフォックスは依頼人を品定めした。「殺すのか」「いや、腕を折るだけでいい」依頼人は袋を押してよこす。彼女はそれを右手で開いて中を見た。金貨だ。「息子の出世がかかっている」彼女は鼻を鳴らした……。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 住処 | 登場人物 | ハノワリ |
「それじゃ、私は仕事に行くから、留守番しててね」七人の弟妹に夕食を食べさせ終えたエニマは、夜の職場である“宵闇の華”亭に向かう。「いい? 知らない人が来ても扉を開けない事!」「はぁーい」 |
時間 | 日中 | 場所 | 赤盾市場 | 登場人物 | ハノワリ |
ハノワリは西側の赤盾市場をぼんやりと流すように歩いていた。特に何か買うものがあるわけではないが、彼はこの雰囲気が好きなのだ。 |
時間 | 昼 | 場所 | オーリエル学院 | 登場人物 | エストリフォ |
白王女エストリフォも、このオーリエル学院の中では一人の学生に過ぎない。昼下がり、昼食のサンドウィッチとりんごでおなかの膨れた彼女は、古典の授業中にうっかり居眠りをし、こっぴどく叱られるのだった。 |
時間 | 早朝 | 場所 | 軍事拠点 | 登場人物 | ガルム・ウォレス/ ヤエ |
獣人種の将校ガルム・ウォレスの朝は早い。誰よりも早く目覚め、彼は屋敷の庭で日課の走り込みと素振りを行う。終わるころにはメイドのヤエが着替えを持って来てくれる。家族のため、彼は鍛錬を欠かさない。 |
時間 | 深夜 | 場所 | エルディカ | 登場人物 | アリミナ |
迷宮エルディカの内部で夜を明かす羽目になったアリミナは、自作のゴーレムにくくりつけた鞄から食料を出し、加熱機能をつけなかったことを後悔した。暖かいコーヒーを淹れることができたらどんなによかったか! |
時間 | 夜間 | 場所 | 王立樹法研究院 | 登場人物 | トビア・サンチェス |
トビア・サンチェスは泊まり込みが決定した。いくつかの樹文を組み合わせたあたらしい樹文が、どうやら何らかの意味を持ちそうなのだ。「酒ができるといいんだが」と、彼はうそぶいた。 |
時間 | 夕方 | 場所 | 城外の街はずれ | 登場人物 | ウリエラ/ アルフレド |
ウリエラは美しい白髪をなびかせてカフェ・ド・エクスを出ると、住み慣れた街外れの自宅に戻った。アルフレドによって綺麗に整頓されたカフェと雑然とした我が“ごみ屋敷”の差は、あまり気にならない。 |
時間 | 昼間 | 場所 | 桜花広場 | 登場人物 | ルシェン |
桜の舞い散る桜花広場では、どうやら薬売りの露店は場違いだったようだ。全く売れる気配のない便秘薬や毛生え薬を、ルシェンは薬箱にしまい込んで立ち上がった。 |
時間 | 夜間 | 場所 | たぬき屋 | 登場人物 | ヴォル/ シェルク・ウェスティ |
浪人ヴォルは、酒場たぬき屋で用心棒をしているが、何事も無ければただ飯喰らいである。 そして今夜はどうやら、ただ飯の日らしい。 のんびり足を組む彼を、シェルクが白い目で見ている。 illust.moryo |
時間 | 夕方 | 場所 | 虎の鰭亭 | 登場人物 | メイ・アサーシャ |
メイ・アサーシャの一日は散々だったが、気を取り直しすために入った“虎の鰭”亭のディナーですべてを許す気になった。 「おにくおいしい!!」 |