世 界

●源樹クリファ
 この世界の礎である源樹がいつからあったかは誰も知らない。
 空を見上げれば天枝と呼ばれる源樹の枝が空を覆い、山と見紛う巨大な源樹の根が大地に横たわっている。
 北方に目を向けると、折れて半分になっていても、雲に迫る高さの巨大な源樹の幹を見る事が出来る。
 天地開闢のころよりこの地上に生きる全ての生き物はこの源樹を祖とする兄弟だと言われており、世界の営みは源樹を中心に広がっている。
 かつては完全な姿を見せていた源樹であったが、ノードス戦争の終わりに“反逆者”エルディールによって破壊され、現在は上空に浮かぶ天枝と地下に広がる地根に分かれてしまった。



●天枝
 この世界を覆う源樹(げんじゅ)の枝の事を天枝(てんし)と呼ぶ。
 かつて、源樹は天高くそびえ立ち、その枝と根は世界を隈なく覆っていた。
 もしこの大地を外から眺める事が出来る者がいたなら、その姿はさながら巨大な鳥籠に見えたに違いない。
 世界の黎明期においては、地上を支配した“樹人”たちが、根とともに住処としていたとされるが、幹が折られて以来降りてくる者はいない。
 まれに訪れるのは、天からの災い“堕天のノードス”のみである。



●源樹の根
 世界全体には“地根”あるいは“地脈”と呼ばれる、源樹の根が張り巡らされており、その一部は地上に露出し周囲に源樹から発せられる力“樹力”を放っている。
 樹力は生命の源であり、その周囲では強い実りを得ることが出来るため、街や村がその周辺に作られることも少なくない。
 古い大都市のいくつかは、特に巨大な根の上や近くに建造されており、その強力な樹力の恩恵を受けている。
 この根は天枝同様に、有史以前に“樹人”の住居や都市であったとされ、現在も遺跡として残っている。そこには眠るのは、財宝、罠、人知を超えた知識、恐るべき怪物“ノードス”などである。
 “双子都市ソーン”の地下にあるとされる迷宮エルディカは、この地根のもっとも有名なもののひとつで、その最深部には王家のもののみが触れることを許される秘密の“樹法具”があるという。




●人種
 現在この世界の霊長として地上に君臨する種族の総称。
 獣人種や小人種、鬼人種などを含む、「両手と言葉と文化を持つ人形種族」全体を指す。
 他の源樹から生まれた種……動物種や昆虫種、植物種など……との最大の違いは、音声による言語を持つことと、樹法を操ることができること。
 なお、通常“人種”と言えば、ノードス戦争の際に盟約を結んでノードスと戦った人種を指し、盟約に参加しなかった、ゴブリン種などの人種は“蛮人種”と呼ばれ、現在においても人種と敵対している。



●ノードス
 源樹の力である樹法にて栄華を極めた時代に現れた、人種の天敵。
 大きさや形は様々だが、黒い砂鉄を固めたような肌、裂けて割れたような亀裂とその隙間から見える青い炎が特徴。
 その行動理念も思考も人種とは完全に異質であり理解することはできないが、源樹の樹力を受けて活動し、人種を襲い生命を枯死させる存在であることは間違いないとされる。
 ある学派は源樹が遣わした人種への罰であるとも言い、過激な終末思想の根拠になる場合もある。
 “反逆者”エルディールにより源樹が破壊された後、多くのノードスは活動を停止し眠りについたが、地根の遺跡やあるいは近くなどでまれに現れ人種を襲う。
 彼らは特殊な知覚で人種を見分けているとされ、地根や地脈にそって移動する。
 硬い外皮と強い膂力を備えたノードスを破壊することは一軍を率いたとしても困難であり、ノードスを破壊するためには多くの場合ゴーレムが必要となる。

【多く見られるノードス/illust.モリチカシュウト】
 遭遇例が多いのはこの2〜3ミルのサイズのノードスで、鋭い爪と顎で犠牲者を引き裂く。



●堕天のノードス
 まれに、天枝から落ちてくるノードス。
 地上で見られるノードスよりも巨大で強力なことが多く、中規模の共同体をひとつ平らげた記録もある。
 古い第四紀帝国時代の盟約により、これに対抗するために周辺は一度休戦し協力することが求められる。



●樹人
 人種に先立って存在したとされる謎の存在。
 源樹の中、天枝や地根などに住み、生命を管理していたとされている。
 現在は地根の遺跡などにその痕跡を残すのみである。



●樹力と樹法
 樹力とは、古の時代に“源初の樹法使い”プロンミウスが発見した源樹が放出する不可視の力。
 この力により源樹、およびその根の周辺では作物が実り、家畜は健康で、もちろん人種にとってもよい環境が形成される。
 プロンミウスは、この樹力を特殊な言語を使う事によって性質変化と指向性を持たせる事に成功した。
 例えば熱を生じさせ、手を触れずに物体を動かし、稲妻を呼び、傷を癒やす。
 これらを樹法と呼び、人種はこれを用いて飛躍的に繁栄した。
 樹法は誰でも扱えるわけではなく、その修得にはある種の才能と、長い修行が必要である。
 樹法は言語によって操られるが、その語彙は謎が多く、言葉として扱えたのはプロンミウスと、その娘である“反逆者”エルディールのみである。
 現在の“樹法使い”はみな、単なる合言葉として丸暗記しているに過ぎないが、それでも樹法が偉大なる源樹のもたらした強大な力であることに変わりはない。



●樹法具
 樹法の力を内包する道具の総称。
 灯りを灯したり、方角を知る等の便利な道具から、破壊的な効果をもたらす戦争用の兵器など、様々な物がある。
 その能力は未知のものばかりであり、使用者のみならず周囲を巻き込んで破滅的な破壊をもたらす場合もあり、専門家をもってしてもその扱いには慎重を極める必要がある。
 簡単な樹法具であれば現在でも作る事が可能だが、古の時代に樹人が生み出した樹法具は現在では作り出せ無い物ばかりのため、古代の樹法具には破格の値が付けられる。



●反逆者エルディール
 ”源初の樹法使い”プロンミウスの娘であり、源樹を破壊した世界の反逆者。
 樹法使いとして極めて優秀であるだけで無く、初めて”レム”の樹法を生み出し、“ゴーレム”と“エルダーレム”を生み出した最初のゴーレムマスターでもある。
 当時、最強と呼ばれる七騎のエルダーレム“七剣”は、全てエルディールの手によって生み出され、彼女の生み出した”守護神”と呼ばれた七体のゴーレムとともに、ノードス戦争を戦い抜いた。
 エルディールは、ノードス戦争の末期に“七剣”と”守護神”を伴って源樹に向かい、人種にとってかけがえのないものであったこれを破壊し、姿を消した。



●ゴーレム
 かつてノードスとの戦いの最中にエルディールが生み出した人種の決戦兵器。
 多くは巨大な人形の彫像のような姿をしており、鉱物や生物などの素材から組み上げられた躯体と呼ばれる内部構造を、“レム術”と呼ばれる樹法で駆動させている。
 躯体の製造とそれを得意とする樹法の使い手を“ゴーレムマスター”と呼び、躯体を作るゴーレムマスターにより様々な種類のゴーレムが存在する。
 ノードス戦争終結から千五百年ほどを経てその製造数は減っているが、新造のゴーレムの多くは躯体に砂や泥、木材や骨などを使い、鋼鉄の外装をまとわせたもの。
 かつてのノードス戦争時代には、より強力で巨大なゴーレムが製造されていたが、現在その技術は失われており、現存するわずかな当時のゴーレムは大切に保管されている。
 ゴーレムには必ず“ゴーレムコア”と呼ばれる赤く燃える核があり、これにより躯体に樹力を流している。ゴーレムの核はすなわちノードスの核であり、強力な核の入手は困難である。
 通常、ゴーレムキーと呼ばれる鍵を持つ“主人”が一体のゴーレムを操作するが、レムの上位種となるエルダーレムはキーなしで複数のゴーレムを支配下に置き、ゴーレムの軍団を運用する事が出来る。

【黒王女のゴーレム/illust.モリチカシュウト】
 プロタ・リズマの黒王女ヴェステルナが指揮する騎士団が運用するゴーレム。
 開発されたばかりで、呼称も決まっておらず発展途上のゴーレムである。
 躯体は石材を主に使用しており、外装として青銅製の鎧を装備している。
 細かい動きが得意では無い事もあり、武器は鉄製のメイスを装備する事が多い。



●エルダーレム
 エルディールが生み出した特殊な技術。ゴーレムを統括するための上位ゴーレムであり、人造の人種でもある。
 その躯体の製造方法から樹法の定着方法まで、エルディールの失踪とともに、現在ではほぼ失われている。
 最盛期のエルダーレムは一体で百騎を越えるゴーレムの軍団を指揮し、ノードスと戦い人類を守ったとされる。
 一説にはゴーレムコアに該当する“エルダーコア”と呼ばれる核があり、それには肉体を捨てた人種の魂が封じられていると言う。



●ゴーレムコア(ノードスコア)
 ノードスの中心で燃える小さな宝石。レム石、レムネア、とも言われる。
 黒曜石めいて黒ずんだつややかな宝石で、大きさ自体はひとつまみから両手で抱えるほどまで様々。割ると中には赤い炎が燃えている。
 この炎は、ノードスの内部では青く燃えているとされるが、外気に触れると赤く変じるため、確認はできない。



●ゴーレムウェポン
 ゴーレムを人形ではなく武器の形にしたもの。ゴーレムを多数製造できない現在、ノードスに対抗すべく同時多発的に発明された技術で、ゴーレムコアを中心に新式の機械を使った躯体がめぐらされている。
 樹力を流すことで様々な動きをすることができ、形状、性能ともに千差万別。
 使用者本人がゴーレムマスターでない限り、視界内に樹力を操作、操縦するために樹法使いが必要であり、すぐれたゴーレムウェポンだからといって即強力な武器になるわけではない。
 ゴーレムの量産が難しい現在でノードスに対抗するための人種の新たなる牙。



●ノードスハンター
 ノードスを狩る者達の総称。国家から支援を受け、ノードスを狩るために活動している。
 すぐれた戦士や術者から選抜され、人種の安寧のために戦う卓越した戦士たちだが、その生存率は決して高くはない。
 有力なハンターには新式の装備などが優先的に回される。

【呪腕のカアラ】
凄腕のノードスハンターは二つ名で呼ばれる事が多い。
カアラは左腕をノードスの青い炎によって炙られれた事により、ノードスの力を宿した異形を腕を持つようになった。ノードスの炎に炙られた者は全身を青い炎に蝕まれ、自我の無いノードスと成り果てるが、カアラは謎の樹法使いによって命を救われ、今の所ノードス化はしていない。
その異形の腕を見た者は皆、呪われた存在だとカアラを忌み嫌い、故に呪腕の名で呼ばれるようになった。




国 家

●継承国家
 千五百年以上前のノードス戦争において、人種はノードスと戦うために結束し一時的に大帝国が築かれた。
 その帝国が“黒き鋼の帝国フェラー”である。
 稀代の英雄“黒き鋼の”レグ・シャアは、樹力の素養も術も持たない人種だったが、乱立していた国家諸族に働きかけ、ノードスと戦い人種すべての世界を取り戻すために、ついに統一された帝国を生み出たのだ。
 この帝国は“反逆者”エルディールによって源樹が破壊された後も百五十年ほど維持され、レグ・シャアの死によって崩壊。
 彼は後継者を定めず、当初の盟約通りノードス戦争を乗り切った所で、この史上最大の帝国に幕を引いた。
 この帝国の後、各国が手を取り統一の意志のもと活動した記録はない。

 フェラー帝国は各国に統一された単位と暦をもたらした。
 現在、各国が独自の単位や暦を持ちつつも、同時に並行してこの帝国単位と帝国暦を使用しており、ノードスとの戦いが終結した年(エルディールの源樹破壊から4年後)を元年と定めた新帝国歴が、現在の主に利用される暦である。

 新帝国暦154年。帝国はその役目を終えるが、それにともなって各地方には新たな国家群が成立した。
 彼らは自らをフェラー帝国の後継者と自称し、次に皇帝の座につくのは自分であると主張している。
 それが、いわゆる継承国家群である。
 併呑と分裂を繰り返し、新帝国暦1520年現在、五つの継承国家が存在する。



●プロタ・リズマ
 大陸西側に位置するこの国家は、ほんの十年ほど前までは大陸でもっとも強力な覇権国家だった。
 しかし現在、深刻な分裂状態にある。
 先王であるアルヴァルト王が後継者を指名せず死去したため、彼の二人の娘であるヴェステルナ王女とエストリフォ王女の間で王位継承をめぐり争いが発生しているのだ。
 この覇権国家の軍事的・政治的空白に、各国諸族諸勢力が熱い視線を送っている。

【暦:新帝国暦】
 プロタ・リズマはフェラー帝国の正統後継者を自称し、新帝国暦をそのまま使用している。

【国旗:白と黒の百合】
 この百合は“双子百合”と呼ばれ、プロタ・リズマの誇る双子都市ソーンを表している。

【人口】
 人種はほぼすべての国民が人種。鬼人種や小人種は人口の5%に満たない。異人種の多くは、大都市であるソーンに集中している。

【言語:帝国公用語】
 比較的訛りのない純粋な帝国公用語を第一言語としている。

【宗教:源樹信仰(新教)】
 信仰に重きを置く国民は少ない。典礼なども失われつつあり、レゴスメント人から一段下に見られている。

【主要産業:農業、畜産業、鉄鋼】
 比較的冷涼な穀倉地帯が広がり、小麦、大麦、根菜、林檎など果物のほか、ごく最近持ち込まれたジャガイモを栽培している。同時に牧畜も行われている。
 領内に豊富な鉄鉱山をいくつも擁しており、フェラー帝国時代から続く製鉄技術で他国を引き離している。
 輸出品目としては他に、琥珀、スズランなど。

【貨幣単位:タレル】
 主要貨幣は銀貨で、1タレルが銀貨1枚。
 12タレルで1タレント合金貨
 1/12タレルで1リル銅貨
 120タレントで交換される1プリズマ金貨は、庶民はほぼ一生見ることがない。
 プロタ・リズマ王国の責任で発行された貨幣で、名目上は鋳潰して銀や金にして等価ということになっているが、この20年で2回の改鋳が行われ、金銀の含有量は減っている。

【計測単位:帝国標準単位】
 プロタ・リズマでは暦同様に、単位も第四紀の盟約で決められた帝国標準単位を使用している。
 すなわち、100サル=1ミル(1m)=0.001ケルと、1000グリ=1カルグリ

【主な都市:王都プロタ・リズマ、双子都市ソーン】
 もともとプロタ・リズマ自体は双子都市を中心に栄えた国家だったが、新帝国暦890年代、相次ぐノードスの落下が天枝、および地根の配置によるものと解り、現在の王都に遷都した。
 王権の中心として王は王都で権勢を振るうが、地根により大きな樹力があることから、双子都市は重要な拠点として王の息子が治める都市として発展を続けていた。

【政体:世襲君主制(僭主制)】
 レグ・シャアより双子都市を預かったタリズマを祖とする君主制。
 封建制は発生せず、建国時から君主制を続けている。
 現在は先王アルヴァルト王が後継者を定めなかったため、執政官チルボルが治めている。
 アルヴァルト王の二人の娘は、現在双子都市を分割統治し、源樹の“迷宮”エルディカへと挑む準備をしている。

【軍政】
 国王の直下に近衛軍と王国軍があり、王国軍が主力となる。
 加えて領内の豪族がそれぞれに騎士団を擁しており、招集に応じる義務がある。
 現在は国王の代わりに執政官が王国軍の指揮をとり、近衛軍は分割され黒王女と白王女それぞれの配下に入っている。

【歴史・近況】
 ノードス戦争の後、地下に地根を擁する実り豊かな場所に建造された双子都市周辺の統治を任されたフェラー帝国将軍タリズマ王にはじまる。
 統治に才能を発揮した彼は近隣を豊かに発展させ、やがて王の座を贈られ、皇帝の死後その後継者として名乗りを上げた。
 周辺諸族を併呑しながらも拡大路線を続け、豊かな鉄を背景に軍事大国として継承国家群の中でも有力国家となる。
 しかし新帝国暦1510年、武断派であり拡大路線を継承していたアルヴァルト王の最大のミスとして、後継者を定めないまま急死したことで、この軍事大国に危機が訪れることとなる。
 プロタ・リズマはその成り立ちから、双子都市の地根に由来しており、王は代々その迷宮最深部まで行く必要があるが、アルヴァルト王の二人の娘はどちらもその儀式を行ってはいない。
 拡大路線を続けてきたプロタ・リズマにおいても、昨今の航海術の発展に伴い新しい国家戦略が必要であることもあり、王国はこの二人の王女のどちらを次の女王として頂くかで真っ二つに割れている。
 その象徴が双子都市の分割統治であり、黒王女派と白王女派の対立である。
 現在はアルヴァルト王の臣下であった執政官チルボルが執務を代行している。

【人物】
・アルヴァルト王
 武断派で鳴らした猛将。
 西の平原部に勢力を築いていたゴブリン種の部族を滅亡せしめ国土を広げたが、そのためレゴスメントと国境が近づき軋轢を生んでしまった。
 厳しい人物であり、早くに妻を亡くした後は正妻を取らなかった。
 新技術には明るくなく、航海術において若干遅れを許しているものの全体としては名君の部類に入ったが、後継者を定めず死亡した。
 一説には暗殺であるとも言われるが、その首謀者についても諸説ある。

・執政官チルボル
 アルヴァルト王に従った重臣の一人。禿頭で体格のいい初老の男性。
 文官であり、出征で国を留守にしがちな王に変わって内政を担当することが多かった。
 妻子を持たず、その分王の二人の娘をかわいがっており、王の死後一時的にという取り決めで執政官として統治を代行している。
 二人の王女が仲の良かったころを知っているが故に、お互いに争わせることになっていることを悲しんでいる。

・黒王女ヴェステルナ
 アルヴァルト王の上の娘。
 黒髪に切れ長の目を持つ美しい少女。
 王の武闘派な部分を受け継いでおり、剣技、槍、馬術、加えて銃などもよく扱う。騎士団を再編成し、双子都市東側を平定、広大な耕作地を得て、人口拡大の要因を作った。
 真面目な堅物であり、一時も油断することのないその姿は“黒い虎”などと称される。
 彼女を担ぐのは、王国軍部である。

・白王女エストリフォ
 アルヴァルト王の下の娘。
 茶色の髪と柔らかい笑顔の美しい乙女。
 王に似ず穏やかでやさしい性格で、学問をよくし、本人も樹法使いである。
 双子都市西部に、王立学校をつくり、貴族の子弟だけではなく平民までも招いて学問の発展に努めているが、これはエストリフォ自身が学校に入って友達を作りたいと望んだため。
 引っ込み思案な性格で、王位は姉が継ぐべきだと思っているが、状況はそれを許さない。
 彼女を担ぐのは、文官や樹法使いギルド、商人ギルドである。

・補佐官メシュ・メシュ
 白王女エストリフォの補佐官筆頭。
 ある事件でエストリフォに窮地を救われ、彼女を補佐している。
 もともとは教会の樹法使いでありエストリフォの家庭教師でもある研究職だったが、組織運営や政争に類まれな才能を発揮している。
 エストリフォの学校の学長を兼任し、校舎内では彼女をあくまで生徒として扱っている。

・補佐官クリュズ
 黒王女ヴェステルナの補佐官筆頭。
 50歳になり一線を退いているが、ヴェステルナに武芸の手ほどきをした騎士で、現役時代は“鉄壁”クリュズと呼ばれていた。
 ヴェステルナの“じぃ”として、影に日向に彼女を支えている。



●レゴスメント大教国
 フェラー帝国において祭事を司っていた一族を王とする宗教国家。
 レゴスメントとは“レグの掟”を意味し、王は“法王”と呼ばれ、源樹教の最高指導者を兼任する。
 祭事の式典などの古典知識を多くのこしており、諸国からこれを学ぶために多くの留学生がこの国を訪れる。
 樹法研究も本場と言ってもいいほど盛んだが、基本的にこの国で樹法を学ぶことができるのは聖職者のみである。



●エードローエ
 南方に位置するエードローエは南方諸島との交易、そしてそれを大陸に供給することで莫大な利益を得ている商業国家。
 どの国にも人種はさまざまに住んでいるが、エードローエはまさに人種の坩堝と言えるだろう。
 それゆえに衝突や軋轢、陰謀の種に事欠かない。火種はあちこちにあり、それを抑えて一つにまとめるものはたったひとつ。
 金である。



●オルオラ
 北のオルオラは一年の大部分を雪に閉ざされている。
 とは言え強力な地根により、首都オルオラにおいては食料生産や生活にそれほどの支障はない。少なくとも、オルオラで生まれ、オルオラで死ぬぶんには。
 地根の影響下を離れれば、そこには厳しい自然が待ち構えている。
 他の地域よりも巨大に成長した生物群はもとより、オルオラにあえてまつろわぬ民もまた、脅威として存在しているのだ。



●ドットレム選王国
 この比較的力の弱い国家は、珍しい選王制国家である。
 七つの選王家から十年おきに国王を投票によって選ぶ制度で、投票権は男爵以上の全ての貴族が保持してる。
 投票権は個人でなく家に与えられており、再選を目指す王は全ての領土に富を行き渡らせる必要があるため、結果としてこの制度は国民の利益にかなっていると言えるだろう。
 いわゆる大規模な内乱も、この国では現在のところ発生していない。
 反面統一した意志を持ちにくいため、軍事的、領土的な拡大戦争は難しい。



●南方諸島
 南方諸島は獣人種のルーツである。
 豊かな海と暖かな気候から、大きな戦争にも巻き込まれずに各島ごとに独自の文化を育てている。



●東方異族
 東の未探査領域には、既知文明とは異なる風土を持つ文化が広がっている。
 東方異族はノードスとの戦争時に調印したが、戦いの半ばで離脱し、その後長く歴史に現れていなかった。
 鬼人種はこの東方をルーツとする人種で、東方での勢力争いに負けて大陸に移り住んだのが、現在継承国家群で見られる鬼人種のはじまりとされる。
 外洋航路の発見により、この謎の多い東方異族の文化が詳らかにされるのも、そう遠い未来ではないだろう。



●名所・難所
 クリファにはさまざまに奇妙で危険であったり、あるいは美しく魅力的な場所が存在する。
 源樹のしろしめす大地では、何が起こっても不思議はない。

【殲滅灰燼都市サレイムス】
 古の時代、サイレムと呼ばれる王国があった。
 独自の樹法により人形兵と呼ばれるゴーレムを生み出し、周辺諸国を圧倒する軍事力を有していたが、空から落ちて来た巨大な蜘蛛の姿を持つ堕天のノードスにより、一夜にして滅びたとされている。その廃墟には今も堕天のノードスと、主を失った人形兵が眠ると言われている。

【イェツェル海峡】
 レゴスメント領内にある、“凪の海”と“獣の海”を繋ぐ海峡。
 かつてはこの二つの海は繋がっていなかったが、遥か昔、“反逆者”エルディールが“イェルツェル”と名付けられたゴーレムによって大地をうがち、この海峡を開通させた。
 これにより、今のエードローエへの海路を得たフェラー帝国は、獣人種の協力を得てノードスと戦うことができたとされる。
 海峡を通る船は、もはや動かない“イェルツェル”が跪いているのを見ることができるだろう。

【源樹のかいな】
 オルオラ領内から北東に進むと、険しい山脈がちょうど円形に、今は砕けた源樹の幹を囲うように広がっている。
 山脈にはあちこちに源樹の根が露出し、荒涼たる風景の中を物言わぬノードスたちが静かに愚かな旅人を待っている。
 この場所での樹法には、常に暴発とノードスを惹きつける危険が伴う。しかし同時に、濃厚な樹力によって強化もされるため、樹法具職人や難病の患者を抱えた治療術師などが、この危険な旅を志す。
 
【竜骨山脈】
 ドットレムの東、エードローエの“竜の海”の湾から“源樹のかいな”まで真直ぐ北に貫くように、険しく切り立った山脈が連なっている。
 この遠目には美しくさえ見える山々は、かつてあった二つの大陸が今の一つの大陸になった証拠であるという学者もいるが、いずれにせよこの山脈が継承国家群と東方との連絡を遮っていることには違いない。
 険しいだけではなく、この連峰は竜種の住処となっているのだ。

【水上獣人都市 パラトゥ】
 南方諸島の珊瑚礁に作られた獣人種の都市。海抜が低く満潮時には地面がほぼ水没するため、すべての建物は高床式で、橋やロープを渡された建物の間を住人である獣人種たちが悠々と闊歩している。
 彼らほどの身軽さのない旅人たちが落下して溺れかかるのは日常茶飯事。



●未探査領域
 フェラー帝国から派生した継承国家群は、実のところ世界のすべてを網羅してはいない。
 帝国は人種の統一国家として、大陸北西部を中心に有史上もっとも広大な地域を支配したが、それでもクリファ全体にとっては一部に過ぎず、世界にはいまだ多くの、(フェラー帝国の文明圏にとって)未探査地域が残されている。

【永久氷壁】
 オルオラの人種生存圏のさらに北に、決して解けない氷の世界がある。現地の案内人を伴おうにも、永久氷壁を越える旅に同行する者はいない。
 氷の絶壁を越えたとしても、待っているのは沈まない太陽、あるいは明けない夜と視界すらない吹雪。恐るべき飢えた獣たちである。
 そこにはかつてオルオラの軍が挑み、そして全滅したという記録だけが残っている。

【未踏砂漠】
 “凪の海”を越えてレゴスメント南部を通りさらにその南に進むと、そこには砂と岩の砂漠が広がっている。
 昼の熱波と夜の寒波。吹き荒れる砂嵐によって地形は一日と同じ形を保たず、源樹の力の枯渇したこの地では、樹法を使うことすら難しいとされる。
 砂漠の向こうには密林と黄金の王国があるともいわれているが、真実は定かではない。

【黒電の海】
 南方諸島のさらに南に、外洋帆船すら拒む海がある。
 そこでは東から西へ流れる海流と西から東に流れる海流がすれ違っており、常に雷を伴う暴風が荒れ狂う。
 その南には別の大陸があるとも言われるが、この海を通り抜けた者はいない。

【東方】
 大陸の東方と継承国家群は文化的交流を持っていない。東方に至るには竜骨山脈を越えるかエードローエの西方の危険な荒野と砂漠を抜ける必要があるため、絹などの東方からの渡来品は命知らずの冒険商人がもたらすのみである。
 そこでは文字や紋様を使った特殊な樹法が発展し、気高い異国の戦士たち、奇妙な怪物たちが闊歩しているという。




住 人

 クリファに住む人々の“なりわい”や、その人生はさまざまである。
 神秘の存在である源樹のしろしめす世界であっても、あらゆる生き物は食べねばならず眠らねばならず、そして死なねばならない。
 彼らの多くは農業や漁業などの食糧生産に従事しているか道具や衣類の加工を行う職人であるが、人の集まる都市部においてはさらに多様化する。
 兵士、司祭、墓守、鋳掛屋、鍛冶屋、学者、代筆屋、船乗り、仲買人、料理人、ねずみ捕り、水売り、医者、伝令、代理剣士、道化、絵師、狩人、瓦版売り……。
 そして遺跡を狙い魔獣や蛮人種と戦う冒険者たち。
 
 百人いればそこには百通りの人生、すなわち物語がある。
 人々はこの神秘と不思議に満ちた危険な世界の中で、生まれ、食べ、眠り、育て、そしてそれぞれの物語を終えてゆくのだ。
 ここでは彼ら多様な“なりわい”のうち、いくつかを紹介する。



●戦士/ファイター
 この世界において戦士は様々な場所で出会うことができる。
 例えば兵士や酒場の用心棒、アリーナで戦う剣闘士、もちろん“迷宮”エルディカに挑む冒険者……。
 どんな装備を選ぶかは個人の好みによるだろうが、いずれにせよ彼らは、実用的な鎧を身に着け得意な武器に命を預ける、暴力の専門家である。
 彼らの戦いの技術が無駄になることはめったにない。双子都市を含むこの世界は、恐るべき人種の敵に事欠かない。
 そして牙を持たぬ人々は、彼らの剣の助けを求めているのだ。




●騎士/ナイト
 いささか時代遅れになりつつある騎士は、主に正規兵の中に見られる兵科であり、地位でもある。
 騎士甲冑を身にまとい、装甲を施した馬に跨って槍を抱えて突撃する、勇壮華麗な古式ゆかしい勇者たちであり、その一方で詩や学問などを嗜む文化の担い手という側面もある。
 かつて戦場の花形として人々を守り戦った騎士たちは、その騎士道精神において、現在でも人々のあこがれであり続けている。



●騎兵/キャバルリー
 伝令、あるいは胸甲騎兵など、迅速性を必要とする戦場で活躍するのが騎兵たちであり、彼らは高価な装備を与えられるエリート兵でもある。
 動きやすい騎兵の胸甲は重要な臓器を守る最低限の装甲であり、彼らは手槍と剣、そして黒色火薬銃を訓練する。
 騎士のような精神性を持たない彼らは、ただ戦いのために戦場を駆け抜ける新たなる戦争の犬たちだ。




●野伏/レンジャー
 森に紛れるような服装を好み、都市部よりも山や森で活躍する静かなる戦士たち。狩人、偵察兵、まつろわぬ部族の戦士たちなどが、野伏として活躍する。
 静粛性を好み弓や弩を利用する者が多く、手斧や山刀などの扱いにも長けている。しかし彼らが最も得意とするのは、過酷な自然環境下での生存技能である。
 彼らは単純な戦士ではなく、野外活動の専門家なのだ。



●銃士/スワッシュバックラー
 野伏が野外の専門家なら、銃士は都市の専門家と言える。
 ごく軽装で、決闘で使うような細身の剣を華麗に操り、短いピストルや長銃身のマスケット銃を使う彼らは、代理剣士や用心棒でなど、双子都市でもあちこちで見ることができる。
 剣を取っての戦いのみならず交渉事やはったりにも長けた都市派の戦士たちである。



●武闘家/モンク
 単に素手での戦いを得意とする戦士ではなく、素手、あるいは杖などの一風変わった武術を修めた戦士たち。
 こうした流派は世界にいくつもあるが、きちんと師についてこれを修めた者を見ることは、そう多くはない。
 多くの場合、彼らは修めた武術をそうそうひけらかしたりしないものだからである。



●弓使い/アーチャー
 火薬による銃器の発明後も、弓は軍事的に重要な位置を占めている。破壊の樹法にせよ火器にせよ、熟練した弓使いの命中精度と射程距離には及ばない。
 また静粛性に優れる弓は、野伏や狩人に好まれている。しかし射程に優れる長弓や、馬上で引く騎射の修得には才能と努力を必要とするため、これらを専門とする戦士は特に“弓使い”と呼ばれる。
 彼らの中には手では引けないような重い石弓を使うものもいる。



●ゴーレムマスター
 ゴーレムに関する術を専門的に扱う樹法使いの一派で、“レム使い”とも呼ばれる。軍に雇われている場合もある専門的な術派の樹法使い。
 一般的な樹法を使うこともできるが、もっぱらゴーレムの躯体を作成し、それを操ることを得意としている。広範な知識と繊細な感覚が必要とされ、職人的な側面が強い。
 個人でゴーレムを所持していることも少なくなく、新進気鋭の樹法を使いである彼らは、新たなアイデアを盛り込む機会を常にうかがっている。




●調毒士/ポイズンテイマー
 毒、という言葉が入っているが、その実際は薬品の専門家である。医者としての側面を持ち、病院などで見かけることも多い。
 薬草や鉱物を使ってさまざまな薬品を製造し、それを安全に利用する方法を持ち、そしてそれを活用する職人たちである。
 彼らの中には、貴重な材料を求めて、あるいは新しい薬品を試すために冒険に同行する者も少なくない。




●樹法使い/メイジ
 樹力を操り現実を改変する樹術は、誰にでも扱えるものではない。才能に恵まれたものが、厳しい修行と研究の先に手に入れる神秘の力なのだ。
 樹法使いに入門するには、まず自分のまことの名前を見つける必要がある。これは生まれながらに決まっており、それを樹言の膨大な発音から総当りで探して行く。これにめぐりあえるかどうかが、まず才能であるとされる。
 源樹の地脈(根)に近い場所ほど強力な樹術を行使することができる。都市部ではあちこちで彼らがその樹法を使って生活に貢献している姿を見ることができるだろう。




●治癒術士/ヒーラー
 樹法の中でも特にレムの術と並んで専門性が高い、人体を操作する術を得意とする樹法使いの一派。
 樹法だけではなく、人体の構造についても詳細に把握している必要があるため、樹法なしでも怪我や病を診ることができる。
 治癒の術の本場は源樹教会であり、彼らはしばしば聖職者でもある。




●錬金術師/アルケミスト
 樹力に頼らない物質を生成・加工する職人であり、またすべからく熱心な学者でもある。
 卑金属から貴金属をこしらえるのがその学問の究極ではあるが、たとえば火薬や、蒸気による回転など、その途中でなされたさまざまな発見は人々の生活を向上させてきた。
 まことの名とめぐりあう幸運と才能が必要な樹法と異なり、彼らはあるいはあらたなる時代の原動力となるかもしれない。



●料理人/コック
 おいしい料理は、いついかなる時にも喜ばれる。
 彼らは、手に入る食材の魅力を何倍にも高める専門家であり、軍隊にも必ず数人が同行している。
 もし同行者に料理人が一人でも入れば、味気ない冒険の旅の道中は、たちまち魅力的で豊かなものになるだろう!



●お菓子職人/パティシエ
 料理人の中でも、日々に必須である食事ではなく嗜好品に分類されるお菓子をこしらえる者は、いわゆるお菓子職人と呼ばれる。
 プロタ・リズマにはこれまでごく素朴なお菓子しかなかったが、近年オルオラやレゴスメントからお菓子やお茶文化が渡来し、職人たちも技を競っている。
 近年その進歩は素晴らしく、新たな素材や美しい飾りを生み出すために錬金術や樹法を応用する者も現れ始めた。



●鍛冶師/スミス
 主に金属を加工し生活用品から武器、鎧までを作り上げるのがこの鍛冶師たちだ。得意な分野によって、刀鍛冶、鎧鍛冶、鉄砲鍛冶などさまざまに呼ばれる。
 彼らのほとんどは自分で鉱石を品定めし、こだわる職人となると採掘にまで出かけていく。そして鎚の一振りと飛び散る火花に己の魂をかけるのだ。特に鬼人種たちはすぐれた冶金術を伝えており、独自の方法で鉄を鍛えているという。
 鍛冶師の扱う金属の中には、樹力を遮断する“冷たい鉄”や伝導する“まことの銀”なども含まれ、ゴーレムマスターや樹法具技師と協力することもある。

【東方の技術】
 東方から伝わった技術には驚くべき物が幾つか存在するが、その中でも刀剣を鍛造する技術「刀鍛冶」が特に知られている。
 砂鉄を幾層にも重ねて鍛造し、性質の違う鉄を組み合わせる特殊な技術で作り出された武器は、岩や鉄すらもやすやすと斬り裂くと言われている。



●樹石職人/ジュエラー
 輝く宝石は、見て美しいだけではなく、しばしば強い力を秘めている。
 中でもノードスコアや小人種の額の石、竜の黒硝子、地根の壁材の中で結晶化したものなど、総称して“樹石”と呼ばれる結晶体は強い樹力を持っており、樹石職人はそれらに繊細なカットをほどこすことによってより引き出し、あるいは方向づけることができる。
 彼らはゴーレムマスターや樹法具作成者と協力し躯体の作成などに携わることもあるが、樹石は極めて僅少な存在であるため、普段はルビーやサファイアなどの宝石で細工物を作っていることが多い。
 樹力の有無を問わず、世にある輝石のほとんどは、時に剣呑な事件の発端となるのは言うまでもないことだろう。



●木工職人/カーペンター
 切り出した木材を加工し、家具、細工物、あるいは住居や構造物をこしらえる職人。専門が多様であるため、多くの場合何か得意とする分野を持つ。例えば家具職人や船大工、などといった具合。
 双子都市近辺には、松、カツラ、ミズナラなどの森があり、彼らはそこから木を伐り出し、また植林も行う。 森の中は危険でもあるため、彼らはしばしば武装する。
 彼らは樹木の特性を知り、それに合わせて、まさに適材適所にさまざまな品物を作り出すのだ。



●革細工師/レザークラフトマン
 動物の革や毛皮をなめし、それらを使って衣類やカバン、靴などを作り出す職人たち。
 扱う革や作る品物は職人によりさまざまで、中には魔獣の革から独特の装備品を作り出すことを専門としたものもおり、彼らはしばしば加工に使うために(才能に恵まれれば)樹法や錬金術を学ぶ。
 魔獣の革や骨から素材の特性を生かして作られた防具や武器は、兵士よりも怪物と戦う戦士たちに人気がある。



●農夫/ファーマー
 双子都市周辺では、主に麦、かぼちゃ、りんご、玉ねぎ、じゃがいも、根菜類、豆類が多く栽培されている。それらを手塩にかけて育てているのは、人口の大部分を占める農夫たちだ。
 農夫は農場を支配する地主に土地を借りて働く小作農がほとんどで、彼らはエルディカからの樹力を受けて豊かに実る作物を協力して双子都市に供給している。
 都市部から離れる場合もあるため、盗賊や怪物からの自営のために用心棒を雇ったり、自らが武装している場合も多い。



●牧夫
 双子都市近辺の農場では牛や豚、鶏などが育てられているが、それよりも広い放牧を必要とする羊や山羊、馬などを管理するのが彼ら牧夫である。
 家畜を囲わず、犬や馬で追いながら牧草地を移動する彼らは、しばしば新しい遺跡や怪物の住処を発見し、そうした時には冒険者などに助けを求めることも。
 畜産の本場はドットレムであり、双子都市近辺では、放牧文化のある移住者が少数行っている。



●漁師/フィッシャーマン
 双子都市は海を擁しており、そこで働く漁師も少なくない。
 彼らの多くは市内ではなく街外れの漁村に住んでおり、近海の漁場では鱈、鰊、鱸、カレイ、あんこう、イカや貝類、エビやカニなどを季節に合わせて網や仕掛けで水揚げして双子都市に持ち込んでいる。
 一度海に出るとしばらく戻らない場合もあるが、多くはごく近海で稼いでいる。中には市内のエルディソン川河口でボラやハゼなどを釣ってそのまま市場に持ち込む者もいる。



●鉱夫/マイナー
 プロタ・リズマの特産品である鉄や錫、銅などの金属および宝石を掘り出す職人たち。
 数百年掘り続けられた迷路のような坑道をさらなる金属をもとめてさらに拡張し続けている彼らは、しばしば源樹の地脈や地根、ガス溜まり、コボルドなどの住処と遭遇することがある。
 双子都市近辺にも鉱山は豊富で、手っ取り早くまとまった金を稼ぐためだったり罪人の懲役としてだったりと鉱夫の前歴はさまざま。
 中には硬い岩盤を砕く樹法使いや火薬を扱う錬金術師もおり、彼らは危険の代わりに高い報酬を得ている。



●芸術家/アーティスト
 装飾品、調度品などの中でも芸術性の高いものを扱う孤高の職人が、芸術家である。
 彼らは創意工夫を凝らしたイヤリングや二つと無い彫刻、己の魂を絵筆に乗せた絵画などといった世界にただ一つの輝けるほんものを求め続け、時として着想や資料を求めて危険な未開の地へも出かけていく。
 芸術家とは、創り出した作品で世界を揺らすことのできる戦士でもあるのだ。



●作家/ライター
 紙の普及により、楽しみとしての文筆は庶民にとってもおおいに身近なものとなった。
 作家は、詩や戯曲、小説のほか、瓦版などの文筆全般をその生業とし、それまでは貴族や上流階級のためのものだった楽しみのために読むという行為を、あらゆる階級に広めようとしている。
 彼らはしばしば題材や着想を求めて危険な事件に首を突っ込み、それを記して名声を得ようとする。



●盗賊/ローグ
 都市の裏事情に詳しい、非合法、あるいは半合法活動を得意とする専門家で、得意とする犯罪行為は者によってさまざまである。
 たとえば詐欺だったり、スリだったり、押し込み強盗だったり。
 彼らの多くは“裏町”に出入りしている犯罪者だが、鍵開けや忍び足の技は迷宮探索に欠かせないものでもあり、犯罪から足を洗って冒険者となっている者も少なくない。



●オーリエル学院生
 白王女エストリフォによって開設されたオーリエル学院では、常に学問を志す若者を募集している。
 年齢は問われず、一定の基礎学力を備えていれば誰でもこの学院の門を叩くことができるが、入学が許されるかは別の問題だ。入試は教師陣との口頭による質疑応答で行われ、その基準は良くも悪くも柔軟。
 学生には制服と儀礼用の剣が与えられ、着用を許される。オーリエル学院生にとって制服は誇りであり、彼らはそれぞれ自分に合った改造をほどこし、楽しんでいる。
 学ぶカリキュラムは基礎教養のほか、樹法や算術、天測、古典歴史、戦術、個人武術などさまざまで、学生は教師の指導の下、自分が目指す道に必要な(あるいはあまり必要のない)学問を履修することになる。
 彼らの多くは寮に住むが、立派な白大理石の女子寮に比して男子寮はひどくおんぼろ。



●学院教師
 新設のオーリエル学院に招聘された教師たちは、みな“ちび宰相”メシュ・メシュが選んだ有能の士である。
 彼らはそれぞれ専門分野において優れた能力を発揮した研究者であったり、古強者であったり、術者であったり、武道家であったりするが、いずれ劣らぬ曲者ぞろいであり、白王女を担ぐ文官たちには必ずしも歓迎されていない。
 オーリエル学院教師は大きな自由と権限を与えられている。しかしながら彼らの多くは、次代のプロタ・リズマを背負って立つ人材を育成するという使命に(今のところ)熱中しているようだ。
 良い教育のためには優れた教師が不可欠であり、彼らはそれぞれ独自の教育方針と観察眼で、学生たちを教え導いてゆくのである。



●樹法研究員
 樹法の誕生は第三紀にまで遡る。“源初の樹法使い”プロンミウスが発見したこの神秘の技術は、ノードス戦争を経てその多くが失われ、また源樹の破壊によって、現在はプロンミウスの時代ほどの力は残されていない。
 とはいえ樹法は現在に至っても重要な技術であり、双子都市ソーンでも浄水処理などに樹法使いが従事するほか、もちろん軍事目的でも活用されている。
 樹法研究員は、王立樹法研究院においてそうした新しい(あるいは古い)樹法の使い方や樹法具の開発、研究を主に行う樹法使いたちである。
 彼らはそれぞれの研究テーマを持ち、日々自由に研究を進めている。それが役に立つかどうかは、彼らにとっては問題ではない。



●メイド/メイド
 貴族や裕福な上流階級の家において、家事などに従事する(主に)女性が、いわゆるメイドである。彼女らは主人に奉仕し、屋敷内を中心としたさまざまな仕事を執り行う。
 主人とその家族の身の回りの世話の他子守りなども担当することもあり、奉仕する主人によっては家族同然の扱いを受けることもある。ティータイム専門などの専門家した役割を与えられる場合もあり、彼女らの仕事は、奉仕対象である主人によってさまざま。メイドの素養によっては護衛すら任されることがあるという。
 ある程度裕福な商人や貴族はこうしたメイドを雇うことがステータスになっており、家ごとに工夫をこらしたメイド服を用意することは、ソーンの上流階級にとってはもはや常識である。



●執事/バトラー
 上流階級の屋敷に執事は欠かせない存在である。伝統ある名家の大きな屋敷ともなると、その維持管理は彼らなしでは回らないほどに複雑化するものなのだ。
 彼らは主人に代わって、使用人の採用や監督を含む家の中の一切の雑務を取り仕切り、また手紙を仕分けしたり主人のスケジュール管理などの秘書的な役割をもこなす。
 執事(あるいは家令)は主人に奉仕し、主人が日々や仕事の時間を円滑に、気持ちよく過ごせるようにできることをすべて行うのが仕事であり、そこには主人に求められるあらゆる業務が含まれる。
 彼らは時に何代にも渡ってその家に仕え、時として若き主人の親や祖父同然となる。



●船乗り/セイラー
 海を進むためには様々な技術が必要であり、船乗りたちはその専門家である。
 外洋に出ると彼らは陸地を見ることも出来ず、天枝や太陽の位置、海流、風向きを頼りに、目的の港(あるいはそこは誰も見たことのない場所かもしれない!)を目指し、船を進める。
 船乗りの仕事は多岐にわたり、風に働きかける樹法を修めた樹法使いや、海獣や海賊と戦う戦士などが、まるで一つの家族であるかのように船に乗り組むのだ。
 万里の波濤を越えて行くのは、遥かな異国かまだ見ぬ島々か。



●商人/マーチャント
 双子都市で生活するには、多かれ少なかれ彼らの力を借りねばならない。彼ら商人は、流通するさまざまな品物を管理し、適切な場所から適切な場所へ移動させて利益を得ている。
 商人の中には、商品を抱えて遠く半年以上もかけて旅をする者すらおり、その途中で山賊や怪物と出くわすことも少なくない。
 いずれにせよ、彼らの商魂と冒険心は、確実に世界を広げているのだ。

【武装旅団】
 国と国を繋ぐのは古の時代から使われている街道と海路である。源樹の根である地根の上をたどるように作られており、まれに地根の樹力に引き寄せられてノードスが現れることがあるため、旅をする人達は武装旅団と呼ばれるキャラバンとともに移動するのが基本となっている。



●学者/セイジ
 古今の文献を研究し、世界をあまねく知恵の光で照らし出そうとするのが、彼ら学者たちだ。樹法使いや錬金術師を兼ねている者も少なくない。
 天枝の運行から気象の周期を見つけ出そうとしたり、はるか古代に滅びた文明を探し出そうとしたり、まったく新しいエネルギーを発見しようとしたり、彼らの知識欲は果てしない。
 冒険心に富んだ学者は、護衛とともに危険極まりない“迷宮”エルディカに乗り込みさえするだろう!



●聖職者/アコライト
 偉大なる源樹のもとにあらゆる生きとし生ける種は平等である。種の祖である源樹は、(さまざまな信仰の仕方はあるものの)今も人々の心の支えである。
 教会の本山はレゴスメント大教国であり、双子都市ソーンにおいて教会の権力はそう強いものではないが、しかし教会とそれに仕える聖職者たちは、庶民の尊敬を集めている。
 彼らはその多くが学者や樹法使い、治癒術師や調毒師を兼ね、教会は施療院や学校としての役割も果たすことが多い。



●芸人/エンターテイナー
 祭りや休日の広場、あるいは酒場には彼らは欠かせない。
 話術や音楽、軽業、手品など、単純に人を楽しませることを目的とする彼らは、酒場や貴族のパーティに招かれて芸を披露するほか、劇団や巡業団を組織して地方を回ることもある。
 彼らの芸人としての技術は、もちろん魅せるだけにとどまらない。話術は交渉事やはったりに、視線誘導を戦いに応用すれば高度なフェイントに。そして軽業師は優秀な盗賊となるだろう。



●墓守/アンダーテイカー
 夜は恐怖の時間である。それはいつの時代、どこの世界でも変わらない。ましてそこが、死者たちの眠る墓場であるなら。
 源樹教において、死者の多くは土葬される。死んだ肉体は分解され源樹に戻っていくとされるが、時として樹力の影響で、あるいは邪悪な樹法使いによって死体が動き出すことがある。
 可能な限りそうならないよう適切に処理し、墓穴を掘り、また万一動き出したときに対処するのも墓守の仕事なのだ。
 深夜に墓場をランタンを持ち大きな刃物を携えて見回る墓守は、必要とされる一方、不穏の象徴として恐れられることもある。

【死者の埋葬】
 源樹教において、死者は土葬される。樹力が強い場所などではまれに死者にかりそめの命が吹き込まれ動き出すことがあるため、これを避けるために適切に処理する必要がある。
 時間があれば、死者の喉に“墓鉄”と呼ばれる特殊な金属(多くの場合聖職者によって聖別される)の塊を落とすことで、死者が起き上がることを防ぐことができるとされる。
 もっと手っ取り早い処理は、首を落とすことである。



●剣闘士/グラディエーター
 主に“魅せる”ために戦う戦士たちが、剣闘士たちである。
 彼らは催しや見世物の巡業団として各地で戦いを披露するが、しかしそれはあくまで命がけの本物の戦いであり、悪意ある兵士たちが言うようなおままごとの戦いではない。刃のある武器で戦う本物の戦士なのだ。
 剣による剣闘だけではなく騎槍試合や拳による格闘、樹法合戦などのほか、パトロン貴族による決闘の代理戦士として駆り出されることもある。
 勝てば破格の栄光を手に入れることができるが、勝ち続けることは簡単ではない。華やかな勝利の影には、常に敗者も存在するのである。



●用心棒/バウンサー
 戦いを生業とする戦士にとって、戦場を離れたときの食い扶持は悩みの種である。と、同時に、平時でもいざというときの護衛や示威のために戦士を求める者も多い。
 彼ら用心棒は酒場や農場、商人や有力者に雇われ、その警護を行う。
 特に旅する商人を含む武装旅団は、蛮人種や盗賊、はてはノードスに襲われることもあるため、常に用心棒を求めている。
 彼らはしばしばおおげさな武器や鎧、派手な樹法を見せつけ、雇い主に自分の強さをアピールする。



●吟遊詩人/トラバドール
 各地を回り事件、伝説、伝承、音楽を持ち帰る彼らは、双子都市に完全に定住することはない。地方都市や村、集落などを旅し、情報を集め、整理し、歌という形で伝える彼らは、いわば情報屋としての側面を持つ。
 紙の値段が下がり文字として伝えることが容易になった現在、彼らの情報伝達者としての価値は下がることになったが、楽器弾きや歌い手として巡業団や武装旅団に同行することがある。
 彼らの中には樹法使いとしての訓練を積んだ者もおり、そうした者は歌うように、あるいは歌として樹文を唱える。





人 種

 クリファには多様な生物種が存在する。
 吠えたてる動物種、物言わぬ昆虫種、海や川に住む魚類種や貝種、空に繁栄の場を求めた鳥類種、悪夢から現れたかのような魔獣種、孤高にして謎多き竜種……。
 そして現在、クリファの霊長として道具を利用できる両手と、会話する言語を持ち、交流する文化を持つ種が、“人種”である。
 彼らは自らの生存域を広げる強い衝動と創造性を持ち、あらゆるものを利用する狡猾さもまた持ち合わせていた。
 第二紀において樹法を獲得したのち人種は変化と混血を繰り返しながらクリファに広がり、ノードス戦争においてはあらゆる種の天敵であるノードスと戦い、とりあえずという注釈付きとは言えこれに勝利を収めている。
 人種の持つ飽くなき探求心と冒険心は現在においても衰えることはなく、樹力に頼らない様々な技術をもって、再び世界に乗り出そうとしているのだ。

【蛮人種】
 人種の中でも、ノードス戦争において戦った統一国家フェラー帝国に参加せず他人種と戦う道を選んだ人種を、フェラー帝国文化圏において“蛮人種”と呼ぶ。
 彼らの多くは好戦的で排他的であり、広人種の皇帝であるレグ・シャアに従うことをよしとしなかった。
 ゴブリン種やオーガ種、ジン種、コボルド種などで、彼らは種族単位で国家規模の集団になることはなく、徒党を組んで人種の町や村を襲うことがある。



●広人種
 世界のあちこちで最も数多く栄えている人種。
 比較的短命(寿命はほぼ六十から七十年)であり、それゆえに強い探究心と野心を持つ。
 髪の色、肌の色は出身地域によりさまざまだが、ノードス戦争以後千五百年の間に移住と混血が進み、現在では容姿から出身地域を推察することは難しい。
 広い国家を構築し、維持する意志を持ち、またそれを常に拡大し続ける欲求を抑えることができない。
 かつては樹力に親和性の強い人種だったが、樹力を操る才能を持つものは年々減っており、変わって新たな技術を次々と発見している。

【古代人種】
“反逆者”エルディールによって源樹が破壊される以前の人種は、人種を問わず現在の同様の人種よりもはるかに長命で、また肉体的にも強力な種族だったとされる。
源樹が破壊され樹力の衰えた世界で彼らは長い寿命と強靭な肉体を失ったが、環境の変化に対応し自らの領域を広げてゆく飽くなき創造性はむしろ強まっていると言える。



●獣人種
 南方諸島をルーツとする人種。
 人と獣の両方の特性を持ち、どの獣の性質を持って生まれるかは“源樹の思し召し”と言われ、生まれるまではまったくわからない。たとえば虎の特性を持つ両親から猿の特性を持つ子が生まれることもそう珍しくはないのである。
 優れた身体能力と感覚器官を備え、特に鋭い味覚は、料理人や調毒師に向いた性質となる。
 体格、寿命ともに獣の特性によってかなりのばらつきがあるため、平均を取るのが極めて難しい。そのため、個人主義的な傾向の精神性を持つ。
 その出身から海に親しむ場合が多く、双子都市には船乗りとしてやってきて、その後定住したという経歴を持つものが多い。
 元来陽気な種族であり、独自の南方風楽器、踊りなどに親しんでいる。

【鱗人種の噂】
獣人種たちがどの動物の影響を受けるかが“源樹の思し召し”であることは、彼らが元来開放的な種族であり、長い交流と混血の歴史によってすべての獣人種がほぼすべての因子を抱えていることによる。
しかし、未踏砂漠の先に、蛇と蜥蜴に近しい人種がいると噂されている。彼らは純血主義で血統に誇りと名誉を見出し、鉄を持たずガラスと石と黄金を武器とし、源樹ではなく太陽を崇めているという。



●小人種
 コピ族、などと呼ばれる。大人でも広人種の半分ほどの身長にしかならず、子供のように見られがちだが、立派な人種の一員である。
 寿命は百年から百五十年ほど。
 種族としての明確な拠点を持たず、その発生は謎のままである。
 基本的には定住せず、数家族単位のキャラバンを仕立てて人種の街を行き来する移動生活を送っている。
 最大の特徴は、生まれながらに額に持っている石。
 わずかに透き通った光沢を持つそれは、彼らの脳に直結しており、生まれながらに一種類の樹法に似た能力を備えている。
 倫理観に乏しい種族であり、他の人種の街でしばしば悪意なく問題を引き起こす。

【小人種の“いたずら”】
 小人種は生まれながらに額の石を通して周囲の樹力に働きかける一種類の能力を持っている。
 これは思春期までに目覚め、多くの場合一生変わることは無い。多くは「手を触れずにものを動かす」能力だったり「小さな幻を作り出す」能力だったり、「周囲の様子を見ずに知覚する」能力だったりと、ごくささやかなものであるが、彼らはこの能力を楽しんで、あるいは狡猾に利用する。



●鬼人種
 東方の未踏破領域にルーツを持つと言われる謎多き人種。
 身長は広人種よりもやや小柄で華奢。額や側頭部などに一本から数本の角を持つ。
 彼らを特徴づけるのは、その特異な文化である。
 彼らは生まれたときに仮面を作り、それを(大きさを手直しすることはあっても)基本的に生涯外すことはない。仮面は心を許した夫婦が寝室でのみ外すことを許され、兄弟であっても顔を知らないことは珍しくない。
 そのため個人識別には入れ墨を利用する。
 彼らは生来樹力的な素養を持っており、それらを制御するために歳を重ねるごと、入れ墨を施す文化がある。この入れ墨は単なる装飾ではなく樹術的な効果を持っており、それにより彼らは細身に似合わない膂力などを得る。
 また、秘伝として優れた冶金術を伝えており、砂鉄の採掘できる川べりや鉱山などに部族単位で生活している。

【長垂菊の里】
 独自の文化を守る鬼人種は他人種の文化圏にあっても同種族でまとまったコミュニティを形成する場合が多い。
 この“長垂菊(ながたれぎく)の里”もその一つで、源樹の地脈を受けて双子都市から南東の山脈に数十人からなる村を作り、他種族とゆるやかに交流しつつ平和に生活していた。
 ある時、堕天のノードスがこの“長垂菊の里”に落下するまでは。



●多様化する人種
 このクリファで人種たちが把握している領域は決して全てではない。鬼人種のルーツとされる東方にはいまだ未探査領域が広がり、南方諸島の海の向こうには新大陸が噂されている。オルオラのさらに北方、雪と氷で閉ざされた永久氷壁の先は、生きて帰ったものはいない。
 そこには全く未知の種族が独自の文明を築いているかもしれない。あるいははるか昔に既知領域を去った忘れられた人々が発展しているかもしれない。
 源樹の破壊によって衰え混乱した樹力が、交流による変化が、まったく新たな種族を生み出すこともあるだろう。
 現在、双子都市ソーンをはじめとする各地各国は、発見と進出の時代を迎えている。
 未知の種族たちが友となるのか、敵となるのか。それは誰にも分からない。