人 種
クリファには多様な生物種が存在する。
吠えたてる動物種、物言わぬ昆虫種、海や川に住む魚類種や貝種、空に繁栄の場を求めた鳥類種、悪夢から現れたかのような魔獣種、孤高にして謎多き竜種……。
そして現在、クリファの霊長として道具を利用できる両手と、会話する言語を持ち、交流する文化を持つ種が、“人種”である。
彼らは自らの生存域を広げる強い衝動と創造性を持ち、あらゆるものを利用する狡猾さもまた持ち合わせていた。
第二紀において樹法を獲得したのち人種は変化と混血を繰り返しながらクリファに広がり、ノードス戦争においてはあらゆる種の天敵であるノードスと戦い、とりあえずという注釈付きとは言えこれに勝利を収めている。
人種の持つ飽くなき探求心と冒険心は現在においても衰えることはなく、樹力に頼らない様々な技術をもって、再び世界に乗り出そうとしているのだ。
【蛮人種】
人種の中でも、ノードス戦争において戦った統一国家フェラー帝国に参加せず他人種と戦う道を選んだ人種を、フェラー帝国文化圏において“蛮人種”と呼ぶ。
彼らの多くは好戦的で排他的であり、広人種の皇帝であるレグ・シャアに従うことをよしとしなかった。
ゴブリン種やオーガ種、ジン種、コボルド種などで、彼らは種族単位で国家規模の集団になることはなく、徒党を組んで人種の町や村を襲うことがある。
●広人種
世界のあちこちで最も数多く栄えている人種。
比較的短命(寿命はほぼ六十から七十年)であり、それゆえに強い探究心と野心を持つ。
髪の色、肌の色は出身地域によりさまざまだが、ノードス戦争以後千五百年の間に移住と混血が進み、現在では容姿から出身地域を推察することは難しい。
広い国家を構築し、維持する意志を持ち、またそれを常に拡大し続ける欲求を抑えることができない。
かつては樹力に親和性の強い人種だったが、樹力を操る才能を持つものは年々減っており、変わって新たな技術を次々と発見している。
【古代人種】
“反逆者”エルディールによって源樹が破壊される以前の人種は、人種を問わず現在の同様の人種よりもはるかに長命で、また肉体的にも強力な種族だったとされる。
源樹が破壊され樹力の衰えた世界で彼らは長い寿命と強靭な肉体を失ったが、環境の変化に対応し自らの領域を広げてゆく飽くなき創造性はむしろ強まっていると言える。
●獣人種
南方諸島をルーツとする人種。
人と獣の両方の特性を持ち、どの獣の性質を持って生まれるかは“源樹の思し召し”と言われ、生まれるまではまったくわからない。たとえば虎の特性を持つ両親から猿の特性を持つ子が生まれることもそう珍しくはないのである。
優れた身体能力と感覚器官を備え、特に鋭い味覚は、料理人や調毒師に向いた性質となる。
体格、寿命ともに獣の特性によってかなりのばらつきがあるため、平均を取るのが極めて難しい。そのため、個人主義的な傾向の精神性を持つ。
その出身から海に親しむ場合が多く、双子都市には船乗りとしてやってきて、その後定住したという経歴を持つものが多い。
元来陽気な種族であり、独自の南方風楽器、踊りなどに親しんでいる。
【鱗人種の噂】
獣人種たちがどの動物の影響を受けるかが“源樹の思し召し”であることは、彼らが元来開放的な種族であり、長い交流と混血の歴史によってすべての獣人種がほぼすべての因子を抱えていることによる。
しかし、未踏砂漠の先に、蛇と蜥蜴に近しい人種がいると噂されている。彼らは純血主義で血統に誇りと名誉を見出し、鉄を持たずガラスと石と黄金を武器とし、源樹ではなく太陽を崇めているという。
●小人種
コピ族、などと呼ばれる。大人でも広人種の半分ほどの身長にしかならず、子供のように見られがちだが、立派な人種の一員である。
寿命は百年から百五十年ほど。
種族としての明確な拠点を持たず、その発生は謎のままである。
基本的には定住せず、数家族単位のキャラバンを仕立てて人種の街を行き来する移動生活を送っている。
最大の特徴は、生まれながらに額に持っている石。
わずかに透き通った光沢を持つそれは、彼らの脳に直結しており、生まれながらに一種類の樹法に似た能力を備えている。
倫理観に乏しい種族であり、他の人種の街でしばしば悪意なく問題を引き起こす。
【小人種の“いたずら”】
小人種は生まれながらに額の石を通して周囲の樹力に働きかける一種類の能力を持っている。
これは思春期までに目覚め、多くの場合一生変わることは無い。多くは「手を触れずにものを動かす」能力だったり「小さな幻を作り出す」能力だったり、「周囲の様子を見ずに知覚する」能力だったりと、ごくささやかなものであるが、彼らはこの能力を楽しんで、あるいは狡猾に利用する。
●鬼人種
東方の未踏破領域にルーツを持つと言われる謎多き人種。
身長は広人種よりもやや小柄で華奢。額や側頭部などに一本から数本の角を持つ。
彼らを特徴づけるのは、その特異な文化である。
彼らは生まれたときに仮面を作り、それを(大きさを手直しすることはあっても)基本的に生涯外すことはない。仮面は心を許した夫婦が寝室でのみ外すことを許され、兄弟であっても顔を知らないことは珍しくない。
そのため個人識別には入れ墨を利用する。
彼らは生来樹力的な素養を持っており、それらを制御するために歳を重ねるごと、入れ墨を施す文化がある。この入れ墨は単なる装飾ではなく樹術的な効果を持っており、それにより彼らは細身に似合わない膂力などを得る。
また、秘伝として優れた冶金術を伝えており、砂鉄の採掘できる川べりや鉱山などに部族単位で生活している。
【長垂菊の里】
独自の文化を守る鬼人種は他人種の文化圏にあっても同種族でまとまったコミュニティを形成する場合が多い。
この“長垂菊(ながたれぎく)の里”もその一つで、源樹の地脈を受けて双子都市から南東の山脈に数十人からなる村を作り、他種族とゆるやかに交流しつつ平和に生活していた。
ある時、堕天のノードスがこの“長垂菊の里”に落下するまでは。
●多様化する人種
このクリファで人種たちが把握している領域は決して全てではない。鬼人種のルーツとされる東方にはいまだ未探査領域が広がり、南方諸島の海の向こうには新大陸が噂されている。オルオラのさらに北方、雪と氷で閉ざされた永久氷壁の先は、生きて帰ったものはいない。
そこには全く未知の種族が独自の文明を築いているかもしれない。あるいははるか昔に既知領域を去った忘れられた人々が発展しているかもしれない。
源樹の破壊によって衰え混乱した樹力が、交流による変化が、まったく新たな種族を生み出すこともあるだろう。
現在、双子都市ソーンをはじめとする各地各国は、発見と進出の時代を迎えている。
未知の種族たちが友となるのか、敵となるのか。それは誰にも分からない。