東側 黒王女ヴェステルナの街
●王女府
もともとはソーンにおける軍事拠点の一つであったこの建物は、現在は黒王女ヴェステルナの居城として改装されている。
双子都市ソーンの中でも小高い丘の上に建っており、壁や塔には黒王女の軍旗が掲げられ、その堂々たる姿を見せているが、主であるヴェステルナはこの建物にいないことも多い。
現在は王国軍のほか、黒王女の近衛騎士団であるアスター騎士団が常駐し、主の質実剛健な性格を反映してか常に訓練を続けている。
【黒王女近衛騎士団・アスター騎士団】
通称“ヴェステルナの盾”と呼ばれる、花と槍の紋章を持つ王女親衛隊。
彼らは黒王女ヴェステルナ個人に忠誠を尽くす若き騎士たちの集団であり、彼女が完全に自由に動かすことのできる戦士たちである。
彼らの多くは経験の浅い若い騎士たちで、これは王族直下の近衛が、もともと貴族の子弟たちが安全に経験を積むための学校のような一面もあったためである。
しかし現在、彼らはヴェステルナの唯一信頼できる子飼いの軍事力として、彼女の手となり目となって他の軍への伝令や治安維持などを担当している。
騎士団長は“鉄壁”クリュズが務めているが、これはほぼ名目上のものであり、実質的な業務は、筆頭騎士であるアリカが行っている。
●軍事拠点
双子都市の常備軍が詰めている拠点。広い敷地で多数の兵士が訓練を行っている。一般市民は立ち入ることができないが、その管理は実のところ曖昧で、傭兵を雇用するため、管理体制にほころびが生じていることは否めない。
常備軍は決して多くはないため、遠征などの際は諸豪族に動員をかけたり、傭兵を雇うことになる。
一方常備軍は、平時には訓練のみをして過ごす専業兵士であり、その数はおよ千人弱。
この軍事拠点では、通常の兵士のほか、ゴーレムを準備している。
ゴーレムの補修・整備を行う樹法使いも雇用されているが、新造についてはここでは行われていない。
【ソーンの治安維持】
ソーンには“王国軍”“市民軍”“近衛騎士団”があるが、近衛騎士団は両王女に仕えており、また、市民軍は平時には通常最小限しか召集されないため、平時の治安維持を行うのは主に王国軍である。
王国軍には東側と西側にそれぞれ管轄のある衛兵隊を組織し、門、および双子都市内の治安維持に当たっている。
捜査などを行う人数が限られているため、また、王国軍はソーン出身者以外も多数採用されているため、事情に詳しいソーン市民を手下として使っている衛兵も多い。手下の中には元犯罪者もいるという。
●軍港
東側の港は主に軍港として使われており、双子都市の擁する三隻の帆船のうち二隻が停泊している。
港には最も巨大な“海鼠号”が常に停泊しているが、この巨大な重ガレオン船は滅多に出撃しない。双子都市の海上防衛は、残る二隻である“飛象号”と“黒豹号”が交代で担当している。
二隻がローテーションするため、港には常に“航海を終えたばかりの”荒くれ海兵が存在し、彼らは市街地の酒場などで多くの俸給を使うことになる。海兵たちは気性こそ荒いものの訓練の行き届いた兵士であり、市民たちに歓迎されている。
現在、海の魔獣や海賊対策のため、追加の軍船を建造、乗員を訓練中である。
●貴族街
この優雅な雰囲気のある区画には、それぞれが四季折々の花を楽しむことのできる庭を持つ立派な豪邸が並んでいる。三階建てくらいの建物が多く、私兵を抱えているため兵舎を併設している場合も多い。
プロタ・リズマ貴族の他、成功した商人や議員、外国からの外交官、地方都市の豪族の別荘、軍団の将校、アリーナのチャンピオンなどが、この区画に居を構える。
現在の二人の王女が夜会、晩餐会などの社交を好まないため、貴族街のコミュニティではしばしば誰かの屋敷を舞台として、夜の会合が催されることがある。
【諸外国からの外交官】
通常、首都に置かれる外国の大使館だが、現在のプロタ・リズマでは首都だけではなく双子都市ソーンの貴族街にも同時に置かれている。
大使たちの行動が例えば衛兵などによって制限されることはないが、その監視対象にはなりうるため、多くの大使館では通常の外交ルートの他に密偵も雇用している。
大使の多くは貴族街や“一角獣の森”亭で情報を交換し、この不安定な状況をいかに利用するかを日々思案しているのだ。
●王立樹法研究院
かつて西側にもあった兵舎と訓練場は今は東側に統合され、その跡地は王立の樹法研究所として活用されている。
ぐるりと囲む高い頑丈な塀は、防衛よりもむしろ目隠しの意味合いが強い。と、言うのも、中で行われている樹法の実験、研究には、危険なものも含まれているからである。
時折聞こえてくる爆発音に、近隣住人は恐れをいだきながらも慣れつつある。
●ゴルゴーナ図書館
王女府のある丘の麓に白い石造りの建物がある。これが東部の図書館である。
図書館の蔵書量は決して多くはなく、最新の情報からは遅れがち。司書は予算の拡充を求めているが、王女府に届いているかどうか不明である。
結果として、知識階級の多くは白王女の新設した学園に移動してしまっている。
【図書館の噂】
ゴルゴーナ図書館は古の時代に「反逆者エルディール」が住んでいた住居後と言う噂話がある。
エルディールの亡霊が現れると言う話や、本が浮かんで移動していたと言う話や、地下にエルディールの研究室があると言う話が絶えない場所である。
実際、図書館の敷地は広大で、その地下には立入禁止の場所もある事から、噂話に拍車をかけている。
●広場 真鍮広場
大通りを接続する広場の中央には、巨大なゴーレムが周囲を睥睨するように立っている。有事となれば軍お抱えのエルダーレムがこれを制御し動かすことになるが、平和である限りは単なる待ち合わせの目印でしかない。
真鍮でレリーフを飾られたゴーレムの足元には、愛を語らう恋人たちや日向ぼっこをする老人、ちょっとしたものを売るバザーなどが集まっている。
軽食を売る屋台や大道芸人やちょっとした闘鶏、闘犬のギャンブルなどが人々の舌と目を楽しませており、町の人々の情報交換の場ともなっているようだ。
●広場 青銅広場
この大きな広場には、中央にモニュメントのようにやはり巨大なゴーレムが立っている。その装飾は青銅で、それが広場の名前の由来にもなっている。
青銅広場には、東部地区唯一の大教会が開いており、やや整った雰囲気がある。教会の僧兵が独自に警備も行っており、盗賊もこの広場で“仕事”をすることはめったにない。
そのため周囲には商店が立ち並び、双子都市で最も安心して買い物を楽しめる広場となっている。
●アリーナ
双子都市東側にある大きな開放型の闘技場。中央部は楕円形で、階段状の客席の収容人数はおよそ三万人から四万人。
千年以上前に建築されたこの建物はコンクリートと大理石でできており、周囲には緑地が確保され、催しのないときも露店などが並ぶ。
ここでは休日や祝祭日に腕自慢の剣闘士たちがショーとしての戦いを披露するほか、閲兵や演説会、スポーツ大会などの各種催事にも使用される。
剣闘士たちはみなプロの戦士であり、奴隷剣闘士などがいた歴史はない。上位戦士ともなればアイドルめいた扱いをされることも。
一対一の剣闘、拳をつかった拳闘、チームで戦う集団戦、古式ゆかしい騎槍試合、戦車による戦車戦、樹法を用いた樹法合戦など、戦士たちはさまざまな競技でその腕を競っている。
最近、ゴーレムを使った闘技が西側の“ちび宰相”メシュ・メシュから提案され、ヴェステルナもこれに乗り気であるという。
●東側・六骨市場
青銅広場と職人街のちょうど真ん中あたりの大通りが、東側の市場街となっているが、新鮮な食品や舶来品は西側の赤盾市場で手に入れた方が賢明だろう。
この六骨市場では、軍に納入された装備の払下げや余剰品が多く売りに出された結果、金属製品や武器の商店が立ち並ぶようになった。
ここでは主に剣呑なつるぎや槍、盾や鎧、銃器や火薬が販売されているほか、いわくつきの中古品、職人たちがこしらえた新式の武装が実験的に並ぶことも多い。
もちろん武器屋だけではなく、一般的な品物を商う店も並んでいる。
【長剣】
刀身が1ミル弱ほどの、最も一般的な直剣。両刃であることが多く、切り裂く他、鋭い切っ先で突き刺すこともできる。
火薬が登場した後も携行しやすく、象徴的な武器として広く用いられている。
価格は安いもので20タレルほどだが、名品逸品となれば青天井。
●職人街
双子都市では多数の職人が生活している。彼らが主に仕事をするのがこの職人街で、鍛冶屋、木工師、革細工師など多数の職人がここで昼夜を問わず腕をふるっている。
職人街は職人組合が牛耳っており、基本的に職人は小売りに携わることはない。販売は一度職人組合を通して仲買人が買い付け、商店に卸すのが普通だ。
この区画には個人経営の小さな工房のほか、最近は職人を集め雇用し効率よく製品を生産する大きな工房が現れはじめた。
●住宅地
双子都市の住人の多くは商店の店員や職人で、店や仕事場の他に住居を持つのがほとんどである。
この歴史の古い都市の城壁内部に自分の家を持つことが出来るのは、ごく限られた金持ちや貴族などで、それ以外の人々はほとんどが借家でその一生を終えることになる。
すなわち、長屋、あるいはアパルトマンと呼ばれる類の共同住宅である。
古い住宅のほとんどは石造りで、かしいだ部分をつっかえ棒で支えるなどしていることも多いが、新しく立て直されたものは焼きレンガに漆喰を使った白い壁の眩しい建物が多い。
どの家も、冬の寒さに対応するためにほぼ必ず暖炉を備えている。
●酒場 ”たぬき屋”
庶民に愛されるこの酒場は、双子都市でも最も典型的なタイプの酒場で、石積みの古い家を改築したホールはやや狭苦しい。二階には宿屋を経営しているが、部屋数は三つで、そのどれも一人部屋。泥酔して帰れない客をとりあえず寝かせておく以上の役割はあまりないだろう。
この店を亡夫から受け継いだ金髪の未亡人が、一手に切り盛りしている。彼女目当てに通う客も少なくないが、彼女の心にはまだ亡夫が住んでいるようだ。
●魔香街カプノ・ドゥエィス
取り壊せなかった旧城壁に、吹き溜まった埃のように広がる貧民窟がある。
その日暮らしの雇われ者や軍人恩給を細々と受け取り生活する元軍人、様々な場所から逃げてきた者達が住まう雑多な地域は、いつしかそこに煙る魔薬の香りから、魔香街カプノ・ドゥエィスと呼ばれるようになった。
裏町との繋がりも深く危険な場所と噂される一方で、家賃の安さに飛びついた錬金術師や悪徳にふける貴族の秘密の社交場もある。
一攫千金を求める者の家族もここに居を構えており、強い仲間意識で互いに寄り添い、旅立った者達の帰りを待っている。
【緋色兄弟団】
魔香街カプノ・ドゥエイスに根城を置く無法者集団。
団員はみな寄る辺ない孤児たちであり、一人の“親”に率いられていると言われるが、その詳細は不明。暗殺教団の下位組織であるとも噂される。
官憲のみならず裏町の盗賊組合もまた彼らを敵視し、時にはこのギャング団に対抗するため手を組むことすらあるほどに、世界から捨てられた彼らの行為は非道を極める。
末端の構成員を何人捕えても、彼ら緋色兄弟団を根絶することはできない。
世界に対する彼らの不満と絶望は察するに余りあるが、しかしだからと言って、彼らに殺された者が生き返ることはないのである。
●虎杖門
この巨大な門は、双子都市建設の当初からほぼ変わらずその威容を保っている。
門の両脇にはひときわ大きな大理石のゴーレムが、なかば門に埋まるように立っており、黒王女の旗がいくつもはためいている。
現在、城門はほぼ常に開かれており、周辺や諸国からの商人や旅人がひっきりなしに行き来しているが、これは黒王女ヴェステルナの東征が成功に終わったためで、発展期にある証でもある。
農作物を満載した荷馬車が、それをタレル銀貨に変えるために訪れ、また、銀貨を外国からの輸入品や食料に変えたい近隣住人や、あるいは一時の安息と娯楽を得るために訪れる旅人が、この門をくぐる。
主に王国軍兵士がこれを監視し、出入りを帳面で管理しているが、急激な仕事の増加によりパンクしがちで、望まれぬ者が街に入ることを止めることができていない。